かわいい動物なぜ虐待
1997/10/15/水
神戸逮続児重殺傷事件を機に、子供たちによる動物虐待の問題がクローズアッブされている。やり場のない怒りをウサギや猫などに向ける子供に、専門家は何を見るのか。いくつかの角度から検証してみた。
◆動物病院から
神奈川県のある動物病院院長は、昨年から今年にかけて子供に虐待された2匹のペットを治療した。1匹はコンパスで何カ所も刺されたモルモット、もう1匹は意図的に数度踏みつけられた猫だった。
「母親に聞くと、いずれも子供が欲しがって飼った動物で、普段は非常にかわいがっているという。子供はおとなしくて、反抗的なタイプではなさそうだが、極端に残酷なふるまいに走るのを見ると、計り知れない欲求不満がたまっているのだろうか、と考えてしまう」
埼玉県の動物病院には昨夏、手足を輪ゴムのようなものでぐるぐる巻きにされた形跡のある室内犬が主婦に連れられてやってきた。この犬は過去にも骨折やカッターによる耳の切断で来院したことがあった。
「こうした被虐待ペットが近ごろ目につく。子供の行為とは断定できないが、家庭の中で虐待が繰り返されるという例は、かつてはなかった。だれも止める人がいないのか、非常に気になる」と院長は漏らす。
◆心理学者らの見方
子供の心身疾患に詳しい小児科医の三好邦雄氏は「一部の子供たちには、どうも〃かわいい”という感情が欠如しているのではないか」と話す。
小さいときから緊張感を強いられた生活をし、兄弟が少ない環境では、他者への愛情や優しさが育ちにくい。「彼らにとって、かわ いさとは見た目だけ。学校のウサギをかわいいと思っても、いざ自分が飼育係になると、邪魔で汚らしいものと感じてしまう」
東京学芸大学付属教育実践総合センターの助教授、小林正幸氏(臨床心理学)は子供の攻撃行為の対象の変化に注目する。 「1970年代の校内暴力では、その標的は学校や教師であり、集団で行われた。その後、いじめ自殺、動物虐待問題へと移行するにつれ、矛先はより弱い者へ、手を下す人数も数人から個人へと規模が縮小している」
この要因の一つとして、小林氏が挙げるのは、親の〃孤立した子育て”だ。「今の小学生の親たちは児童期に集団遊びをあまり経験せず、地域社会とのつながりも薄いままに育った世代。子育てに関しても親同士のつながりがない。不安な気持ちを抱いたまま体裁ばかりを整え、本音で子供に接していない」
不器用な親に育てられた子供たちは、親と安定した信頼関係が結べない。それは人間関係全般にも及んでいると小林氏。「人に対して百パーセント心を開けないという不快感が、弱い動物に向けて爆発する」とみる。
東京の精神科医が冶療した小学2年生の男児は、父親に甘えようと寄り添った時に「まとわりつくな」と拒絶されて以来、かわいがっていた飼い猫をバットでたたくようになった。母親も2歳の妹の世話にかかりきりで、この男児に目をかけてやることは少なかったという。
「セラピー(糟神療法)を続けて浮かび上がってきたのは、親に本音を言い出せず、常に顔色をうかがう日常生活。彼にとって猫は気分次第でかわいがったり、いじめたり、自分の感情を承つけられる唯一の対象物だったのでしょう」とその医師は語る。
◆親がすべきこと
では、虐待行為を目の当たりにして、親は、どう対処すべきなのか。「この時こそ本音で接して」と專門家は口をそろえる。 「発見したら怒りでも、悲しみでもいい。まずその時の感憎を思い切りぶつけること」と東京学芸大学の小林氏。そして「こうした行為はいけないことだ」というメッセージを含めながら、「なぜ、そんなことをする気持ちになってしまったのか」と問いかけることが大切だという。
大抵の場合、子供はそのやり場のない怒りの発生源を、はっきりとは認識していない。だからこそ、対話を通じて、どれだけ感情を引き出せるかが、心の中にくすぶる不満を解く手がかりになる。
東京都精神医学総合研究所副参事研究員の高橋祥友氏によれば、自殺を図る子供のサインの一つとして、小動物を虐待するケースもある。「動物虐待は、肉体的にも精神的にも、親に守られていない子供たちの、救いを求める叫びなのです」と強調している。