他人をほめる人けなす人
ベストセラー「他人をほめる人、けなす人」(草思社)の薯者、フランチェスコ・アルベロー二氏が来日した。身近にいる不可解な人々の深層心理や行動を分析したこの本の人気は、裏返せば高まる人間不信の表れか……。百万部を超えるヒットの理由、若者観、理想の上司・部下像などを同氏に聞いた。
−ー「他人をほめる人、けなす人」が日本で人気を集めた理由は何だろうか。
「正直言って私も驚いている。来日の目的にはそのミステリーを探る狙いもあった。イタリアではこの本の人気は、社会がより無味乾燥でハードな環境になり、昔のように牧歌的な人間関係で付き合えなくなったことが背景にあると言われている。皆、世の中がどこまでひどくなるのかわからず不安にかられ、その結果、自分や他人の感情を分析してくれる人や本を求めるのではないか、と」
「右肩上がりの時代ではドライな人間関係もさして問題にはならない。だが不況の中で人間関係に異変が起きると、人々は暗中模索し行く道を失って当惑する。このような社会状況の中では、日常生活の小さなことが喜びにつながる。その代表的な例が職場や近所の人間関係。豊かな生活を送るために、周囲とのよい対人関係を再構築したいとみんなが望んでいる」
効率主義が破たん
---百十万部を超えた日本の売れ行きは、イタリア(三十万部)やフランス(十万部)などと比べてずぬけているが。
「今までの日本の社会は効率優先主義だったが、効率を追求しても正しい成果を生むかどうか分からなくなり、何によりどころを求めればいいのか悩んでいる。行動形態やルールをどう変えれば、よりよい社会をつくれるのか……。日本が最もダイナミックに変革を望んでいるから、多くの人がこの本を手に取ったのかもしれない」
----題名もよかった?
「原題は『楽観主義者』。人間のよいところを見て前向きに生きようというメッセージを込めた。日本でほそれでは抽象的ということから『他人をほめる人、けなす人』となった。本文の中の印象に残った部分から引用したようだ。ユニークなタイトルもそうだが、五十以上も細かく人間分類したのもヒットの理由では」
----来日は二度目(前回は八四年)だが、前回と比べ日本人は変わったか。
「変わったのは一つだけ。集団としでの誇りや品性よりも、もっと個人としての名誉を重んじるようになった。十代の若者たちに道徳観が欠如しているという指摘があるようだが、それは日本だけではなく、米国でもイタリアでも見られる世界共通の姿。十二歳から十八歳までの若者たちは、親や教師といった一切の大人が関知できない彼らだけのルール、価値観を持つ特別な集団。そのアンタッチヤブルな世界が社会の混乱を招く」
18歳から再教育必要
----彼らに苦言を呈しても始まらないというわけか。
「大事なのは十八歳からの再教育。私は大学の学長もしているが、最初の講義から学生たちの授業態度をたたき直す。年齢は十八歳だが、幼権園児と同じように『人の言うことを聞くように』と厳しく教え込む。『僕はこう思う』などと意見する学生もいるが、『お前は意見を持っていない。基本的な勉強をしていない者に意見を言う資格はない』と軍隊調で接するわけ。だいたい六カ月でまともな学生に戻る」
「幼稚園と小学校が教育の最初のステツブなら、やり直しが十八歳の時期。米国でもそうだが十八歳まで放っておいて大学で厳しく勉強する。ところが日本は中学・高校で詰め込み過ぎ。だから大学で遊ぶ。私の大学にも日本の学生はいるが一番勉強しない。リラックスタイムは必要だが、三年も四年もは長すぎる」
聰場で協力関係育成
----新入杜員が職場に慣れるころだが、どんな人が理想の部下か。
「まずは『忍耐強い人』。上司は無理難題を押し付け、ストレスもたまるだろうが、すぐに逃げ出さないように。それから『正直な人』。そして『上司が本当に必要としていることを理解する人』。例えば上司がどんなことに悩んでいるのか、スピーディーに仕事を進めたがっているかどうかなどを注意深く観察して、二ーズを的確に判断する能力を磨くことだ」
----逆に理想の上司は。
「『大きな目標を常に忘れない人』。日常業務を何の目的もなくこなしている人がいるが、それでは部下は付いてこない。なおかつ『部下全員のことを考えられる人』。能力のある部下は御しにくいケースが多いが、そんな部下をも客観的に評価すること。また人の上に立つと自分より能力のある人にボストを奪われることを恐れ、押さえ付ける上司がいるが、そうではなく『協力者を育てる人』。そして『意味のある仕事をしているんだと部下を奮起させる人』。難しいけどね」
(聞き手は生活家庭部 土井 誠司)
1998/4/25/土