パニックボーイ
期待されたのに失敗、自分責め
感情抑える訓練不足
2001年(平成13年)4月26日(木曜日)
ふだんは明るい子供が、急に取り乱して教師の手に負えなくなる---。こんな「パニック」に陥る小学生が最近、学校で目立つという。いわゆる「キレる」「荒れる」とは別のタイプで、教育関係者の多くも戸惑い気味だ。
小学三年のA君は、授業中すすんで手を挙げる活発な児童。ところがある朝、担任の教師が机でボロボロ涙を流しているA君に気付いた。驚いて理由を聞くと、「ハンカチを忘れた」という。「そんなことか。先生が貸してあげるよ」と慰めたものの、しばらく泣き続けた。
同じ小学三年のB君は成績優秀。しかし、突然人が変わったようになる。ある日、いつも満点の漢字テストで九十点を取った。担任は「頑張ったから自分を責めちゃだめだよ」と、言い聞かせるように答案用紙を返した。だが点数を見た途端、B君の表情は引きつり、息づかいが荒くなった。幸い大事には至らなかったが、「死んでやる」と叫びながら走りだし、一時は教室の窓枠に飛びついた。
教育関係者によると、学校で子供が突然自分を見失う事例の報告が、教師の研究会の場などでここ数年、徐々に増えている。ある小学校教師が研究会に出した報告書の中でこうした子供たちを「パニックボーイ」と呼んだのを機に、以後パニックという言葉が、特定の行動を取る子供を指す言葉として教師らの間で使われるようになったという。
臨床心理士で千葉大学教育学部の諸冨祥彦助教授は、「パニックに陥る子どもはここ数年間、確実に増加している印象だ」と証言する。実際、教育評論家の尾木直樹氏が九八年、神奈川県川崎市の学童指導員約二百人に「この三〜五年の間に、何かあるとすぐに『パニック』状態になる子どもが増えたか」と聞いたところ、八五%が「とてもそう思う」または「そう思う」と答えている。
突然攻撃的になるいわゆる「キレる」子供や、授業中、勝手な行動を取る子供たちは社会問題の一つとして認識されている。しかし、教育関係者の意見は「パニックになる子供はそれらとは違うタイプ」という点でほぼ一致する。
例えば、三月に「パニックの子、閉じこもる子連の居場所づくり」(学陽書房)を出版した小学校教師の山崎隆夫氏は「パニックになる子は大抵、普段は良い子で成績もいい。それが何かのきっかけで、物を投げる、怒鳴る、泣く、ロッカーなとに閉じこもる、などの行動を起こす。必ずしも他人を攻撃したり他人の言動が引き金でなかったりするところが、キレる子供と違う」と指摘する。
原因や背景については、いまのところ様々な見方がある。東京都立梅ケ丘病院の市川霧伸副院長は「子供によっては、注意欠陥・多動性障害(ADHD)など何らかの発達障害の可能性も否定できない。だが、そうでない場合のほうが多いのではないか」と話す。尾木氏は「親が過度の期待をかけたり、完ぺきを求めたりするのが原因」と見る。親の期待にこたえなければいけないと自分を追いつめるあまり、ささいな失敗でも「大変なことになった」と感じ、パニックにつながるという説明だ。
親の考えに影響を与えているものとして山崎氏は、ここ数年強まってきた「競争重視の価値観」を挙げる。職場での成果主義や実績主義の流れを痛切に感じている親が、子供の将来を思う余り、無意識にプレッシャーを与えているとの分析だ。また、子供は身近に祖父母や兄弟ら慰め役が乏しく、感情を鎮める訓練が十分にできない環境になっている。
さらに山崎氏は、「ハニックをおこしゃすい子供は放っておくと『自分はダメなんだ』と強く思い込むようになり、自尊心が十分に育たないなど人格形成に影響しかねない」と、この問題の重大さを指摘する。
パニックに陥るのは学校など集団生活の場が一般的。家庭では「普通」でいるため、親は気づかない場合が多いようだ。学陽書房によれば、山崎氏の著書が「パニックになる子とどう取り組んだかを書いた初めての本」だという。これまで大っぴらに議論する機会が比較的少なかった現象。親、学校、社会を巻き込んで考えることが必要になってきているようだ。
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長寿社会文化協会が研修
地域の力で若い両親の子育てをバックアップ---。長寿社会文化協会(東京・品川、一番ケ瀬康子会長)は、子育て支援に関心を持つ中高年を対象に本格的な研修を始める。中高年の生きがい作りと、孤立しがちな若い世代の支援を組み合わせるユニークな試みとして注目されそうだ。
今回始める「地域三世代子育て支援活動者研修」は基本コース(一泊二日)とフォローアッフコース(一日)の計三日間。東京、大阪、福岡で計三百人を対象に、七月から秋にかけ基本コースを、年度内に残る一日を実施する。中高年が地域の子育てにかかわる意義や活動の立ち上げ方法、すでに活動中の団体の現状などを紹介。研修費は未定だが宿泊・交通費を除き一万円以下にする見通しだ。
地域の子育て支援活動には各地に先行する事例がある。内容は乳幼児を持つ母親らの相談相手になる「たまり場作り」や、共働き夫婦の保育園送迎に対する支援、農園を利用した子供への遊びの指導など。協会は二〇〇〇年度までの二年間でこれらの事例を研究。地域の中高年が参加すれば「親とは年代が違うため客観的に子育ての状況を見ることができ、自分の子育て経験なども伝えられる」などと判断し、昨年十一月に宮城県仙台市で初めて開いた半日の研修に続いて本格的に取り組むことにした。