ホームスクール

 

学校に子供を通わせずに家庭で教育するホームスクール(在宅学習)。米国では二百万人を超す子供たちが学んでいるといわれるが、日本ではまだまだなじみが薄いホームスクールを広めていこうという民間団体が発足した。不登校の小中学生が十三万人を超すなど「学校不適応」現象が拡大するなか、今後の行方が注目される。

 

七月末、東京都内で「日本ホームスクール支援協会」(理事長・成田滋兵庫教育大教授)の設立記念講演会が開かれた。同協会は、ホームスクールの普及・支援を目的に六月に発足した民間団体だ。

 

「自分探しの学習を」

冒頭あいさつに立った成田理事長は、「教育に対する人々の考え方が変わり学校の存在が問われている。学校以外の学びの方法を作り出すのも教育改革だ。学ぶ者が主役となり、他人と競争して学びあうのでなく、自分探しの学習が大切」と強調した。

続いて、副理事長の秦明夫・埼玉工業大学教授が講演した。「日本では学校による教育の独占が続いてきたが、子供の教育の責任は親にある。これからは、教育の私事性、つまり自分の子供の教育は自分で決めるという自己決定権が大切になる。学校とは近代に開発された制度で、非常に有効で効果的な教育方法だった。近代的な社会の発展に不可欠だったし、学校が教育を独占することで国民の教育水準は格段に上がったが、現在の視点から学校を見る必要がある」

「学校不適応といわれるが、不適応を起こしているのは子供たちばかりではない。学校が子供たちへ不適応を起こしている。学校という一つの制度では、すべての子供には対応できなくなってきている。学校という組織を支えてきた時代精神が変わった。すべての子供に教育は必要だが、学校制度がすべての子供に適しているわけではない。米国の例を参考に、日本独自のホームズクールを広げていきたい」

両氏の発言に共通するのは、学校だけが学習の場ではない、学校は今の時代に合わなくなっているという強い思いである。

同一年齢の子供たちが同一内容のカリキュラムをいっせいにこなす学校制度は、きわめて効率的な教育システムであった。しかし、価値観の多様化が進み個性尊重がますます重要視される社会に育った子供たちが増えてくると、こうした画一的な学校システムに対する異議申し立てが増えるのは避けられない。

 

不登校、過去最高に

その象徴が不登校の児童・生徒の増加だ。文部省の学校基本調査速報によれば、一九九九年度の不登校の小学生は二万六千四十四人、中学生は十万四千百六十四人で合計十三万二百八人だった。前年度比の増加率は小学生で0.1%、中学生で2.4%と、九八年度の25.3%20.0%から大幅に鈍化したとはいえ、人数では過去最高。特に中学生では、ほぼ四十人に一人に当たる二・四五%が不登校という深刻な状況にある。

授業がまともに成立しない学級崩壊現象の拡大も、子供の気質と学校のシステムの不適応が大きな要因として指摘されている。一方で学校は、今の画一的なシステムのままでは独創的な人材やリーダーが育たないといった厳しい批判にもさらされている。たとえば、小湖恵三前首相が設置した「二十一世紀日本の構想」懇談会が、「百年の教育の成功は日本の近代化、工業化に必要な高度で均質の人材を大量に供給した。しかし、この国民教育の大成功がいくつかの問題点を生み出している。工業社会からポスト工業社会に移る中でそれを支える先駆的人材が育ちにくいことだ」と指摘して、"脱・学校論"ともいえる義務教育週三日制の大胆な提言をしたのは、その典型例といえる。

中央教育審議会や教育改革国民会議が、学校選択の自由化や飛び入学、義務教育開始年齢の弾力化、コミュニティースクール構想など、学校制度の柔構造化を促す改革策を相次いで打ち出しているのも、こうした批判に対応したものだ。

 

実態はまだつかめず

学校教育法は、親は子供を小中学校に就学させる義務を負うことを明記している。ホームズクールにはこのような法律上の問題をはじめ、在宅での学習で学力や社会性がきちんと身に付くのか、親が負担に耐えきれるのかといった、多くの懸念や疑問が依然として残っている。日本にも一部の家庭がホームスクールに取り組んでいるものの、全国でどの程度の数に上るのかなど、.実態は不明だ。

しかし、学校が抱える様々な矛盾や欠陥が明白になり、学校システムそのものに対する信頼感が揺らいでいる。支援協会副理事長を務める日野分三・アットマーク・ラーニング代表取締役は「我が子の不登校に悩む親などを中心に、ホームスクールに新しい教育の可能性を見いだす人々は少なくない」と指摘する。インターネットなど新しい情報技術の発達も在宅学習の追い風になりそうだ。講演会でも、ホームスクールを実践している千葉県在住の講師の話に熱心に耳を傾ける保護者の姿が見られた。

「学校ができるまでは家で子供を教えていた。ホームスクールは決して目新しいものではない」(成田理事長)。子供の教育に責任を持つべきなのは、国か、学校か、教師か、それとも親なのか---。ホームスクールが広がれば、学校教育万能主義に対する根源的な問いかけになるのかもしれない。

(編集委員 横山 晋一郎)

 

米国のホームスクール事情について、ホームスクール法的擁護協会(HSLDA)の上級弁護士、クリストファー・J・クリッカ氏に聞いた。

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米国では二百万人の子供が在宅で学んでいる。基本的道徳観が崩壊、あるいは失われつつある中、ホームスクールは家族のつながりを強くし、家族が社会の核心であることを認識させ、一緒に学習する家族は崩壊しないことを教えてくれる。子供の個々のニ-ズに合わせ、学力も道徳も高められる。親が子供と一緒にいる時間が長くなるのも長所だ。

統一学力試験の結果をみると、ホームスクールで学ぶ子供たちは、すべての教科において分教育の学生を上回っており、親の最終学歴や、収入、学生の男女差、人種といった条件に左右されることはない。有名大学への進学実績も多い。親が教員資格を持っているかどうかも関係ない。子供を愛し自分を犠牲にしてでも子供を教えようという親がホ-ムスクールを始めるからだ。

社会参加活動も盛んで、社会性・適応性を調べるテストでも高得点を得ている。社会適応が話題になるが、適応にはいい適応と悪い適応がある。学校で悪い友達に適応しても何のプラスもない。

ホームスクールをしている家庭の八割は、両親のいずれかしか働いていない。それだけ子供の教育に関心を持っているのだ。

2000(平成12)812(土曜日)