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21世紀の学校像を探る
広島大学で11月,OECD/CERI(経済協力開発機構・教育研究革新センター)と文部省の共催による,明日の学校教育をテーマにしたセミナーが開かれた。広島大学の二宮浩教授(教育開発国際協力研究センター長)にセミナーの討議内容を寄稿してもらうとともに,来日したOECD/CERIのヤール・ベングソン参事官とデビツド・イスタンス主任に話を聞いた。
11月5日から7日までの3日間,広島大学で開かれたセミナー「明日の学校教育」には,24の国・地域から58人が参加した。
3つの基本的課題
セミナーの目的は,OECD加盟諸国における21世紀の学校のあり方を予見させる革新的な学校改革や実践的試みの中から,明日の学校に求められる特性や要件,あるいは検討すべき重大な課題を探ることにあった。
58人の専門家が広島に会して討議する「現実の国際会議」と,学校革新プロジェクトに関係している英国,米国,オーストラリア,スウェーデン,オランダなどの約20人の專門家がインターネツト(電子メール)を利用して意見を述べるなどの「バーチャル(仮想)国際会議」の,2つの国際会議が同時並行的に行われたのも,このセミナーの大きな特徴であった。
討議はきわめて多岐にわたる多様なものであったが,最も基本的な課題として次の3つをあげることができる。
第一の課題は,伝統的な学校はどこまで存続しうるか,その役割はどうなるのかという問題である。諸外国では「在宅学校教育(ホームスクーリング)」が盛んになりつつあるが,学校教育修了資格が在宅学校でも取得できるとすれば,通学型の伝統的な学校はどうなるのか。二つの学校は教育政策上どのように調整すべきか。国民の間に伝統的な公的学校への信頼感が低下する傾向があるとすれば,21世紀の学校はどうなるのか。公的学校システムの根幹が問われることになる。
第二の課題は,21世紀の学校は情報化・国際化が急激に進展する中で,情報通信技術をどのように活用すべきかという点にある。インターネツトを利用する学校ネットワークが形成されつつあるが,そうなると学校(組繊,教師,カリキュラムなど)はどのように変質することになるのか。
仮想学校の出現
その際,重大なことは,教師の役割が「教える人」から「生徒の学習を支援する人」へと変化することであり,また生徒も単に「教わる人(知識の消費者)」にとどまらず,「知識を作り出す人」にもなりうる,という本質的転換が起こりうることにある。知識は記憶し,暗記し,再生するものではなくなる。知識の再生は,CD−ROMなどの情報技術がいつでも可能にしてくれる。学習の中心は,創造的に思考し,問題を解決する力,生涯を通じて学ぶ力などの育成にシフトすることになる。
さらにバーチャルスクールあるいはデジタルスクールなどインターネツトの中での仮想学校が出現している。だれでもこの仮想学校を開設できるし,だれでもアクセス・就学できる。このような仮想学校は21世紀には急激に増大することが予想される。それは,伝統的な学校の役割をどう変質させることになるのだろうか。
すでにカナダ(アルバータ州)では,伝統的な学校(私立)がインターネツトを通じて他の地域や州の子供にも学校教育の機会を開いているという。この学校では,登録する生徒の半数はインターネットを通じて学ぶ生徒である。いずれにしても,情報通信技術箪命と国際化は,間違いなく明日の学校教育の様相を一変させるに十分なインパクトを持つものである。
地域と共に学ぶ
第三の課題は,明日の学校は地域の中の学校として地域のリソースを最適利用し,地域との連携を確立し,地域に開かれたものとなる,という点である。例えば,「教員」は地域の専門家であってもいい学校(イギリスではこうした専門家が教える新しいタイプの学校をSpecialized Schoolと呼んでいるという),学校の敷地の外で生徒が学ぶ学校,地域の人々と共に生きることを学ぶ学校,インターンシップ学習やボランティア学習を推進する学校など,明日の学校の要件はテクノロジーなどと並んで「地域と共に学ぶ学校」ということになる。その場合,学校の名称も,例えば地域学習センターなどに変化するかもしれないという見方もある。
世界では今まさに21世紀を目前にして「学校」のコンセプトが挑戦され,再考されようとしていると言っても過言ではない。今後,OECDの場を通じての,この問題に関する研究討議の成果が待たれるところである。
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---OECDが教育問題を扱うのはなぜか。
ヤール・ベングソン参事官
OECDは基本的には経済問題を扱う機関だが,現在は教育が最優先課題の一つだ。理由は三つある。第一に教育は各国の経済競争力を左右する童要なカギであること。第二に,失業対策。第三は社会的混乱や差別をなくし,社会的一体性を実現するのに重要な要素であるからだ。こういった問題に対応するため,OECDは現在生涯学習に焦点をあてている。生涯学習に学校が果たす役割は大きい。学校は生涯で最初の学習のステップであり,卒業後も自分の学習が続けられるかは,学校にかかっているからだ。
デビツド・イスタンス主任
かつて生涯学習は大人の学習だけを指すと考えられていたが,今では学校と大人の学習の両方と考えており,教育政策も,学校は生涯学習の始まりになるかどうかで考えられている。学校に対する社会の期待はますます高まっており,今後各国で,学校の在り方はますます重要になるだろう。
----学校の課題は。
ベングソン氏
3点が指摘される。第一は必修カリキュラム。これは読み,書きをしっかり教えるといったべーシツクなカリキュラムだ。第二は,問題解決のために色々な科目を総合的に使うクロスカリキュラム。第三は,学習を続けるモチベーションを身につけさせる教育だ。
イスタンス氏
各国で今,問題になっているのは,べーシツクなカリキュラムが評価の基準になっていることだろう。これからは,第二,第三の課題が学校の良さを評価するのに重要になる。広島セミナーでは,こうした課題に対処するため,新しい教育方法や,地域社会との取り組みを始めた例が紹介された。
今まで学校は,学校の中だけで評価されてきたが,これからは学校と外の世界との関係が焦点になる。例えば,失業,雇用の問題に学校がどのように取り組めるかと言ったように。
ベングソン氏
学校システムは柔軟ではなく,社会の発展についていけない。これを社会の発展についていけるようにしていきたい。
イスタンス氏
社会の発展に対応するためには,危険を冒してでも学校は変わろうとする方向性が必要だ。
----日本の教育について。
ベングソン氏
日本の教育はうまくいっているが,ある意味では他国の方が優れている。例えば米国では地域社会や学校への分権化が進んでいる。
イスタンス氏
各国では失業問題の面から,教育に焦点が当たっている。日本もいつまでも失業水準が低い状態が続くわけではないことを指摘しておきたい。
(聞き手は編集委員 横山 晋一郎)
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