子供のうそ

 

うそは政治家や企業トップの專売特許ではない。最近の子供たちは、さほどの罪悪感も持たずに様々なうそを駆使するという。背景には人間性よりも、要領よくいい成績をあげればよしとする社会の風潮が関係しているとの指摘も。子供のうそとそれをめぐる親や大人たちの対応について考えてみた。

 

強まるゲーム感覚

『平気でうそをつく人たち』という題名の本が六十万部を超えるベストセラーとなっている。「多重人格など人間の心理をテーマにしたノンフィクションが人  気を集めるなどヒットの下地はあった。だが、、正直これほど売れるとは思わなかった」とは、この本を出版した草思社(東京・渋谷)の担当者。

読者から寄せられるのは「身近な人間関係の中で出てくるうそに悩み苦しんでいたが、本を読んで原因がわかった」といった声だ。当初は年配の読者が多かったが、やがて年齢層が広がり、中学・高校生の男女や子育てに悩む親たちも手に取るようになっている。これは子供の世界でも「うそをつく人たち」や、それに悩まされる人が増えているためとみられる。

都内に勤める小学校教諭は次のように話す。「最近の子供のうそはゲーム感覚。例えば友達に『先生が呼んでいたよ』なんてうそをつく。相手の子供は『先生、何の用事』なんてやって来るわけで、うそをついた子は一瞬にせよ相手を思い通りに動かしたことで快感を味わっている。こうしたうそを軽妙に操る子供が増えている」

こんな事例もあった。体操着を忘れた女生徒が「体の調子が悪い」と言い逃れのうそを言って休むのはよくあるパターン。だが最近では、その際に仲の良い友達を誘い込む。「一緒にうそをつかせて柑手を支配するとともに、他人を巻き込むことで自分の罪の意識を軽くしているんです」

いずれのケースでもだまされたり、うそに誘い込まれた子は嫌な気分。だが、大騒ぎすればいじめの原因になるので苦笑いで済まさざるをえない----

 

子供のうそには、大きく分けて三タイプがある。

@願望を満たすためのうそ……祖母の家に行きたいと思うあまり「さっき、おばあちゃんから電話かかってきたよ」などと母親に言う。低年齢の子ではうそと意識していない例もある。「うちのお母さんは優しいんだ。何でも買ってくれるんだよ」などと正反対のことを言う場合は、親子関係のバランスが崩れていることの表れだ。

A言い逃れのうそ……幼権園ぐらいになると覚える。運動会の朝、友達にかけっこで負けるのが嫌で「足が痛い」などと言うケースがこれ。悪質なうそへの第一歩で、度重なると苦しいことからいつも逃げる癖がつく。

B相手を油断させたり屈服させるうそ……小学校に入ると見かける。例えば「うちの犬は血統書付き。お前の家の犬とは違うんだ」などとありもしないことを言い、相手に劣等感を植え付ける。

 

領域ごとに使い分け

最近の子供に目立つのはAとBのうそで、冒頭の二例はこの発展型と考えられる。しかも「そんなうそを子供たちは、遊びや勉強など領域ごとに相手を変え、巧みに使い分けている」と東洋英和女学院大学教授の問本浩一氏(社会心理学)は指摘する。

子供は親や周囲の人たちの言動を見てうそを身に付ける。かかってきた電話に対して居留守を使う親の姿や、「お母さんには内証だよ」などとお菓子を買ってくれる祖父母の行動からも「うそをついてよい場合がある」ことを学ぷ。

東京国際大学教授で『好かれる子嫌われる子』(光文社)の著者である詫摩武俊氏は最近の巧妙な子供のうそについて、「ある程度のズルはあっても要領良くやればいいといった風潮や、手伝いをしたりお年寄りに優しい子供より勉強ができる子供を『よい子』と見なす競争社会の影響ではないか」と語る。

山梨医科大学教授の渋谷昌三氏(心理学)は、「相手を陥れたり傷つけるうそに関しては、マナーとしていけないことだときちんと教える必要がある。またうそを知った時、親や大人は感情的にならないように。うそをつく背景には何らかの原因がある。責めるのではなくその理由を知ろうと努力すべきだ」と強調する。

 

場合によっては必要

だが一方で、円滑な人間関係を保つためにうそが必要な場合もある。幼少時に親から厳しくとがめられたために逆にうそがつけなくなり、それが子供の不登校など問題行動に結び付いている事例も少なくない。

渋谷氏はこう続ける。「自分の生活を守ったり相手を尊重してのうそは、子供が成長する過程で『場合によっては必要』と折に触れて教えていく必要がある。うその教え方は難しいんです」