増える自信過剰の子
1998/1/21/水 掲載記事
自分の能力やオ能を過大に評価しがちな子供たちが増えているという。自信を持つこと自体は悪くはないが、その根拠が客観的に見てあいまいなのが特徴だ。多くの場合は徐々に等身大の目己像を取り戻していくが、中には現実の自己像とのギャップに苦しむ例も。”目信過剰症侯群”と呼べる問題が広がっている。
不合格は手違い!?
「娘が『不合格になるはずがない。採点が誤っているはずだ』と言ってます。何か手違いがあったのではないですか」−−。東京のある有名女子中学校の事務室に勤めるA子さん(38)は「合格発表が終わると必ずこうした電話が数本、舞い込む」と話す。小学生である受験生本人が電話をしてくることはないが、娘に強く言われて、親が電話を掛けてくる。
そこから察するに、子供たちの言い分は「私より成績の悪い友達が合格した」「塾の先生に絶対受かると言われた」というもの。以前はこんな問い合わせはなかったが、今では職員も慣れた。複数の職員が点数の集計をしているので、誤りはないと説明し納得してもらう。「自分の解答の誤りを疑う前に、採点間違いを指摘する。そんな自信が一体どこから来るのか」とA子さんは首をかしげる。
子供が自信を持つ対象は勉強やスポーツ、趣味などさまざまだが、自信を裏付ける才能や努力などが伴わないのが最近の共通した特徴だ。都内のあるソフト開発会社の経営者は「昨年、知人の紹介で16歳の男子高校生をアルバイトに雇った、面接ではプログラミングができると言っていたのに、実際にさせてみたら、全くダメ。教えようとしても『大丈夫、できるから』と学ぶ姿勢さえないので、結局辞めてもらった」と打ち明ける。
『仮面をかぶった子供たち』(ごま書房)の著者で東京工業大学教授の影山任佐氏(社会精神学)は「今の子供は程度の差こそあれ、自信過剰の傾向がある」と強調する。自信を持つこと自体は決して悪くはなく、自已を過大に評価する心理状態は、子供の成長過程で必ず表れるという。
消えぬ幼児的万能感
それは主に乳幼児期で、両親などの愛情を一身に受けているうちに、世界は自分を中心に回っており、自分は何でもできるのだと考えるようになる。これは心理学用語で幼児的万能感と呼ばれている。
本来なら、幼稚園や小学校など集団生活に入り、同年齢の子供たちにもまれているうちに、徐々に現実を知るようになり、身の丈にあった自信を身に付けていく。ところがこの過程を経ない例が目につくようになってきた。
影山氏は「今の子供は生活体験が根本的に足りず挫折経験が乏しい。そのうえ子供の数が少ないことから親を含めて周囲がちやほやし過ぎる。その結果、幼児的万能感を持ったまま成長してしまう。ほめ過ぎも考えもの」と説明する。
十代以降でも、徐々に自信過剰状態を解消できればよいが、そのまま修正できないケースもある。精神科医の香山リカさんのもとには、自分が思い描く自己像と現実の自己像のギャップに悩み、登校拒否など引きこもってしまった相談者たちがやってくるという。
「大きなことを言うが、結果が伴わないので、友達など周囲から疎んじられるようになり、社会や学校で孤立していく。悪くするとうまくいかない挫折感を社会や親への怒りに置き換えて、暴力的になることもある」と話す。
不登校児らが高校卒業の資格を得るために通う栄光国際学院(東京・千代田)にも自信過剰タイブの子供たちがいるという。その特徴は「自分は周囲の連中とは違う」と考え、「いずれ有名なゲームプログラマーになる」「ミュージシャンとして大成する」など大きな夢を語ること。ただ実際にそれだけの才能がうかがえる例はまずないという。
同学院の中村成樹室長は「そんな子供たちを観察していると、実力がないのは自分自身も十分承知しているようだ。自信過剰という殻をかぶり、現実の自分と向き合うのを逃避しているように見える」と話す。
親の過剰な期待原因
影山氏は「子供の自信過剰を解消する一つのカギは親子関係にある」と指摘する。
「社会で大成しろ」「有名人学に入れ」などと親が子供に過大な期待を寄せるほど、子供はそれが実現できなかったときに親の愛情が自分から離れていくのを恐れる。その結果、現実と向き合い、等身大の自已の姿を見ることを拒否したり、回避したりし、現実離れした自信を持ち続けることになる。
「親子の間にありのままの子供を受け入れてくれるという信頼感や安心感がないと子供は追い込まれてしまう」と警告している。