どうも様子が変一年生

 

落ち着かず暴力も一・・先生困惑

「このごろの小学一年生は落ち着きがない」「どうも様子が変だ」。教育関係者の間から、こんな声がもれてくる。授業中でも堂々と遊びをする子、気に入らないと友達に平気で暴力をふるう子。度を過ぎた一年生のわがまま行動に問題を感じ、対処法の研究を始めた教師グループさえある。この”小一プロブレム(間題)”は、小学校への不適応症状との見方もあるが、果たしてその実情は。

 

平気で席を離れる

「授業中は自分の席に座っていましよう」----。もう2学期だというのに「いまだにこんな注意をしなければいけない」と埼玉県の公立小学校で一年生を担任するベテラン教師はため息をつく。小一の担任はもちろん初めてではない。だが「これまでなら学校生活に慣れるに従い、わがままな行動は鳴りをひそめたが、今は治まる気配がない」。

ある日など、算数の授業でおはじきを使って足し算を勉強していたとき、お絵かきに没頭している女の子を発見。「おはじき出そうね」とやさしく注意したら「今は絵をかきたい」と悪ぴれた様子もなく答えた。「授業中、先生の目を盗んで席が近い友達にちょっかいを出す例は昔もあった。でも今は私の目の前で平気で席を離れるし、友達とおしゃべりをする」と嘆く。

「小学一年生の異変を現場の教師が口にするようになったのはここ2〜3年」と指摘するのは教育評論家の尾木直樹氏。いじめをテーマに全国を講演して歩くが、特に今年に入ってから行く先々で一年生問題を耳にする。「友達と肩が触れ合っただけで殴り掛かる」「授業中に教室から抜け出す」「人のものを黙って使う」と気になる現象も多様化している。

対処法を探るため、先生同土が手を結ぶ動きも出てきた。昨年五月に東京都稲城市で生まれた「一年担任会」。市立小学校で一年生を担任していた教師約20人が自主的に参加。それぞれの受け持ちクラスの状況を報告し、どのように指導したらよいか事例研究をしている。

メンバーの一人、稲城市立第六小学校の河合貞子教諭は「絶対的な解決策は見つからない。良くなったと思った翌日にはまた元に戻ったりと試行錯誤の連続」ど語る。そのまま二年生の担任に持ち上がった教師たちと会は今も続けている。

 

国が養育方針を変更

これらの原因として考えられるのは、就学前の幼権園や保育所での養育方針の変化だ。国は子供たちの自主性を尊重するようにと、1989年に幼稚園の教育要領を、90年に保育所の保育指針を相次いで大幅に改定した。一律管理を見直して「今、何をしたいのか」を子供に考えさせ、意思表示できるようにするのが狙いで、多くの幼稚園や保育所もこれをきっかけに養育方針を切り替えた。例えば保育所の場合「以前は昼寝の時間、お絵かきの時間など一日のスケジュールがきっちりと決まつていたが、今ではこうした保育はほとんど姿を消した」(厚生省保育課)。今の小学一年生は幼稚園や保育所で比較的自由に育っているのだ。それが、規則的な生活を求められる小学校に入り、一種の不適応症状を起こしていると推測される。だが、これだけでは時として激しい暴力性を示す小一の問題行動を説明しきれない。東京都教職員組合の教文部長、糀谷陽子さんは「勉強量の多さによるストレス」とみる。

 

親のしつけの問題も

今の小一が学校で教わる内容は、その父母のころより数段多い。漢字なら、以前(71年まで)は年問で46字を習っていたが、今の小学一年は80字に増えている。算数でも今の子供はニケタまでの足し算を一年生のうちに習得しなければならない。「学校から帰っても、たくさんの習いごとが待っていて、ストレス発散の機会がない」(糀谷さん)

親のしつけの問題も見逃せない。先の埼玉県のベテラン教師は「授業参観のとき、教室の後ろで親同土がおしゃべりに夢中になったり、中には携帯電話で話し込んだりする親もいる。この親にして、この子ありとあきれてしまう」と話す。

稲城市の小一担任会では様々な対処法が試された。その中で実は一番効果的だったのは、子供をだっこしたり、おんぶしてあげることだった。河合教諭は強調する。「小学生にもなって、と思うだろうが、『みんなだっこしてあげるよ』と声を掛けると、子供たちがわっと押し寄せてくる。問題行動を起こした子も面と向かって注意をしても、ぶいっと横を向いてしまうが、おんぶしながら話をすると素直に応じてくれる。今の子供たちはスキンシップを伴った愛情を家庭で十分に受けていないのではないか」

1997/10/8/