チンパンジーの集団リンチ
西田利貞・京太教授
1992/4/27/月 朝日新聞記事
アフリカに住むチンパンジーの群れで、生意気な若者を大人たちが袋だたきにするのを、京大理学部の西田利貞教授(人類進化諭)らのグループが初めて観察に成功した。チンパンジーが仲間に「集団リンチ」を加えることはこれまで知られていなかった。人間社会の「村八分」などの起源を、この辺りにさかのぽることがで書ると見る西田敦暖は、五月に名古屋で關かれる日本アフリカ学会で研究成果を発表する。
このチンパンジーの群れは、タンザニア・マハレ山 塊国立公園内の標高800メートルの森林地帯に生息する。大人のオス10匹、メス三35匹、若者40匹の計85匹。わが国の研究者が代々調査している群れの一つで、西田教蟹らも11年前から観察を続けている。
集団リンチ事件があったのは昨年10月7日。リーダー格のカルンデ(オス・28歳)が獲物を摘まえ、樹上で仲間数匹と食べていた時のことだ。若者のジルバ(オス・16歳)が「おすそ分け」にあずかろうと近づいてきた。これに気づいたカルンデが突然犬声を上げてジルバを激しく威嚇。手足を押さえつけると、メスを含む他の仲間7匹が殴る、けるの暴行を始めた。わずか数分間のできごどだったが、ジルバは体を丸めて身を守るのが精いっぱい。傷だらけの体を引きずるように逃げ出した。
チンパンジーはリーダーの座を争う揚合はこうした暴力ざたを起こずことがある。だが無抵抗の、しかも若者を数匹がかりで痛めつける行動はこれまでわかっていなかったという。今回の暴行の様子はビデオに撮影。事件が起きる数カ目前から、ジルバは目上の者に反抗的な態度を見せていた。今回のリンチは、こうした態度に対して大人たちの怒りが爆発したものらしい。50日間行方不明になった後、群れに戻ったジルバはうそのようにおとなしくしているという。
西田教授は「突然のできごとでぴっくりした。従来は人間特有の社会的行為と考えられていた『村八分』などが、実は生物学的背景のある行動であるとも考えられる」と話している。
伊谷純一郎京夫名誉教授(人類学)の話
チンパンジー社会では大人のオスの連帯が強く、若者がその同盟に入るのは大変なことだ。今回いじめられた若者は、この同盟に入るのにしくじって、一定期間とはいえ、仲間外れにされたとも考えられる。これまでこういった出来事はだれも観察したことがなく、撮影に成功したビデオは学問的にも貴重な記録だ。チンパンジー社会の仕組みを解明するうえで重要な資料といえる。