米国のいじめ対策の一例

1997/9/27/土 掲載記事

いじめは、海外でも大きな問題。米国ではいじめ被害をなくすために、生徒や親を巻き込んださまざまな対策が進められている。教育の現場でどれだけ成果を上げているのか、先ごろ「アメリカ発いじめ解決プログラム」(実業之日本社)を出版したジャーナリストの矢部武氏にリポートしてもらった。

 

オハイオ州の小さな町ザネスビルにあるパイオニア小学校では、深刻ないじめ問題をかかえている。私はいじめ対策に取り組み始めた同校の6年生のクラスを取材した。教室の黒板の横には星条旗が、後ろにはバスケットボールのリングが。備えつけてあり、いかにも   米国らしい。

 

いじめ原因の自殺も

いじめセミナー講師のトム・ブラウン氏がまず生徒たちに、「いじめとは何ですか」と尋ねる。すると、生徒たちから「理由なく殴られたり、蹴られたりすること」「悪口を言われたり、からかわれたり、仲間はずれにされること」などの答えが次々に返ってくる。

続いてブラウン氏は「いじめはどこで起こりますか」「他の生徒がいじめられるのを見た時、何をしましたか」「他の生徒をいじめた経験、あるいはいじめられた経験のある生徒は?」などの質問をどんどんぶつける。

最初は心を閉じていた生徒たちも、自らのいじめられた体験を語りながら質問してくるブラウン氏にしだいに心を開いてくる。

「米国には   いじめは存在しない」と思っている日本人は少なくないが、米国教育省の調査では小学6年生から高校3年生のうち8%が「いじめの被害にあった」と、また16%が「被害にあう恐れがある」と答えている。日本と大差ないことがわかる。いじめを原因とした自殺も日本と同様に深刻だ。

このような状況を改善するために米国では、いじめの被害者、加害者、傍観者、学校の教職員、生徒の両親などを巻き込んだ解決プログラムが次々に開発され、多くの学校で導入されている。

ブラウン氏のセミナーを受けることで、生徒たちは「学校内からいじめをなくすために何をしたらいいか、自分に何ができるか」     を真剣に考え始める。しかしこれだけではいじめはなくならない。頭では「いじめはよくない。自分も何かしなければならない」とわかっても、実際にいじめの現場に直面した時にそれを実行できるとは限らないからだ。

 

生徒同士で問題解決

そこで実際にいじめの場面を設定して、生徒たちが個々にいじめの被害者、加害者、傍観者の役割を演じることで対応法を身につけさせるロールプレイ(役割演劇)や、生徒のなかから調停員を選んで生徒同土でトラブルを解決させる仲間調停法などの実践トレーニングが必要となってくる。

カリフォルニア州オークランドにあるカルヴィン・シモンズ中学校(生徒総数約1200人)は5年前から仲間調停法を導入し、大きな効果をあげている。学校内でいじめなどが発生すると、被害者と加害者の双方に調停員がつき、当事者といっしょに問題を解決する。

いじめの加害者が謝り、被害者がその謝罪を受け入れれば、双方の調停員が両者を仲直りさせて握手させる。調停員はこのあと、リポートを書いて。フログラムの責任者に渡し、さらに追跡調停として数週間後に再び被害者と加害者を会わせ、「二度といじめません」    という加害者の約束がきちんと守られているかどうかを確認し、その結果を報告する。約束が守られない場合は、調停員は責任者と相談して次の対応を考える。

 

傍観者にも実践訓練

私は同校の8人の調停員にインタビューしたが、どの生徒も中学生とは思えない落ち着きと自信を備えていた。いい子ぶっているばかりでは調停員は務まらない。調停員はさまざまな経験を積むことで他の生徒からの信頼を得ると同時に、彼ら目身も人間的に大きく成長していくようだ。

この他米国では、「傍観者がいじめ問題解決のカギを握っている」との考え方にもとづき、生徒全体の約85%をしめると言われる〃沈黙の傍観者”を〃行動する傍観者”に変えるための実践トレーニングなどが行われている。

日本では相変わらずいじめ自殺が斯聞紙面をにぎわしているにもかかわらず、具体的な解決策を打ち出せないでいる。学校の校長や担任の先生の対応に絶望しかけている被害者の親たちは、米国のいじめ対策に目を向けるのも一つの方法かもしれない。