先進各国が抱える教育課題
学歴と雇用の門係薄れる
経済協力開発機構(OECD)はこのほど、「エデュケーション・アット・ア・グランス(目で見る教育)」(九六年版)をまとめた。加盟29国の教育事情をグラフや表を使い、視覚的に分析した〃教育白書〃だ。執筆に携わった教育専門家(N・ボタニ氏とA・シュライヒャー氏に先進各国が抱える教育課題などを聞いた。
出生率低下と教育熱
OECDは60年代から各国教育制度の分析・研究を始めた。57年、ソ連が人工衛星の打ち上げに成功、西側諸国に衝撃が広がったのをきっかけに、科学を担う人材の育成に効果的な教育制度を探ろうというのが出発点という。
シュライヒャー氏によると、今、加盟各国の問では教育問題を巡り、「互いに相殺するような、二つのことが同時進行している」。一つは、出生率低下による学齢期の人口減少。これは教育への公的支出負担を援和する方向に働く。一方、高学歴志向や社会人の大学院入学熱の高まりなどで、生涯教育を担う高等機関の役割は増大している。その結果、「先進国では、教育の総量だけを考える時代は過ぎた。個別の施策に見合う、効果的な教育制度が求められている」(同氏)。さらに、各国で行政改革の世論が盛り上がる中、教育に何を求めるのか、教育予算が効率的に使われているか、厳しい検証が求められるようになった。
各国政府や教育関係者に、他国の教育施策などを示し、自国の施策を国際的視点から評価するのに役立ててもらおうというのが、同書の基本的な狙いだ。
今年は、各国の教育コストや、生徒数や授業時間、教師の給料など学校をめぐる状況、若年層の失業問題などを取り上げた。
「成果」は日韓トップ
教育コスト(数値は93年)は、企業や財団など私的機関の教育への出費と公的な教育予算を合計し、GDPと比較した。トルコの3.3%から、7%以上のカナダ,デンマーク、ノルウェーなど、ぱらつきが出た。日本は4.9%で、各国平均の6.1%を下回った。ただ、この数値は「家庭の出費」を含んでおらず、この割合が大きい日本や韓国などは、実際はもう少し高いとみられる。
教育費用をだれが負担しているかを比べたところ、フィンランドや伊、トルコなどでは99%を国など公的機関が占めるのに対し、日本や韓国、独、米では私的機関が20%を超jしている。私的機関の内訳では、ドイツは企業が、日本と韓国では家庭が一位だった。
教育への「投資」に対する「成果」を、13歳生徒の数学と理科の成績(94−95年)でみると、韓国と日本が抜きんでている。両国の義務教育に対する加盟国の関心は強く、生徒全体の成綬を底上げし、生徒間格差を縮小することが、各国の重要な政策課題になっているという。
男女別に見てみると、数学では比較的各国とも性差が縮まる傾向にあるが、理科では〃男子優位〃の傾向が見られた。ノルウェー、露、米では男女差は比較的小さいが、日本、韓国は数学、理科ともに性差が大きい。
教師の高齢化進む
多くの国で教師の高齢化が急速に進んでいることも指摘された。教師の給与水準を中学校の初任給で見ると、独、アイルランド、スペイン、スイスは比較的好待遇だが、ノルウェー、スウェーデン、米は低水準。全般的に待遇面の魅力が薄れている。「特に数学と理科では待遇が良い民間企業への就職を希望する傾向が強く、高齢化の一因となっている」という。
両氏は、「教育を受けるほど雇用の機会は増える」という従来の〃常識〃は、ヨーロツパ諸国ではすでに崩れつつあるとも指摘、「高学歴は、もはや成功へのパスポートではない」と語る。特に懸念されるのが、若年層の失業率の増加で、加盟各国はOECDを舞台に教育制度のあり方を議論し始めたという。
一方、ボタニ氏は「教育分野における日本のOECDへの貢献度は低いといわざるを得ない」と苦言を呈する。シュライヒャー氏は、「韓国などがOECDを通じて他国の教育制度に強い関心を示しているのに対し、日本の教育行政に関する議論は国内だけで完結しているようだ」と話す。
例えば、日本は、OECDに対する基礎的データの提出率が低いのだという。確かに、同書の日本の欄には「ミッシング(データなし)」が多い。「文部官僚が国際的観点から教育行政を議論したり、OECDが示す枠組みを政策決定に利用することは極めて少ないと感じる」と指摘する。
現在、日本国内では教育改革を巡る論議が高まっているが、国際的な視野も入れた改革論議の必要性を、両氏の指摘は示唆しているとも言えそうだ。
(社会部 高橋 香織)1997/3/9/日 掲載記事
A・シユライヒャー氏
OECD教育局統計・指標部門主任研究員。64年ドイツ生まれ。オ−ストラリアデーキン大数学修士。エデュケーショナル・アチープメント国際協会(オランダ)などを経て、九六年から現職。
N・ポタニ氏
OECD教育研究改革センター主任研究員。40年スイス生まれ。スイス・フライプルク大教育修士。小・中学校教諭、スイス政府教育研究員などを経て76年から現職。