深刻化するいじめ問題対策を検討してきた文部省の協力者会議が,二年間にわたる議論を終え,このほど最終報告をまとめた。初めて実施した大規模なアンケート結果などを踏まえ,いじめられた子供の緊急避難的欠席や転校を認めたほか,いじめた生徒にも出席停止を求めるなど踏み込んだ内容となった。同会議の主査を務めた坂本昇一・聖徳大教授に,報告のポイントとその意昧について執筆してもらった。

 

いじめ問題の取組

聖徳大学教授 坂本昇一

 

いまだに多くの人びとは「いじめられる子にも問題がある」という。このボタンのかけ違いが,いじめ問題への取り紺みを不十分なものにしている。ターゲットにした子がクラスのきまりを破ったと責め立てるが,他の子供のそれは笑って見過ごすところに差別がある。

 

あぞびは対等の開係

しばしば,いじめをあそびと見間違えたという。しかし,あそびは対等の関係で行うものだから,一連の活動の中に必ず役割の交代がある。たとえぱ,プロレスごっこでいえば,やっつけたりやっつけられたりと役割が交代していれぱあそびといえるが,特定の子供がずっとやっつけられる立場にいるとしたら,いじめの可能性が高い。相手を弱い立場において,心理的・身体的苦痛を与える攻撃を一方的にくり返して行うことをいじめと考える。

しかし,子供にとっては,ふざげやからかいのつもりでやっている場合もあるから,「自分がされていやなことは,ひとにしない」,「ひとのいやがることはしない」と言い換えて教えるのがよいだろう。

いじめは,あそびなど偽装化されて行われること,また,学級の全員によって一人の子供へのいじめをすること,そして,ターゲットを固定して長期間にわたることなどの特徴を示す。だから,学校内での組織的な取り組みはもちろん,さらに,学校,家庭,地域社会の連携での取り組みが必要になる。

この三者の連携システムづくりでいじめ問題に取り組むことである。このシステムがスムーズに機能するためには,学校から,いじめ問題の実態とか,学校での取り組みの状況や今後の計画などの情報が,保護者や地域社会の指導者などに公開されなければならない。

 %

学校から公開される情報をもとにして,保護者や地域社会の人びとが,それを他人事としないで,それぞれがいじめ問題に自分をかかわらせて,役割を分担して取り組む。

いじめを学校は家庭のあり方の問題にしたり,家庭は学校の指導の問題にして,批判しあうのでなく,今こそ,いじめを学校も家庭も,自分自身の問題として,大人一人ひとりが取り組まなくてはならない。

 

それぞれが,いじめ問題解決のために何をしたらよいかは,抽象的・一般的に考えるのでなくて,学校からの情報をもとにして,具体的・個別的に考えるのである。

いじめ問題の解決のために,学校がいろいろな努力をしても,それが十分に解決されない場合には,いじめの加害者に対しては,義務教育であっても,いじめられている子供を守るという観点から,出席停止の措置をとる。また,暴行や恐喝など犯罪行為によるいじめ問題については,警察との連携を積極的にとる。

 

「欠席」も弾力杓に

いじめを受けている子供に対しては,緊急避難としての欠席が認められる。これまで義務教育ということから「学校を休むこと」に関しての例外扱いには,過度に慎重すぎた。しかし,いじめを受けている子供の立場に立って,柔軟で弾力的に「欠席」を考える。義務教育に「風穴」があいたともいえるのである。いじめによって,やむをず長い期間欠席した子供は,「中学校卒業程度認定試験」をうけられるようにしなくてはならない。この認定試験受験の規制も広げられることになる。

あるいは,いじめられている子供やいじめをしている子供の学級替えをすること,さらには,必要に応じて,学年の中途で,学級の編制替えをすることも求められている。復数の教師で子供を指導する体制づくりをしていれは,このような措置は容易であるだろう。さらに,「転校」の弾力的運用を徹底させる。子供がいじめを受けている場合には,保護者の希望,関係学校の校長の意見もふまえて,転校ができる。これはすでに制度として認められていたが,十分に活用されていないので,「転校」措置をこれまで以上に弾力化して,容易にできるようにする。

 

やすらぎ教室設置も

いじめを受けている子供の欠席を認める前に,学習の機会を確保するために,一時的に公の教育的な機関に緊急避難する「やすらぎ教室(いじめサンクチュアリ)」の設置も考えられる。このように,学校教育はいままでの枠をこえた対応をすることが求められる。同時に家庭が子供の「心の居場所」であって,基本的な生活習慣や生活態度が十分に教育される場であるべきはいうまでもない。

1996/8/11/日 掲載記事

 $

 

 

コラム  ホワイトボードより

いじめ対策,お寒い実態

 

全国を歩いていると,いじめの対策について耳にすることが多い。

市の教育委員会からいじめの件数についての問い合わせがあった。八件と答えた学校は「多過ぎる。もっと,きちんと指導するように」と注意された。「いじめはない」と答えた学校は,「そんなはずはない。もっと調べるように」と一言われた。この市の学校では教頭たちが話し合って,大規模校は三件,小規模校は一件を基準に,発生件数を報告したという。

別の市では,学校にいじめについて市から問い合わせがあった。子供がいじめられたと親が教育委員会に電話をかけたためらしい。担任が説明しても,校長は耳を貸さず,「この件は同僚の先生に話してはいけない。すぐ親に謝りにいき,問題を解決するように」の一辺倒。校長は何としても隠密裏に処理したかったらしい。

別の学校では,校長が文部省のいじめの答申を五分ほど職員会議で説明し,「何かあったら,校長に相談するように」と言った。これがこの学校のいじめをめぐる話し合いのすべてで,先生同士の意見の交換はまったくなかった。

いじめをなくすには,いじめへの理解を深めることが必要であろう。それには,教員同士の自由な話し合いが大事なのだが,職員会議などでいじめの問題を話しあった学校は少数例にとどまる。形式的にいじめの対策が進んでいるように見えるが,実態はお寒い限りと言わざるをえない。

1996/8/11/日 掲載

 

野外活動の指導者育成必要に

夏休みは都会で暮らす子供が自然と触れる貴重な機会になる。昨年の夏休みには、東京の小学生の六八%が自然を体験している。「祖父母のいる田舎へ帰った」「親と海や山へ行った」などが多いが、「キャンプに参加した」子も一八%を占める。自然と触れ合うことで、子供の成長にプラスになるものは多い。しかし、指導はむずかしい。活動は室内に限定されず、屋外に広がっている。自然相手だから、指導者には山や川、鳥や虫などの知識が必要だ。木や草についての素養もほしい。もちろん、気象についての知識も持っていてほしい。ちよっとした判断ミスが、遭難につながるからだ。

さらに、野外活動ではたくさんの子供たちを家庭から離して、ロッジなどで二十四時間体制で預かる。それだけに、指導者は子供の睡眠や食事をはじめとして、体力や心理に関する知識に精通する必要がある。そう考えると,野外活動の指導者には、幅広い分野の奥深い知識や技能が求められることが分かる。

欧米では大学を中心に野外活動の指導者養成に取り組み、キャリアに応じた資格を与えてきた。そうした専門家の指導の下に、ボランティアが参加するのが欧米のキャンプである。日本では、社会的に広く認知された野外活動の資格はないに等しい。野外活動指導の困難さはボランティアの範囲を超える。それだけに、日本でも野外活動の指導者養成を本格的に開始する必要があるだろう。

1996/8/25/日 掲載記事