親たちの学級崩壊
先生の話は聞かずに友達としゃべる、授業中でも教室を歩き回る1-。子どもたちの「学級崩壊」が問題になっているが、実はこれ、親の話だ。現場の教師によれば授業参観などに出席する親の行動は、まさに自己中心。自ら申し込んだはずの市民講座などでも、講義に支障が出るほど。子どもの行動をうんぬんする前に、まずは親たちの意識改革が必要なようで……。
◆参観日は社交場
「先週行ったレストランよかったわよ」「ほらO○ちゃんの隣がうちの子」----授業参観の日、母親たちが廊下でぺちゃくちゃ、教室でヒソヒソ語し出す。「廊下で話すだけまだまし。周囲を気にしてのヒソヒソ声も集団になると普通の声以上に響く」というのは東京都世田谷区に住む主婦A子さん。
教室で先生に背中を見せて話す。保護者で混む教室の後ろを避け、教師の前を通過して知り合いのところへ行く。携帯電話が鳴ることもしばしばだ。東京都内の小学校の教師は「学年全体の参観日は、前のクラスの保護者にも会えるので同窓会のよう」と証言する。
A子さんは勇を鼓して話している親に闘いてみた。「どうして話すの」。返事は「授業つまんないんだむの」。仲の良い親同士でグループを作っており、参観終了後もおしゃべりの続きに花を咲かす。
横浜市のある小学校ではとうとう児童が校長に訴えた。「先生、お母さんに静かにするように言って」。
学校使リと保護者会で注意を促したところ、さすがに静かになったという。
◆見えるのは我が子だけ
入学式、運動会、学芸会などの行事をビデオや写真に収めるのはお決まりの光景。運動会や学芸会は前の晩から〃場所取り"の保護者が校門前に列を作るのも珍しくない。開門と同時にいい場所を目指してダッシュする姿は「コンサート会場に向かうフアンのよう」(世田谷区立小学校の教師Bさん)。
入学式では入場する子供に寄り添い、運動会では来賓席やロープの内側まで入り込む。学芸会でも舞台前の一番いい席でフラッシュをたきビデオを回す。ところが、我が子の出番以外は興味なし。「最前列に陣取って雑談。拍手もしないから目立つ」(東京都練馬区の幼稚園児の母親C子さん)。このごろは授業参観にもビデオが登場、授業そっちのけで机と机の間の通路にまで入り込む親もいる。
◆学ぶ立場もわきまえず
大阪市のある料理教室では受講生の雑談で講師の説明が聞こえないことがある。「とても無邪気で実習は楽しんでいる。聞いていないから失敗もするんですけどね」と講師の一人。
講義中ジュースを飲んだり、実演している講師の前を横切って中座する受講生もいる。「受講料をもらっているから強く注意もできないし。こういう人たちに限って何度も受講してくれたりする」と職員は苦笑いする。
「遅刻が多い。三十分、四十分は当たり前。罪悪感もなく入ってくるし、聞き逃したところを遠慮なく質問してくる」というのは、大阪市が主催する市民講座の講師Dさん。再就職・起業をテーマにした女性向けの講座ではグループで参加した主婦らのおしゃべりが止まらず、他の受講生から苦情が出たことも。「周囲の迷惑などおかまいなし。いったいどんな心構えで来ているのか」と憤る。
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自己中心的、落ち着きのなさ……。親と子の行動に差はない。京都造形芸術大学の野田正彰教授(比較文化精神医学)は「八O年代後半からこの傾向が見られたが、現代は知識だけは大人並みのませた子供と、精神的に大人になりきれない親の時代」と言う。
若い観世代は戦後の核家族、少子化の中で大事に育てられ、苦労もせず、限られた人間関係の中で成長してきた。そのため社会には多様な立場の人がおり、その場の状況に応じて自らも振る舞いを考えなけれはならないといった、社会生活に必要なマナーや知恵が身についていない人が多い。
親の姿勢は良くも悪くも子どもに影響する。野田教授は「世代間の差を意識しない『一卵性親子』の行きつく果て」と手厳しい。
育児文化研究所(東京都練馬区)の丹羽洋子所長も「今の親は子育てには真剣だが、人とのコミュニケーションが下手で、常にだれかとつながっていないと不安。限られた人にしか配慮できない」と指摘する。
高度経済成長の中で、いい学校、いい会社に入るための勉強が重視されるようになり、地域社会も崩壊。集団の中での人間関係やルールを身につける機会が減った。「親の"学級崩壊"も構造的な問題」と丹羽所長。「社会全体で親を育てる仕組みを考える時が来ているのではないか」と言いつつも、「具体的な方策はまだ見えてこない」と顔を曇らせる。
1999/6/10/木