感情を抑えきれない子供たち

2000/9/20/

 

17歳の犯罪」が社会間題化するなど、自分の感情を抑えきれずに暴走する中高生たちが目につく。いわゆる「キレる」子どもたちの増加だ。彼らはなぜ、セルフコントロールできないのか。その背景と対応策について、教育学の視点から東京大学助教授の汐見稔李氏と、精神科医の立場から衆議院議員の水島広子氏に論じてもらった。

東大助教授 汐見 稔李氏

 

大阪に、さまざまな人を会員にして、癒(いや)し、学び、楽しみの場を提供している僧侶(りょ)がいる。企画の一つに勤め帰りのサラリーマンがワイワイ議論する「トークショー」がある。住職はそれほどうまく議論できているわけではないという。自分の意見しか述べない者、いつも相手を攻撃する者、全く意見を言わない者等、対話のスキルができていないことを痛感させられることが多いそうだ。

けれども、仏教の話になると、バラバラだった話がいい感じでまとまりを見せるから、不思議だという。普遍的な世界の承認ということが、深いところでの人間の共通性とそれゆえの安心感、そしてそこから生じる謙虚さの感覚を気づかせるからかも知れない。

今の子ども・若者のキレやすさの背景が、この小さなエピソードの中に隠れている気がする。感情が煮詰まったとき、それを心身のどこかに誘導して癒し鎮めるような心の部分=装置が人間には必要だ。でないと感情は逃げ場を求めて爆発する。急速に煮えたぎる感情を誘い鎮めるような心の部分、それがうまく育っていないことが、最近の「キレ現象」の本質ではないか。

人によっては宗教的な言葉が心の隠れた部分を探ることで、それを自身の中に見つけようとする。しかし、別に宗教に求める必要はない。子どもの日常の生活の中でこそ得られる必要がある。まず自分の今ここを超えた世界と、じっくり向き合う体験をたくさんすることによって、形作られるはずだ。満天の星を一晩じっと見続ける。高い山に登って日の出を感動を持って眺める。そうした、自由な時間の中で、自分を超えた何かを感じ、じっくりと自己と向き合うことが、今求められている。

感情を癒してくれるもう一つの部分は、心に生きる具体的な他者だろう。母であり父であり、祖父母、兄弟であり、友である。彼らが幼いころから懸命に自分をいとおしんでくれ、かかわってくれたという体験、すなわち愛と共感の感情体験が、私の中に生きる「他者」というイメージに結晶し、自分がそこに戻るべき安心の基点となる。

「キレ」に対する特効薬はない。ゆったりとした関係の中で友情を感じ、自然にひかれる。そうした当たり前の体験を取り戻すことが最大の対策ではないか。

 

 

精神科医 水島広子氏

 

「今の子はキレやすくなった」「今の子は我慢ができなくなった」というような言葉を耳にすることが多くなった。単にそう言うことは簡単だが、一体子どもたちにどのような変化が起こっているのか、大人たちはきちんと把握できているのだろうか。

双子を利用した最近の研究によると、性格は、約半分が遺伝的に決まっており、残りの約半分が、生まれたときから現在に至るまでの環境によって決まるとされている。

キレやすい子どもを治療すると治療前ほどはキレやすくなくなる。このことからも、最近の子どもが「キレやすい」「我慢ができない」のは、遺伝的な問題より環境的な問題に負うところが大きいと考えられる。

米国の精神科医クロニンジャーは人間の性格を、遺伝による影響が大きい因子と、環境による影響が大き,い因子に分けたモデルを提唱している。このモデルから言えることは、先天的に決まっているのは性格の「個性」を作る部分であり、それが長所になるか短所になるかは後天的に決まるということである。

例えば、「ねばり強い」という個性は先天的に決まっているとしても、それが長所となるか、あるいは、単に「しつこい」という短所となるかは、後天的に決められるということになる。そのポイントとなるのが、「自尊心」と「コミュニケーション能力」である。

自尊心というのは、自分の存在や生き方に対する基本的な信頼感のようなものであり、自分を大切にする気持ちでもある。自尊心の高い人は、自分の「個性」をコントロールして長所とすることができる。

虐待された子どもや、常に批判されて育った子ども、過保護に育てられて自分で何も決められなかったような子どもは、自尊心が低くなりやすい。

コミュニケーション能力とは、自分の意見を伝え、相手の意見も聞き、十分に話し合って互いに納得のいく結論を導き出せる能力のことである。この能力が高ければ、ストレスをためこむこともないし、対話を通して困難を乗り越えたり、他人との信頼関係を深める中で「自尊心」を高めたりすることもできる。

逆に、子どもの自尊心を低下させたり、コミュニケーション能力を十分に育てられなかったりした場合、「個性」を短所にしてしまう恐れもある。それが様々な問題行動や心の病につながっていくということを、十分に理解することが大切だと思う。