道徳の授業の充実

2000/6/23/

 

少年による凶悪事件などが起きるたびに強調されるのが道徳の授業の充実だ。文部省も「命の大切さ」の指導を強化するよう各学校に要請したばかりだが、道徳の授業は他の教科や学校行事に振り替えられるケースも多く、全国の小中学校の平均では、学習指導要領で定める標準時間数に達していないのが実情だ。そんな中、東京都は道徳授業を地域住民へ公開する取り組みを進めている。保護者らとの意見交換を通じて授業の質を高めようとする試みだ。

 

児童上回る1200人参加

今月十七日。東京都練馬区立開連第一小学校の一年から六年生までの全学級で、一斉に道徳の公開授業が行われた。土曜日とあって、児童数を上回る約千二百人の保護者らが集まった。

授業前に、担任が教材のコピー、指導の狙いや授業の進め方などを要約したメモを保護者らに配布する。授業が終わった後に学校側と保護者が、望ましい授業の在り方などについて話し合うためだ。四年一組の土屋信行教諭は、台風で海岸に打ち上げられたクジラを救助した子どもたちの話を教材に取り上げた。

クジラが海へ帰ってゆく姿を見送る子どもたちの心情について、児童に発言を求めると「努力が報われた」「台風なんかに負けるな」「クジラが帰ってしまって少し寂しい」など様々な意見が出た。

土屋教諭のこの日の授業のポイントは、「生命の尊重」という抽象的な規範を、児童の発達段階に応じて考えさせることだった。「生命って大切だな、と思ったことはある? それはどんなときだった」。授業の最後に、十分間程度時間をとり自由に記述させたところ、ある女の子は「かなしいとき、うれしいとき、たのしいとき、こんな気持ちになれるのは生きているから」と感想を述べた。

公開授業の終了後、学校の図書室に保護者と教育委員会の指導主事、学校長らが集まって、授業に関する意見交換会が行われた。

 

親たちに課題指摘も

「モラルをめぐっては保護者でも世代間ギャップがあるようだ」「首をかしげたくなるような親に対する教育こそが大切。学校がこうした家庭に関与することはできるのか」との問いが保護者からあった。この発言を引き取ったのは、PTA関係者だった。新築マンションなどが建ち、人口流入の多い地区では地域行事の運営が難しくなっている事情を説明。価値観の共有は、むしろ親たちが地域の触れ合いのなかで解決すべき課題だと指摘した。

「一コマの授業では教材の理解が中途半端になってしまう。集中授業を行っては」との提言のほか、「道徳の授業では、結論が出ないテーマもある。親として助言に悩む」との感想もあった。「普段の授業で子どもたちが話し合ったことを、家庭でも深めて欲しい」と坂本辰三校長はいう。

 

少年時代を回想も

意見交換金で、元全国小学校道徳教育研究会会長の荻原武雄さんは「教師が満足する授業を行ってもチャイムが鳴った瞬間、子どもたちはすぐにケンカする。これを"道徳の授業むなしさ論"という」と話し会場を笑わせた。子どもの道徳心は生活体験に基づく心の葛藤(かっとう)を通じて形成されるといわれる。教材で他人の葛藤を疑似体験させることの多い学校教育に、限界があるのも事実だ。

「クラスの中で、自分が育てていたアサガオだけが発芽せず、落ち込んだことを思い出した」。「いじめに加担したこともあったかな」……。授業中、少年時代を回想した保護者の感想だ。

公開授業の主目的は道徳授業の活性化にあるという。が、その狙いはむしろ、道徳は家庭教育の領域であることを保護者に認識してもらい、実生活での我が子の葛藤を受け止められる存在になってもらうことにあるようだ。