育少年の判断力や意思決定力などを養うために「エコノミック・エデュケーション」というプログラムを提供する民間教育機関「ジユニア・アチープメント本部」への参加校が広がってきた。インターネットで経営状態を競い合うコンテストも十月三十日から日本で初めて開かれる。同本部の活動状況や内容など中許善弘専任理事に寄稿してもらった。
米国の非営利機関
米国で小・中・高校向けにエコノミック・エデュケーションを提供しているジュニア・アチープメントという非営利の民間教育機関に出合ったのは、二年前。当初は、さしずめ未来のビジネスマン養成用のプログラムと思っていたら全く違っていた。
社会や経済はどういう仕組みになっているのか。それはどのように動き、自分たちはどう対応していけぱよいのかなどについての理解や示唆を与え、人生を積極的に生きていく力を育む内容になっている。テキスト、コンピューター・プログラム、外国校との国際取引演習、企業の社貝や地域住民が来校して生徒に直接話しかける方式など、プログラムは多彩だ。活動を企業が支援しているので、教材はすべて無償である。
世界80カ国に普及
米国で1919年に発足し、現在は世界八十カ国に普及。各種教材は毎年300万人の青少年が使っている。とかく敬遠されがちの社会・経済の内容もどうしてあんな熟気に変わるのかと見学した教室では圧倒されるぱかりだったが、社会とのかかわりが希薄で、その消極的な生き方が心配される日本の子供たちにもぜひ紹介したいと感じ、直ち
に導入の準備に入った。
幸い、教育はもっと世の中との関わりを持たせるべきだと考えている先生方との出会いがあり、また、日本を代表する企業十数社の経営者から支擾の申し出があって、昨年九月に日本でも本部が発足した。
ボランティアとして教室に赴く企業の社員は、教員と協力しながら例えば次のような役割を担う。
デジタル百チャンネル以上の時代が来る。デジタル波とは何か。従来の地上波とどう違うかなどの説明は定説になっている知識さえあれぱそう難しくない。しかし、デジタル百チヤンネルが将来の生活にどういう影響を及ぼすか、それにどう対応していけぱよいかなどの説明には、日常業務を通じて予見しやすい環境にいる企業社員の方が適している。子供たちには今の自分を、将来とのかかわりの中で見つめてほしい。
コンピュータープログラムのMESE(ミース)は、一つの答えに固執せず、多くの仮説を立てて現状をどう乗り切るかをディスカッションしながら考えさせる意思決定のシミュレーションだ。例えぱ、ある商品の価格、生産量、販売,、設備投資額などを意思決定してコンピューターに入力すると、チーム毎に期別の経醤リポートが送られてくる。このリポートを分析し、新たな決定を行って、最も優れた経営成果を競い合う。
全人格をかけ討論
日本の子供たちはディスカッションだと聞くと、逃げたい気持ちになるらしい。いつも発言する人が決まっていたり、声の大きい人がリードしてしまうことが多いからである。MESEでは声の大きい人の意見が必ずしも正しいとは限らないことが明白になる。また、声の大きい人の意見を何となく自チームの総意としてしまい、その結果生じた不都合の責任は自分自身にあることも思い知らされる。このため生徒は自分の全人格をかけてディスカッションする。
慶応義塾大学湘南藤沢中等部三年の井津端久観香さんは「これが正しい、これをやれば絶対に勝てるという方法はなく、まわりの状況によって決まってくるので、どれだけ視野が広いか、どれだけいろいろな方向で考えられるかを要求されるので難しかった」とMESE演習の印象を書いている。視野を広げ、意思決定の重さや、自分で考えることの喜び、他人の意見への素直な気持ちを知る。こういう基本的なことこそが学業成綾だけでは評価できない大事なことだと思う。
また立命館高校の長山徹先生は「生徒たちは、いわれた通りにやった結果をほめられるより、自分で考えて意思決定し、自分の意志によってチーム(社会)に影響を与えたという人間の本性に触れたことに感動している」と話す。10月30日から全国の15歳から20歳の青少年が参加して、インターネット版日本MESEコンテストが始まる。国内外から64のチームが来年1月の決勝進出を目指す。60カ国、900チームが参加する国際MESEコンテストも控えている。
小・中・高の各種プログラムを通じて実にたくましい意見や創造性に富んだアイデアに出合う。日本の子供たちに「考える力」が不足しているとは思えない。考える力を磨かせる具体的なプログラムを与えてこなかっただけではないか。エコノミック・エデュケーションは未来のビジネスマンを育成するプログラムではない。社会の中でどういう生き方をしていくかという意思決定の時点で、子供たちが自分に納得のいく運択ができるよう資質の育成を図っていこうとするものである。日本の子供たちは非常に多くの知識を蓄えている。それらを創造的に使いこなす知恵を会得すれぱ、21世紀のワールド・リーダーは紛れもなく彼らだろうと思う。
1996/10/13/日 掲載