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第U部 文教施策の動向と展開
第3章 初等中等教育のより一層の充実のために
第1節 主体的に生きる力を育てる教育の展開
第2節 高等学校教育の改革
第3節 一人一人を大切にする生徒指導・進路指導を目指して
第4節 体育と健康教育
第5節 幼児期にふさわしい教育の推進
第6節 障害に配慮した教育
第7節 人権尊重の教育
第8節 より良い教科書のために
第9節 魅力ある優れた教員の確保
第10節 ゆとりと潤いのある学校施設整備と教材
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第3章 初等中等教育のより一層の充実のために
我が国の初等中等教育は,戦後,極めて困難な状況下で再建のスタートを切ったが,教育の機会均等の理念の下に,教育を重視する国民の熱意に支えられ,かつ,学校教育関係者の努力ともあいまって,著しい量的拡大を遂げ,普及・発展してきた。特に,限られた者のみが学んだ戦前の中等教育機関も,極めて短期間に,ほとんどの者が学ぶところとなった。
他方,この間,初等中等教育の量的な拡大に合わせて,教育課程の基準の改訂,教職員の待遇の改善や定数の充実,学校施設の整備などの施策の実施を通じて,質的な充実にも努力が払われた。
その結果,我が国の初等中等教育は,今日では,その普及の程度においても,また,質の高さにおいても国際的に高い評価を受けるに至っている。
しかしながら,その一方で,今日の初等中等教育の現状については,受験競争の過熱化,いじめ,登校拒否の問題,あるいは自然体験や生活体験の不足など様々な問題が指摘されている。
また,同時に,我が国においては,高齢化,各分野における情報化,国際化の進展などの社会の変化が進んでおり,我が国の初等中等教育には,このような社会の変化に的確に対応し得る力を育成するための教育の実現も強く求められている。
このような初等中等教育をめぐる諸問題を解決し,社会の変化に適確に対応し得る力を育成していくためには,一人一人を大切にした教育を行っていくという基本に立ち返り,初等中等教育の一層の改善・充実に努めていくことが重要だと言わなければならない。
第1節 主体的に生きる力を育てる教育の展開
1 新しい学力観に立つ教育の推進
(1) 現行学習指導要領の考え方
今日,国際化,情報化,科学技術の進展など,社会の各方面で様々な変化が進んでおり,今後,それらはますます拡大し,加速化することが予想される。子どもたちは,そのような激しく変化する社会の中で生きていくことになる。
一方,教育や子どもたちの生活をめぐっては,知識の量を競うような教育に陥りがちであるといった指摘や,子どもたちの自然体験,家庭での生活体験などが不足し,豊かな心や生きるための知恵が身に付きにくいといった指摘が聞かれる。
このような状況を踏まえ,これからの学校教育においては,子ども一人一人がこれからの社会の中で,生涯にわたって,心豊かに主体的,創造的に生きていくことができる資質や能力を育成することが求められる。
各学校で編成・実施されている教育課程の基準である現行学習指導要領も,このような考え方に立って,平成元年に,@心豊かな人間の育成,A基礎・基本の重視と個性教育の推進,B自己教育力の育成,C文化と伝統の尊重と国際理解の推進,の4方針の下に改善が図られたものである。具体的には,例えば,次のような改善が行われている。
* 小学校低学年の生活科の新設
* 歴史学習の改善
* 高等学校の社会科の地理歴史科と公民科への再編成
* 高等学校の家庭科の男女必修化
* 中・高等学校の選択履修の幅の拡大
* 外国語教育におけるコミュニケーション能力の育成の重視
* 読書指導の充実,学校図書館の機能の活用
* 発達段階に応じた重点化など道徳教育の充実
* 国旗及び国歌の指導の充実
(2) 新しい学力観に立つ学習指導の工夫改善
現行学習指導要領の趣旨を実現するためには,自ら学ぶ意欲や思考力,判断力,表現力などの資質や能力の育成を重視する学力観に立って,学習指導の工夫改善を図ることが重要である。学校においては,子どもたちが自分のよさや可能性を発揮して様々な対象に進んでかかわり,自分の課題を見付け,主体的に考えたり,判断したり,表現したりして解決するような学習指導を,積極的に展開することが求められる。
各学校においては,このような考えに立ち,個に応じた指導の充実,体験的な学習や問題解決的な学習の工夫,ティーム・ティーチングなど協力的な指導の推進等,学校の実態等に応じた種々の工夫改善が進められつつある。
(3) 教育課程改善・充実のための諸施策
文部省では,学校における取組を推進するため,各学校段階ごとに,教育課程運営改善講座等各種研修会の実施,教師用指導資料の作成,教育課程研究指定校等各種研究指定校の指定とその研究成果の普及などの諸施策を行ってきた。平成7年度においては,これらの施策に加え,新たに,読書指導の改善・充実のための読書指導研究指定校の指定,地域ぐるみの伝統文化教育の推進を図るための伝統文化教育推進地域の指定を行った。
また,教育課程の充実のためには,不断の実施状況の把握や関係資料の収集,分析などが不可欠であり,従来から教育課程の実施状況に関する総合的調査研究を行ってきた。平成7年度においては,これらの一環として教育課程に関する基礎研究の実施に着手した。
2 月2回の学校週5日制の実施
(1) 学校週5日制の導入の趣旨
学校週5日制は,これからの時代に生きる子どもたちの望ましい人間形成を図ることを基本的なねらいとし,学校,家庭及び地域社会が一体となってそれぞれの教育機能を発揮する中で,子どもが自ら考え主体的に判断し行動できる力を身に付けるようにしようとするものである。
学校週5日制は,このような考え方に立って,幼稚園,小学校,中学校,高等学校並びに盲学校,聾(ろう)学校及び養護学校において,平成4年9月から毎月の第2土曜日を休業日として月1回,7年4月からは新たに毎月の第4土曜日を休業日として月2回実施されている。
今後,この月2回の学校週5日制の円滑な定着を図ることが課題である。
(2) 月2回の学校週5日制の定着のための課題
月2回の学校週5日制の円滑な定着を図るためには,特に次のような点に配慮して取組を進めていく必要がある。
(ア) 学校の教育課程の一層の改善・充実
各学校においては,これまでの学校週5日制の実施の経験を踏まえて,教育課程の基準に従い,授業時数の運用,指導内容・指導方法の全体にわたる工夫改善を一層進め,教育水準の維持に努めることが重要である。
その際,各学校の実情を踏まえつつ,子どもたちの学習負担に配慮しながら,各教科の教材等の精選,学校行事や各教科等外の活動の精選,短縮授業の見直しなどを総合的に行うよう努めることが大切である。
学校の取組については,ともすれば授業時数の運用の工夫のみに目が向きがちになるが,子どもたちが学校での学習や生活全体を通して,どのような資質や能力を身に付けるかという観点から,教育課程全体を視野に入れ,授業時数の運用の工夫のみならず指導内容・指導方法の全体にわたり関連を図った効果的な工夫を行う必要がある。
また,教育課程にとどまらず,学校開放の一層の推進や学校全体の業務の具体的な見直しなどの学校運営全体にわたる工夫改善も大切である。
文部省では,このような学校の取組が適切に進められるよう,平成7年度から,研究推進校を全国で94校指定し,月2回の学校週5日制の実施に伴う,教育課程上の工夫や学校運営上の工夫について研究を行っているところである。
(イ) 家庭や地域社会における対応の充実
家庭や地域社会においては,一人一人の子どもが主体的に使うことができる時間を確保し,ゆとりのある生活の中で個性を発揮したり,豊かな感性や社会性,創造性を培ったりすることに役立つよう,異年齢や同年齢の子ども同士の遊びや多様な地域活動,自然との触れ合い,青少年団体の活動への参加,ボランティア活動などの様々な活動や体験の場や機会の充実を図る必要がある。
なお,休業日となる土曜日においては,保護者が家庭にいない子どもや,特殊教育諸学校の子どもなどに対して,学校などにおいて,必要に応じ,遊び,スポーツ,文化活動などを実施することも考慮する必要がある。このため,これに要する経費が地方交付税において措置されている。
(3) 今後の見通し
月2回を超える学校週5日制については,我が国の学校の教育内容等についての基本的な検討を行うとともに,月2回の学校週5日制の定着状況や国民世論の動向を含め,総合的な検討を行う必要がある。
学校週5日制の今後の在り方については,中央教育審議会において,今後における教育の在り方及び学校・家庭・地域社会の役割と連携の在り方などについての審議に関連して検討されている。
3 豊かな心の醸成−道徳教育・ボランティア教育の充実−
(1) 道徳教育の重要性
道徳教育は,児童生徒が,人間としての在り方を自覚し,人生をより良く生きるために,その基盤となる道徳性を育成するものである。教育が人格の完成を目指して行われるものである以上,道徳教育は学校教育の基本にかかわるものと言える。
特に近年では,子どもたちを取り巻く環境が大きく変化し,また,道徳性の問題を想起させるような様々な社会問題も発生しており,家庭や地域社会とも十分に連携しながら,道徳教育の一層の充実を図ることが求められている。
このため,現行学習指導要領では,児童生徒の道徳性の発達等を考慮して,内容の再編成,その重点化及び各教科・特別活動における指導の充実など,道徳教育の大幅な改善を図っている。
(2) 文部省における道徳教育関連施策
文部省では,この現行学習指導要領の趣旨の具体化を図り,道徳教育の一層の充実に努めるため,次のような様々な施策を進め,その振興を図っている。
* 道徳教育推進校の指定
* 都道府県における道徳教育振興会議の設置
* 市町村道徳教育推進事業の実施
* 教員及び教育委員会の指導主事等を対象とする講座の開催
* 道徳教育用教材の開発
* 伝統文化教育推進事業(平成7年度から)
(3) 伝統文化教育の推進
文部省が,平成5年度に,全国の小・中学校を対象として行った道徳教育推進状況に関する調査結果によると,全体としては道徳教育の充実が図られている状況がうかがわれるが,我が国の伝統文化を大切にし郷土や国を愛する心の育成が十分でないこと,そして,特に地域の伝統芸能や伝統工芸などに触れる体験活動があまり取り入れられていないことなどが示された。
この調査結果を踏まえ,文部省では,平成7年度から新たに「伝統文化教育推進事業」を実施している。本事業は,次代を生きる児童生徒が,学校教育の場において,地域の伝統文化に触れ,それを体験する活動の機会を持つことにより,文化と伝統に対する理解を深め,尊重し,さらに継承,発展させる態度の育成を図ることを目的としている。事業の内容としては,各都道府県において地域の伝統文化を生かした教育のできる地域を伝統文化教育推進地域として指定するとともに,各推進地域内の小・中・高等学校を伝統文化教育推進校として指定し,各学校間で連携して,地域社会の協力の下に,伝統文化教育の推進を図るものである。
(4) ボランティア教育
(ア) ボランティア教育の意義と現状
近年,@高齢化の進展等に対応し,福祉の重要性や高齢者・障害者に対する認識と理解を深めることや,他の人々に対する思いやりの心や公共のために尽くす心を養うこと,また,A都市化,少子化,核家族化が進む中で生活体験の希薄化している児童生徒が,体験を通して勤労の尊さや社会に奉仕する精神を養うこと,などがこれまで以上に重要となってきている。
各学校においては,地域での清掃活動,公共の場での花壇や花づくり,老人ホームでの奉仕活動をするなど,地域の実情に応じ,様々な取組が進められているが,今後,更にその促進を図ることが求められている。
(イ) ボランティア教育推進のための施策
学習指導要領において,社会奉仕の精神を養い,公共の福祉と社会の発展に尽くそうとする態度を育成することを重視して,例えば,特別活動で奉仕的行事を明示するなど,内容の一層の充実を図るとともに,これらの趣旨を徹底するために,文部省では,次の施策を行っている。
* ボランティア教育研究協議会の開催
* 指導実践事例等を掲載した指導資料の作成
* いきいき体験活動モデル推進事業
4 豊かな科学的素養の育成と環境教育の推進
(1) 豊かな科学的素養の育成
近年,科学技術への興味・関心の低下など,科学技術離れの傾向が指摘されている。しかし,我が国の社会・経済の発展は科学技術の進展に支えられてきたところが大きく,その中で理科教育の役割は極めて大きなものがあり,その一層の充実に努めていく必要がある。
文部省としては,理科については,従来から一貫して,観察・実験を通して自然に対する科学的な見方や考え方,関心・態度などの育成を重視する観点から内容の改善に努めてきた。現行の学習指導要領においても,観察・実験を一層重視するとともに主体的な探求活動,問題解決的な学習が充実するよう,小・中・高等学校を通じてその改善を図った。
このため,文部省では,学習指導要領の趣旨の実現を図るため,講習会の開催や指導資料の刊行に加え,理科教育設備基準を改訂し,実験用機器の計画的な整備充実を進めている。
さらに,平成7年度は,理科教育の一層の充実を図るため,新たに次の事業を実施している。
1. 観察実験指導力向上講座の開催(5会場 250人)
小・中・高等学校理科教育担当教員の観察・実験等に関する指導力向上等を図
るための講習会を開催する。
2. 教育センターに対する理科教育設備の整備(3センター)
地方において教員研修の中核となる教育センターに対して,新しい理科教育設
備基準に基づいた理科教育設備の整備を行う。
3. 科学学習センターの設置(3か所)
児童生徒の科学的な体験学習活動を促進するための科学学習センターを,市町
村単位程度の一定地域に整備する。
今後,各学校においては,ややもすると知識の伝達に偏りがちであると指摘されている授業の在り方を見直し,児童生徒の主体的な探求活動を重視し,自ら学ぶ意欲や主体的な学習の仕方を身に付けさせるものへと変えていくことが望まれる。
(2) 環境教育の推進
(ア) 学校教育における環境教育の意義と現状
地球的規模の環境問題や都市・生活型公害などの解決に向けて,現在,世界的に取組が進められている。我が国においても,環境基本法に基づき,平成6年12月に環境基本計画が策定され,各種の施策を総合的に進めることとされ,その中で環境教育・環境学習を推進することが示されている。
このような状況の中で,学校教育においては,従来から,児童生徒の発達段階に即して小・中・高等学校を通じて,社会や理科,保健体育などの教科等の中で環境に関する学習が行われてきている。
現行の学習指導要領においても,環境を大切にし,より良い環境づくりや環境の保全に配慮した望ましい行動がとれる人間を育成するといった視点を重視して,各教科等の指導内容の一層の充実を図っている。
(イ) 環境教育推進のための施策
各学校では,身近な地域の環境問題の学習や豊かな自然環境の中での様々な体験活動を通して,自然の大切さを学ぶ学習など各種の取組が進められている。文部省としては,これらの取組を支援し,環境教育の一層の振興を図るため次のような施策を実施している。
* 教師用指導資料の作成
平成2年度 「中学校・高等学校編」作成・配布
平成3年度 「小学校編」作成・配布
平成6年度 「事例編」作成・配布
* 環境教育推進モデル市町村の指定(8市町)
* 全国環境教育フェアの実施【用語解説】
* 環境教育担当教員講習会の実施
* 環境のための地球学習観測プログラム(GLOBE)【用語解説】モデル校の
指定(中学校21校)(平成7年度から)
第2節 高等学校教育の改革
1 高等学校教育の改革の推進
(1) 高等学校教育の個性化・多様化
今日,高等学校への進学率は96%に達し,生徒の能力・適性,興味・関心,進路等は極めて多様化している。このような多様な生徒の実態に対応し,各学校が生徒それぞれの個性を最大限に伸長させるため,生徒の学習の選択幅をできるかぎり拡大し,多様な特色ある学校づくりを行うことが大切である。
文部省においては,これまで高等学校教育の多様化・個性化を図るため,様々な施策を行ってきた。
特に,平成3年4月の中央教育審議会答申「新しい時代に対応する教育の諸制度の改革について」及びこの答申を受けて更に具体的な改善方策について検討を進めた
u高等学校教育の改革の推進に関する会議」の報告を踏まえて,総合学科の創設や単位制高等学校の全日制課程への拡大などを行い,新しいタイプの高等学校の設置や特色ある学校づくりを推進している。
また,平成6年度から実施している新しい高等学校学習指導要領などによって,多様な科目の開設など生徒の選択を中心としたカリキュラムづくりを進めている。
(2) 新しいタイプの高等学校
(ア) 総合学科
総合学科は普通科及び専門学科と並ぶ第3の学科として,平成6年度から設置されている。
総合学科の教育の特色としては,将来の進路選択を視野に入れた自己の進路への自覚を深めさせる学習を重視すること,生徒の個性を生かした主体的な学習を通して学ぶことの楽しさや成就感を体験させる学習が可能となることが挙げられる。教育課程については,「産業社会と人間」,「情報に関する基礎科目」,「課題研究」の3つの科目を原則履修科目としていること,多様な選択科目の開設が特徴として挙げられる。
総合学科には高等学校教育改革のパイオニア的役割が期待されており,平成6年度には国立1校,公立6校の計7校,7年度には国立1校,公立14校,私立1校の計16校が設置され,8年度以降の設置に向けた検討も各県で行われている。
(イ) 単位制高等学校
単位制高等学校は,学年による教育課程の区分を設けず,かつ学年ごとに進級認定は行わないで,卒業までに決められた単位を修得すれば,卒業を認めるものである。昭和63年度から定時制・通信制課程において導入され,平成5年度からは全日制課程においても設置が可能とされた。
単位制高等学校は,生徒の幅広いニーズにこたえる多様な履修形態を可能にするため,学期ごとの入学・卒業,転・編入学の受入れ,過去に在学した高等学校において修得した単位の累積加算などが認められており,大きな成果をあげている。
平成7年4月現在,全国で87校(うち全日制課程は28校)の単位制高等学校が設置されている。
(ウ) 特色ある学校・学科・コース等
各都道府県,各学校においても,地域や学校の実態,課程や学科の特色,生徒の能力・適性,進路等を踏まえつつ教育内容・方法の多様化に取り組むとともに,情報化や国際化等の社会の変化に対応して,学科の新設・再編やコース制の導入など特色ある学校づくりを進めてきた。
また,これらの取組を一層推し進めた学校として,従来の枠にとらわれない,生徒の多様なニーズや社会の変化に柔軟に対応することを目的とした,新しいタイプの高等学校も設置されている。このような学校の中には,いわゆる総合選択制高等学校
i多様な自由選択科目やコース等による幅広い選択を可能としている高等学校)や,いわゆる国際高校(国際化の進展に対応するため外国語教育の充実を図り,帰国生徒の積極的な受入れを行っている高等学校)などがある。
(3) 生徒の選択履修の機会の拡大
(ア) 新しい高等学校学習指導要領によるカリキュラムの編成
平成6年4月の入学生から実施している新しい学習指導要領は,自ら学ぶ意欲と社会の変化に主体的に対応できる能力の育成や,個性を生かす教育の充実に努め,人間としての在り方生き方に関する教育を充実することなどを主なねらいとしている。また,現行学習指導要領は,生徒の多様な実態や社会の変化に適切に対応できるよう内容の充実を図るとともに,各学校の創意工夫を生かし,各学校の特色ある教育活動を促すものとなっている。
特に,生徒の選択履修の機会を拡大するため,地域や学校の特色等により,学習指導要領に示す教科・科目だけでは生徒の学習ニーズに対応できないような場合において,これら以外の教科・科目を設置者の判断により設けることが,より一般的に可能となっている。
各学校においても,このような趣旨から,多様な科目の開設について努力がなされている。
(イ) 自校以外での学習成果の単位認定の導入
自校以外での学習成果の単位認定については,従前から定時制・通信制課程の生徒の学習負担軽減のための技能連携制度等があったが,生徒の多様な実態に対応して生徒の学習の機会を拡大するため,平成5年度から学校間連携等の制度を導入した。
学校間連携は,生徒の選択学習の機会を拡大する観点から,生徒に他の高等学校の科目を受講する機会を与え,その学習の成果を自校の科目の単位として認めるものであり,平成6年度には12県で実施された。
文部省では,この制度の実施を一層進めるため,実践的な調査研究を行う学校間連携促進事業を平成7年度から実施している。
2 高等学校入学者選抜方法等の改善
(1) 高等学校入学者選抜等の改善
高等学校の入学者選抜をめぐっては,従来から過度の受験競争による人間形成への悪影響や,社会の学歴信仰に基づく偏差値偏重等が指摘されてきた。このため,これまでにも高等学校の入学者選抜の在り方については,逐次改善の努力が進められてきた。
平成3年4月の中央教育審議会の答申及び「高等学校教育の改革の推進に関する会議」の報告を受け,5年2月に事務次官通知「高等学校の入学者選抜について」を出して,国・公・私立を通じた入学者選抜の改善に向けた関係者の一層の努力を促している。
現在,これらの基本的考え方に基づいて,高等学校教育の個性化・多様化や生徒の実態の多様化などに対応して,選抜方法の多様化,選抜尺度の多元化の観点から,各都道府県や各学校においては,@調査書と学力検査の比重の置き方の弾力化,A調査書の評価や活用の工夫,B学力検査の工夫,C推薦入学の積極的な活用,D受験機会の複数化の工夫,E面接の活用等について改善を進めている(表U−3−1
公立高等学校の入学者選抜改善状況の推移)。これからもより良い選抜方法に向けた一層の努力が,各都道府県の教育委員会,各学校に求められる。
私立高等学校における入学者選抜に関しても,公立学校と同様に多様な選抜の工夫,推薦入学の活用,学力検査の内容の改善,調査書の活用など選抜方法の多様化,選抜尺度の多元化について一層の改善が求められる。
(2) 保護者の転勤に伴う転入学者等の受入れの推進
近年,経済活動の広域化や国際化の進展に伴って,全国的規模で転勤する保護者や海外から帰国する保護者が増加している。
文部省では,保護者の転勤に伴う高校生の転入学等について,昭和59年以降,受入れ機会の拡大や受験手続の簡素化・弾力化,特別定員枠の設定,情報提供の充実等について配慮するよう,各都道府県等に対して繰り返し要請を行っている。
また,文部省では,国立教育会館と全国の都道府県教育委員会等の端末機とをパソコン通信で接続した「高等学校転入学情報等提供システム」によって,全国の転・編入学に関する情報の提供を行っている。希望者は,各都道府県の教育委員会や私立学校担当部局の転入学情報提供窓口,又は国立教育会館に対して照会することにより,学校概要,転入学試験等の概要,受入れ数など必要な情報を入手することができる。また,企業等へも情報提供を行っている。
3 職業教育の活性化
(1) 職業教育の現状
高等学校の職業教育は,産業界各分野で必要な知識技術を修得させ,有為な職業人の育成の面で重要な役割を果たしている。専門高校(従来の「職業高校」。(2)で詳しく説明。)の生徒数は,社会の高学歴化に伴う普通科志向や産業構造の変化等により漸減の傾向にあり,平成7年度では,約112万人である。また,高等学校の生徒数全体に占める割合は,昭和40年代半ばまでは約40%であったが,平成7年度には,約24%となっている。
平成6年度から実施されている学習指導要領においては,産業社会の変化に適切に対応するため,情報関連科目の充実や問題解決能力の育成に資する「課題研究」の新設等,各教科・科目の内容の改善を図った。
(2) 職業教育の活性化へ向けて
文部省では,職業教育の一層の活性化を図るため,平成6年4月から,「職業教育の活性化方策に関する調査研究会議」において検討を行ってきたが,7年3月に「スペシャリストへの道」と題する最終報告書をとりまとめた。主な内容は下記のとおりである。
1. 職業教育はすべての人にとって必要な教育であること,また,職業高校におい
ては「将来のスペシャリスト」として必要とされる「専門性」の基礎・基本を
重点的に教育し,生徒はここで学んだことを基礎に,卒業後も生涯にわたり,
職業能力の向上に努めることが重要になっている。このため,従来の「職業高
校」という呼称を「専門高校」と改め,職業教育及び専門高校のこれからの在
り方を明確に打ち出した。
2. 職業教育は,すべての人にとって必要な教育であることから,小学校,中学
校,普通高校においても,職業観・勤労観を育成する教育を充実する。
3. 専門高校及び専攻科において,産業界,大学等から専門家を招聘(しょうへ
い)し,非常勤講師として最新かつ高度な知識・技術を直接教授してもらう機
会を拡充する。
4. 大学入試において,推薦入学の拡大や大学の判断により特別選抜を行うことが
できるようにすることにより,専門高校卒業生が専門高校で学んだ知識・技術
を継続して学習できる道を拡充する。
(3) 施設・設備の基準の改訂
文部省では,産業教育振興法に基づき,昭和27年から高等学校における実験実習用施設・設備の整備充実を図っている。産業社会の技術革新,現行学習指導要領の実施,総合学科の創設等に伴い,基準施設・設備の内容の高度化,カリキュラムの変化に対応した柔軟な基準の構成方法等について昭和51年以来18年ぶりに見直しが行われ,平成6年6月に,理科教育及び産業教育審議会の答申を受け,産業教育振興法施行令等の改正を行った。
(4) 全国産業教育フェア
高等学校における産業教育の一層の振興を図るため,平成3年度から「全国産業教育フェア」を開催している。これは,専門高校の生徒の研究発表,作品展示,実演等を行い,専門高校の魅力を紹介するものである。7年度は11月に和歌山県で開催することとしている。このような活動を通じ,多くの人々に産業教育に対する理解を一層深めることが期待される。
第3節 一人一人を大切にする生徒指導・進路指導を目指して
1 生徒指導についての基本的な考え方
生徒指導は,学級担任をはじめ様々な教職員と児童生徒とのかかわりの中で,それぞれの子どもの人格のより良い発達と学校生活の充実を目指して,教育活動の全領域において行われる活動である。
それは,一部の児童生徒の問題行動への対応などに限られるものではなく,すべての子どもに対し,一人一人の人格を尊重しつつ,自主性,主体性のある子どもをどのように育てていくか,という積極的な意義を有し,学校教育において,学習指導と並んで重要な意義を持つものである。
都市化・過疎化の進行,核家族化,少子化,受験競争の過熱化や社会全般が物質面で豊かになるなど,子どもを取り巻く環境が大きく変化しつつあり,子どもたちの人間関係や生活体験の希薄化が進んでいる現在,このような生徒指導の一層の充実が求められている。
2 いじめの問題など生徒指導上の諸課題の状況
最近の学校における児童生徒の問題行動等の状況は,平成6年末中学生がいじめを苦に自殺するという痛ましい事件が発生したほか,同年12月から7年2月にかけて行われた総点検の結果,新たに多くのいじめが報告されるなど,いじめの問題が憂慮される事態となっている。また,登校拒否児童生徒数は年々増加しており,また,校内暴力はここ数年増加する傾向にある。他方,高等学校中途退学者は,依然として相当数にのぼっており,これらの問題の解決は,現在の大きな教育課題となっている。
3 生徒指導施策の推進
(1) 生徒指導の充実と関連施策
(ア) 教師の指導力の向上と生徒指導体制の強化
教師一人一人の指導力の向上のため,校内研修や教育委員会の行う教員研修等のほか,文部省においても,教員研修の実施,教師用指導資料の作成・配布等を行っている。
また,各学校における生徒指導体制の強化のため,一定規模以上の学校に専任の生徒指導担当教員を配置するほか,特に生徒指導上困難な課題を持つ学校に対しては,教員定数を加配している。
(イ) 教育相談体制の充実
生徒指導の実際においては,医学や心理学等の高度な専門的知識が要求される場合も少なくない。このため,都道府県・市町村等には,教育センター等が設けられ,それぞれの実情に応じて,多様な教育相談が展開されている。平成5年度現在,都道府県及び指定都市の教育委員会(学校教育担当部局)による教育相談機関・事業数は
234,教育相談員は 1,678人を数えるが,そこでの教育相談件数は年々増加しており,5年度は,12万 8,494件となっている。
(ウ) 学校と家庭,地域社会の十分な連携
生徒指導を充実させるためには,学校の努力だけではなく,学校と家庭,地域社会が一体となって取り組むことが不可欠である。
文部省では,各地域の様々な取組を一層進めるため,研究指定校や研究指定地域の事業を実施するほか,中央,地方を通じて広く関係者が参加して研究協議を行う推進会議等を開催している。
(エ) 生活体験や人間関係を豊かなものとする学校教育活動の実施
生徒指導においては,児童生徒の生活体験や人間関係を豊かなものとする中・長期的観点に立った指導が重要である。文部省では,児童生徒が豊かな自然環境の中で,集団宿泊生活を送る自然教室事業に対し補助を行っているほか,自然体験活動担当教員の資質向上にも努めている。
(2) いじめ・校内暴力問題への対応
いじめの発生件数は,平成5年度の調査では小・中・高等学校の合計で2万1,598件に上っており,また,6年11月には,いじめを苦に中学生が自殺するという痛ましい事件が発生したほか,同年12月から7年2月にかけて行った総点検の結果,新たに小・中・高等学校・特殊教育諸学校の合計で約1万
8,000件に上るいじめが報告されるなど,いじめの問題は極めて憂慮すべき状況にある。
また,校内暴力については,ここ数年増加の傾向にあり,平成5年度では,中学校で 1,285校(全学校の12%),高等学校で
597校(同14%)の学校で発生しており,また,発生件数については,中学校で 3,820件,高等学校で 1,725件となっている。
いじめや校内暴力は思いやりや正義感をはぐくむ学校において決して許されるものではなく,教師をはじめ関係者はその根絶に全力で取り組んでいく必要がある。
特にいじめの問題については,文部省では,平成6年12月,最近のいじめの状況等を踏まえ「いじめ対策緊急会議」を緊急に開催した。同会議は,同12月9日に「緊急アピール」を発表するとともに,7年3月13日に「いじめの問題の解決のために当面取るべき方策等について」の報告を取りまとめた。
この報告は,まず,いじめの発生をできるだけ防止するとともに,いじめについては,誰よりもいじめる側が悪いのだという認識の下に,いじめを受けている児童生徒を守っていこうという基本的な考え方に立って,学校,教育委員会,家庭,国,社会のそれぞれにおいて取り組むべき具体的な方策について,各般にわたる提言がなされている。
文部省では,この報告を受け,都道府県教育委員会等関係機関に指導通知を出すなど,その趣旨の周知徹底を図っている。また,養護教諭が,悩みを持つ児童生徒の心の居場所としての役割を果たしていることを考慮し,保健主事により適切な人材を得る観点から,学校教育法施行規則を改正し,保健主事には教諭のみならず養護教諭も充てることができるようにした。この改正は,平成7年4月1日から施行している。
また,平成7年度においては,新たに学校におけるカウンセリング等の機能の充実を図るため,高度に専門的な知識・経験を有する「スクールカウンセラー」の活用・効果等に関する実践的な調査研究を行っている。そのほか,国立教育会館における
uいじめ問題対策情報センター」の設置及び市町村教育委員会の教育相談員の充実により,国及び地方における教育相談機能の充実を図っている。
今後は,平成6年7月から開催している「児童生徒の問題行動等に関する調査研究協力者会議」において,いじめ等の問題について更に総合的な検討を行い,7年度中に必要な対応方策等を取りまとめる予定である。
(3) 登校拒否問題への対応
平成6年度間に「学校ぎらい」を理由に年間50日以上欠席した児童生徒の数は,小学生1万2,222人,中学生5万1,316人であり,これは昭和41年度の調査開始以来最多となっている。登校拒否は,本人はもちろん,家庭も悩み苦しみ,学校も対応に苦慮するなど,極めて深刻な問題であり,文部省としても重大な教育課題と受け止めている。
このような登校拒否問題については,登校拒否はどの児童生徒にも起こり得るものであるとの視点に立った指導が必要である。また,登校拒否問題に対しては,個々の登校拒否児童生徒に応じた適切な対応と同時に,学校全体において,自主性,主体性をはぐくむ指導がなされているか,適切な集団生活を行い,人間関係を育てる工夫がなされているか,児童生徒の立場に立った教育相談がなされているか,保護者や地域に開かれた学校づくりがなされているか,など様々な観点からの取組が不可欠である。
文部省では,従来から教師向け指導資料の作成,教員研修の実施,教員の配置上の配慮等に努めるとともに,「適応指導教室」の実践研究委託事業を行い,年々その拡充を図っている。適応指導教室では,登校拒否児童生徒の集団生活への適応や学校への復帰を支援するため,教育センター等に登校拒否児童生徒を集め,個別カウンセリング,集団での活動,教科指導等を行っている。また,前述の「スクールカウンセラ
[活用調査研究事業」は登校拒否児童生徒への対応もその対象とすることとしている。
(4) 高等学校中途退学問題への対応
平成5年度間に高等学校を中途退学した者は,約9万4千人に上っており,依然として大きな教育課題となっている。
この問題については,学校不適応対策調査研究協力者会議における検討を踏まえて,平成5年4月に各都道府県教育委員会等に対し,@高等学校教育の多様化,柔軟化,個性化の推進−生徒選択中心の教育課程の編成,卒業単位数を80単位に近づけること,進級認定の弾力化,A個に応じた手厚い指導を行うこと−適応指導の充実,校則の見直し,「参加する授業」「分かる授業」の徹底,B開かれた高等学校教育の仕組みを整えること−転編入学の積極的・弾力的な受入れ,などの積極的な取組を求めて通知した。
さらに平成6年度からは,積極的な進路変更による中途退学が増加するなど多様化した中途退学の現状を踏まえ,中途退学後の進路状況等を十分把握・分析するなど総合的な調査を行っている。
(5) 校則について
校則は,児童生徒が健全な学校生活を営み,より良く成長発達していくため,各学校の責任と判断の下にそれぞれ定められている一定の決まりである。校則自体は教育的に意義のあるものであるが,その内容及び運用は,児童生徒の実態,保護者の考え方,地域の実情,時代の進展等を踏まえたものとなるよう積極的に見直しを行うことが必要である。
(6) 体罰について
体罰については,学校教育法により厳に禁止されているものであるにもかかわらず,いまだに跡を絶たないことは極めて残念なことである。文部省では,従来から,各種通知や各種会議等を通じて体罰の根絶について指導を行ってきたが,今後ともその徹底を図っていくこととしている。
4 進路指導の改善・充実
(1) 中学校における進路指導の改善
進路指導は,生徒が自らの生き方を考え,将来に対する目的意識を持ち,自分の意思と責任で自分の進路を選択決定する能力・態度を身に付けることができるよう,指導・援助することである。
しかしながら,中学校における進路指導は,偏差値が極めて便利な物差しであったことなどの理由により,業者テストによる偏差値等に過度に依存したものとなり,大きな問題となっていた。
このため,文部省としては,平成5年2月に,各都道府県教育委員会等に対し通知を出し,中学校の進路指導は業者テストによる偏差値等への依存を改め,生徒一人一人の能力・適性等を踏まえた本来の進路指導に立ち返るよう求めた。さらに,この趣旨を徹底するため,都道府県教育委員会の関係者を集めた会議や中学校の教員を対象とした研修会を開催するとともに,進路指導の改善に参考となる具体的な事例を掲載した指導資料を作成した。
現在,各都道府県においては,業者テストの偏差値等に依存しない進路指導に向けた取組が進められている。
これからの進路指導の在り方を考える場合,単に業者テストを使わないということだけでなく,人間としての在り方生き方に関する指導という観点に立って,中学校の3年間を通じて計画的,継続的,組織的な指導・援助を行っていく必要がある。そのためには,特に次のような点に留意することが重要であると考えられる。
1. 生徒に,将来の生き方について多様な選択が可能であることを理解させ,生徒
が自らの進路を探索しようとする意欲や態度をしっかりと指導・援助するこ
と。
2. 生徒が,自己の将来の生き方に照らして,上級学校で学ぶ意義を理解し,目的
を持って,進学したい学校を選択するよう指導・援助すること。
3. 生徒が具体的な志望校を選択するに当たっては,日頃の学習成績に基づいて助
言し,志望の実現に向けて努力する過程を指導・援助すること。
4. 生徒が,進学志望校の選択を含め,将来の生き方を自己の意思で選択し,自分
自身で責任を負うことができるよう指導・援助すること。
進路指導を充実するためには,このような視点に立って,生徒に高等学校の訪問・見学,体験入学をさせたり,様々な職業の現場を見学・体験させたり,社会の各分野で活躍する人々を学校へ招いてその体験談を聞く機会を設けるなど,生徒の進路に関する啓発的な経験を充実させることが大切である。
このため,文部省では,平成6年度から,進路に関する啓発的な経験等を地域ぐるみで推進し,入学当初から3年間にわたり,系統的,計画的な進路指導が行われるための実践的な研究として,「中学校進路指導総合改善事業」を全国59地域で実施している。
また,文部省では,進路指導の改善と併せて,高等学校入学者選抜の改善を図るとともに,総合学科や単位制高校の設置など高等学校教育の個性化・多様化を進めている。
(2) 高等学校における進路指導の改善
高等学校における進路指導については,進学先の選定や就職先の紹介・あっせんのための指導に陥っているとの指摘がある。
高等学校においては,中学校の進路指導の改善を踏まえ,人間としての在り方生き方の指導を一層充実し,生徒が自らの意思と責任で進路を選択決定する能力・態度を育成することができるよう指導していくことに重点を置くことが必要である。
そのためには,高等学校卒業後就職する生徒はもちろん,大学等に進学する生徒についても,自己の将来の進路を主体的に選択することができるよう,働くことや社会に奉仕することの喜びやそれによって得られる達成感を体得させる学習を行うことが重要である。
このため,文部省では,平成5年度から,高等学校の普通科の生徒を主たる対象として,「勤労体験学習総合推進事業(愛称LETS)」を全国5地域で実施している。これは,働くことや社会に奉仕することの喜びを体験させることを通じて,将来の生き方や職業選択を視野に入れた進路の自覚を高めることを目的としたものである。この事業においては,実施校である高等学校を中心として,一定地域のPTA,地元企業等が連携・協力を図り,職場見学,奉仕活動等を実施している。
第4節 体育と健康教育
1 学校における体育・スポーツの充実のために
(1) 教育内容の充実
現行学習指導要領では,体育・保健体育に関しては,小・中・高等学校を通じて生涯体育・スポーツと体力の向上を重視する観点から,内容等の改善を図り,児童生徒が自ら進んで運動に親しむ態度や能力を身に付けるとともに,自発的・自主的に運動を実践できることを目指している。
中学校及び高等学校では,生涯体育・スポーツの基礎を培う観点から選択履修の幅を拡大し,個に応じた指導の充実を図っている。また,「我が国の文化と伝統を尊重する態度の育成を重視する」観点から「格技」を「武道」に名称変更するとともに,武道及びダンスを男女とも履修できるようにするなどの改善を図った。
また,現行学習指導要領の実施に伴い,その趣旨に沿った学習指導の展開のための指導書・指導資料の作成,教育課程運営改善講座の開催のほか,各種研究指定校の指定等を行っている。
(2) 指導者の資質向上
学校教育の直接の担い手である教員の指導力の向上を図るため,文部省では,学校体育実技指導者講習会,スキー指導者講習会など各種の講習会を開催するとともに,学校体育指導ビデオ等の資料を作成している。さらに,都道府県が行う武道指導者養成事業,学校体育実技指導協力者派遣事業などに対する補助を行っている。
また,人材活用の面では,教育職員免許法の一部改正により,特別免許状制度及び特別非常勤講師制度が創設され,学校体育における社会人の活用が可能となっている。
(3) 運動部活動の充実
運動部活動は,生徒の心身の健全な発達,生涯にわたるスポーツ活動の基礎づくりなど教育的な意義が極めて大きいものである。このため,運動部活動研究推進校を指定し運動部活動の在り方についての実践的研究を行うほか,指導力の向上や指導者不足への対応のため都道府県が行う運動部活動指導者派遣事業及び指導者研修事業への補助を行うなど,その充実に努めている。
(4) 調査研究の実施
子どもが,自己の心身の発育・発達の状況に応じてそれにふさわしいスポーツを経験することは,心身の健全な発育や体力の向上を促進するだけでなく,生涯スポーツの基盤づくりや競技力の向上の観点からも極めて重要である。しかしながら,子どもを対象としたスポーツ活動では,一部で子どもの発育・発達の程度を無視して高い技能や体力を求めて練習や試合が行われ,弊害が発生している例が指摘されている現状もある。
このため,文部省では,小学生の心身の発育・発達段階にふさわしいスポーツ活動の在り方について総合的に検討するため調査研究協力者会議を開催し,小学校における運動部活動の実態,小学生のスポーツ活動の指導者の実態と指導状況などについて調査を行い,平成7年3月にその報告を取りまとめ,関係機関に配布した。
この報告書では,小学校期は,多様なスポーツを経験させることが大切であり,子どもの心身の発育・発達特性を踏まえた科学的トレーニングを重視し,スポーツの特性に触れさせ楽しさや喜びを味わわせることが大切であることなどが提言されている。
文部省では,引き続き,中学生・高校生のスポーツ活動の在り方について総合的に検討するため,平成7年度から調査研究を行うこととしている。
2 心とからだの健康を保つために
(1) 健康教育の充実
近年の都市化,情報化,核家族化,少子化など社会環境の急激な変化は,子どもの心身の健全な発達に様々な影響を与えている。また,国民の健康に対する関心が一層高まってきており,心身の健康の保持増進を図るために必要な知識及び態度の習得に関する教育である健康教育がますます重要になってきている。学校においては,生涯を通じて健康で安全な生活を送るための基礎を培うこととなっており,保健,安全,給食の各分野にわたる指導が,「体育」,「保健体育」等の各教科,「道徳」,「特別活動」など教育活動全体を通じて実施されている。
(2) 当面する健康問題への対応
(ア) エイズ教育の充実
エイズは,近年,世界各国で爆発的に増加し,我が国においても若い世代を中心に感染が広がりつつあるなど,今後の蔓延(まんえん)が危惧(きぐ)される状況にある(図U−3−1
我が国におけるエイズウィルス患者・感染者の年齢構成(平成7年4月末現在))。このため,児童生徒の発達段階に応じて正しい知識を身に付けさせることにより,エイズを予防する能力や態度を育てるとともに,エイズ患者・感染者に対する偏見や差別を除き人間尊重の精神を育てることが重要である。文部省では,小・中・高校生用教材及び教師用指導資料の作成・配布,教職員の研修,エイズ教育推進地域の指定によるエイズ教育の実践研究等を行っている。平成7年度からはエイズ教育情報の全国的な普及と活用を図るため,「エイズ教育情報ネットワーク整備事業」を実施することとしている。
(イ) 健康診断の見直し
近年の児童生徒等の健康上の問題の変化,医療技術の進歩,地域における保健医療の変化などを受けて,児童生徒等の健康診断の項目等を見直し,平成7年度から胸囲測定の削除や心電図検査の追加などが行われ,新たな検査項目による健康診断が行われている。
また,予防接種制度の見直しが行われ,予防接種の接種義務から努力義務への緩和,BCGを除く予防接種の個別接種の推進,予防接種による健康被害についての救済措置の充実などの法改正が行われ,平成6年10月から施行された。これに伴い,学校における健康診断や予防接種が適切に実施されるよう指導の徹底を図っている。
(ウ) 心の健康相談活動の充実
近年,学習面,いじめなどの友人関係,家庭事情などについて様々な訴えを持つとともに,これらを背景として,心因性の頭痛,不快感など種々の症状を訴えて保健室を訪れる児童生徒が増えていることなどから,適切なカウンセリングや心の健康に関する保健指導が必要である。このため,「保健室における相談活動の手引」の作成や,養護教諭に対する「ヘルスカウンセリング指導者養成講座」等の研修会を通じて指導の充実を図っている。
(3) 安全教育の充実
現行学習指導要領では,保健体育において交通安全や応急処置に関する内容を充実するとともに,「中学校安全指導の手引」についても改訂を行い,防災教育を含む安全指導の一層の充実を図っている。交通安全に関しては,高等学校における実技を含めた二輪車に関する指導の内容・方法について実践的な調査研究を行う「二輪車研究指定校」を指定している。応急処置については,各都道府県において,高等学校及び中学校の保健体育の担当教諭を対象に,心肺蘇生(そせい)法等の技能研修を行っている。
[Image]防災訓練の風景 i静岡県小山町立須走中学校)
(4) 給食指導の充実
(ア) 学校給食の役割と現況
学校給食は,栄養のバランスのとれた食事を提供することにより,児童生徒の健康の増進,体位の向上及び正しい食習慣の形成を図るとともに好ましい人間関係を体得させるものである。近年,不規則な食生活や偏った食事内容など,食に関連する児童生徒の健康問題が指摘されている中,ますますその役割が重要になっている。平成6年5月現在,全国で約1,253万人の幼児児童生徒が学校給食を受けている(表U−3
|2 学校給食実施率(幼児児童生徒数比)(平成6年5月1日現在))。
(イ) 学校給食指導の充実と栄養教育の推進
「学校給食指導の手引」の活用や研修会を通じて,給食指導の一層の充実を図っている。また,教科や特別活動等と連携した栄養教育を推進するため,学校給食や学校栄養職員の専門性を活用した栄養教育の在り方について実践的な調査研究を行う「栄養教育推進モデル事業」を平成6年度から開始した。
(ウ) 食事内容の多様化と米飯給食の推進
各学校では,郷土や姉妹都市の料理を給食の献立に活用したり,各自が自主的に献立を選択できるバイキング給食,複数献立など様々な取組が行われ,食事の内容や方法の充実,多様化が進められてきている。また,食事内容の一層の充実を図るため,所要栄養量の基準等の改定を行った。
米飯給食については,食事内容の多様化を図るとともに,日本人の伝統的食生活の根幹である米飯の正しい食習慣を身に付けさせる見地から教育上有意義であり,昭和
51年度から学校給食に導入して計画的に推進している。平成6年度の平均実施回数は,週2.6回に達している。
第5節 幼児期にふさわしい教育の推進
1 幼稚園教育の振興
(1) 現状と課題
幼児期は,人間形成の基礎を培う極めて重要な時期であり,特に近年の少子化,核家族化,都市化など幼児を取り巻く環境の著しい変化をも背景として,幼稚園教育に対する国民の期待が高まってきている。
このため,文部省では,これまで3次にわたる振興計画を策定し,第3次の計画 i平成3年3月策定)では,希望するすべての3,4,5歳児が就園できるように幼稚園の整備等を図ってきている。この結果,平成7年5月現在,幼稚園数は1万
4,856園,在園児数は 180万 8,433人,また,幼稚園就園率は5歳児約63%,4歳児約57%,3歳児約28%となっている。
しかしながら,全国の市町村数の30%程度に当たる約 940の市町村に幼稚園が設置されていないなど,地域によりその普及状況等に格差がある。今後においても幼稚園の整備や指導体制の充実等に努め,幼稚園教育の一層の振興を図る必要がある。
(2) 保護者の経済的負担の軽減等
家庭の所得状況に応じた保護者の経済的負担の軽減や公私立間の負担の格差の是正を図るため,就園奨励事業を実施する市町村への補助を行っており,平成7年度の保育料等の減免単価は表U−3−3
平成7年度幼稚園就園奨励費補助の保育料等減免単価のとおりである。また,幼稚園教育の振興を図るため,公私立幼稚園の施設の整備のための経費の補助の充実等にも努めている。
2 一人一人に行き届いた教育の推進
文部省では,幼稚園教育の充実を図るため,幼児一人一人に行き届いた教育が行われるよう,次のような施策を行っている。
(1) 教育内容等の改善
幼稚園教育要領において,幼稚園教育は環境を通して行うことを基本とし,幼児一人一人の発達の特性を生かした指導等を重視することとされている。現在,この円滑な実施のための講座・研究集会等の開催や指導資料の作成等を行っている。
さらに,幼児教育の在り方全般について,都道府県等への研究委託,研究指定校での研究等を行っている。
(2) 教育環境の整備充実
幼稚園教育要領の趣旨を踏まえた人的・物的教育環境の整備充実の在り方について検討していた「幼稚園の教育環境に関する調査研究協力者会議」が平成6年12月に出した報告を受け,7年2月に幼稚園設置基準を一部改正し,@1学級の幼児数を40人以下の原則から35人以下の原則へ引き下げ,A平屋建の原則を二階建以下の原則に緩和,B園具・教具に関する規定の大綱化等を行い,同年4月から施行した。
第6節 障害に配慮した教育
1 一人一人の障害に応じた教育の推進
障害等により,通常の学級における指導によっては十分な教育効果が期待できない児童生徒については,その能力を最大限に引き出し,社会的な自立及び参加を可能な限り実現するため,障害の種類,程度等に応じ,特別な配慮の下に,より手厚く,きめ細かな教育を行うこととしている。
このような学校教育の一分野を我が国では特殊教育と呼んでおり,障害の種類と程度に応じて,盲学校,聾(ろう)学校及び養護学校(総称して特殊教育諸学校という。)や小・中学校の特殊学級において,または通級により特別の指導が行われている。
特殊教育においては,障害の種類と程度に応じた特別の教育課程,少人数の学級編制,必要に応じ特別の教科書,専門的な知識・経験のある教職員,障害に配慮した施設・設備等により教育を行っている。文部省では,障害児の保護者の経済的負担の軽減を図り就学を奨励する特殊教育就学奨励事業を行っている。また,昭和46年に設置された国立特殊教育総合研究所では,国立久里浜養護学校との相互協力の下に特殊教育に関する実際的研究を総合的に行い,特殊教育関係職員に対する専門的,技術的研修等を行っている。
平成6年5月現在,特殊教育を受けている幼児児童生徒数は16万8,239人,このうち義務教育段階にある児童生徒は13万1,113人であり,これは同じ年齢段階にある児童生徒全体の約1%に当たる。
2 新たな課題に対応した特殊教育の充実
(1) 病気療養児の教育の充実
病気のため病院等に入院しているいわゆる病気療養児の教育については,病院等に併設し又は隣接する病弱養護学校及び小・中学校の病弱・身体虚弱特殊学級において行われている。近年における病気の種類の変化や医学等の進歩に伴う治療法の変化により,入院期間が短期化したり,入退院を繰り返すなどの傾向が見られ,これに対応した教育の改善が求められている。このため,平成5年度から「病気療養児の教育に関する調査研究協力者会議」を開催して検討を行ってきたが,6年12月にその報告がまとめられた。これを受け,@入院中の病気療養児の実態の把握,A適切な教育措置の確保,B教職員の専門性の向上など,病気療養児の教育の改善・充実について,各都道府県教育委員会教育長あてに通知を行った。
(2) 学習障害児等への指導
学習障害【用語解説】については,平成4年度から調査研究協力者会議を開催して検討を行ってきた結果,7年3月に,学習障害の定義や該当児童生徒の実態把握の方法及び指導の基本的な在り方について取りまとめた中間報告を行った。文部省では,これを受け,学習障害及びこれに類似する学習上の困難を有する児童生徒に対する指導に関し,新たに学習障害児等担当指導主事講習会を開催するとともに,小・中学校の通常の学級を担当する教員を対象とし,学習障害児等理解啓発リーフレットの作成を開始した。
(3) 盲・聾・養護学校高等部における職業教育の充実
近年における社会情勢や雇用環境の変化,生徒の実態の多様化等に対応した職業教育を推進するため,平成6年度から,盲・聾・養護学校の高等部の職業教育や職業学科の在り方,職業自立のための方策等について調査研究を行っている。
(4) 通級による指導の充実
通級による指導とは,言語障害,情緒障害,弱視,難聴等の比較的軽度の障害のある児童生徒が,各教科の大部分は小・中学校の通常の学級で受け,障害に応じた特別の指導を特別の指導の場(通級指導教室)で受けるものである。これについては,新しい特殊教育の一形態として,平成5年度から制度的に実施しており,第6次義務教育諸学校教職員配置改善計画に基づき,必要な教員定数を配置している。
第7節 人権尊重の教育
1 同和教育推進のために
(1) 基本的考え方
同和教育の中心的課題は,法の下の平等の原則に基づき,社会の中に根強く残っている不合理な部落差別をなくし,人権尊重の精神を貫くことである。
このため文部省では,従来から,学校教育及び社会教育を通じ,広く国民の基本的人権尊重の精神を高めるとともに,対象地域における教育上の格差の解消と教育,文化水準の向上に努めることを基本として,次の方針の下に同和教育の推進に努めてきた。
1. 日本国憲法と教育基本法の精神にのっとり,基本的人権の尊重の教育が全国的
に正しく行われることを推進すること。
2. 地域の実態を十分に把握しこれに即応した配慮に基づいた教育を推進するこ
と。
3. 同和教育と政治運動や社会運動との関係を明確に区別し,「教育の中立性」が
守られるよう留意すること。
(2) 同和教育振興のための施策
文部省としては,以下のような施策を講じ,引き続き同和教育の充実を図ることとしている。
(ア) 現行学指導要領に基づく同和教育の実施
現行学習指導要領では,同和問題にかかわる内容は,基本的人権尊重の精神を高めるため社会科や道徳において特に配慮したところであり,例えば社会科では日本国憲法に関する学習の中で基本的人権尊重の重要性を指導し,道徳では差別せず公正公平に振る舞うことなどを指導することとしている。
(イ) 教育推進地域の指定等
同和教育の改善・充実に資するため,教育推進地域及び研究指定校の指定による研究実践の委嘱事業を実施している。
これらの教育推進地域の実践活動や研究指定校の研究成果については,研究協議会を開催して公表することにより,同和教育の充実向上に努めている。
また,平成6年度には,学校における同和教育の一層の改善・充実に資するため, u学校における同和教育指導資料−学校における同和教育の推進と差別事象に関する指導について−」などを作成し,全国の教育委員会に配布している。
(ウ) 高等学校等進学奨励費補助事業
経済的な理由で進学が困難な対象地域の同和関係者の指定の高等学校等への進学を奨励するため,奨学金等を貸与する事業を行う府県・指定都市に対して,それに必要な経費の3分の2を補助するものであり,平成7年度においては,奨学金の単価増を図った。
2 「児童の権利に関する条約」と学校における教育の充実
平成元年11月の国連総会において採択された「児童の権利に関する条約」は,世界の多くの児童が,今日なお,貧困,飢餓などの困難な状況に置かれていることから,世界的な視野から,児童の人権の尊重,保護の促進を目指したものである。我が国においては,6年4月22日に批准されたところである(効力発生は6年5月22日)。
本条約は,我が国が既に締結している国際人権規約や,憲法,教育基本法と軌を一にするものであり,学校教育,社会教育を通じて広く国民の基本的人権尊重の精神が高められ,児童が人格を持った一人の人間として尊重されることが必要である。学校教育においては,児童生徒の人権に十分配慮し,一人一人の個性を大切にした教育指導や学校運営が行われることが極めて重要であり,この条約を契機として,更に適切な教育指導や学校運営が図られることが大切である。
このような観点から,文部省では平成6年5月20日に文部事務次官通知を出した。この通知では,本条約の趣旨を踏まえ,いじめや校内暴力の問題について,家庭や地域社会との緊密な連携の下に真剣な取組を推進することや,登校拒否,高校中退の問題について児童生徒の個性を尊重し適切な指導が行なわれるよう一層の取組を行うことなど,関係者の努力を促している。
また条約の趣旨の徹底を図るために,文部省はこれまで,各種の広報誌・刊行物や会議,学校関係者等を対象とする研修等においてこの条約の趣旨・内容の周知に努めており,都道府県等においても資料の作成等様々な広報周知活動が行われている。学校における教科指導では,中学校社会科公民的分野や高等学校の現代社会,政治・経済,家庭一般などにおいて,基本的人権の尊重や人権に関する国際法の意義と役割,子どもの成長や人間形成などについて取り扱うこととされており,特にこれらの教科の教科書では,本条約が具体的に取り上げられている。
第8節 より良い教科書のために
1 教科書が使用されるまで
教科書は,学校における教科の主たる教材として,児童生徒が学習を進める上で重要な役割を果たすものである。教科書は次のような過程を経て,児童生徒の手に渡り使用されている。
まず,民間の教科書発行者により図書が著作・編集される。その図書につき文部省が検定を行い,この検定を経た図書が,学校で教科書として使用される資格を与えられる。
次に,検定を経た教科書の中から,学校の設置者である教育委員会(国・私立学校では校長)が,どの教科書を使用するか調査研究を行い,その地域,学校に最もふさわしい教科書を採択する。
採択された教科書は,教科書発行者が製造し,全国に存在する教科書供給業者に依頼して各学校に供給し,新学期に確実に児童生徒の手に渡り使用される。
平成7年度においては, 1,733種類,1億 7,483万冊の教科書が発行・使用されている。
2 教科書検定制度の充実
(1) 教科書検定の趣旨
教育の機会均等を実質的に保障し,全国的な教育水準の維持向上を図るため,学校教育法により,小・中・高等学校及び特殊教育諸学校においては,文部大臣の検定を経た教科書又は文部省が著作の名義を有する教科書を使用しなければならないことになっている。
教科書検定制度は,教科書の著作・編集を民間の発行者に委ねることにより,著作者の創意工夫に期待するとともに,文部大臣が検定を行うことにより,客観的かつ公正であって,適切な教育的配慮がなされた教科書を確保することをねらいとしているものである。教科書の検定は,教科用図書検定基準に基づき,教科用図書検定調査審議会の審議を経て,公正かつ慎重に行われている。
なお,教科書検定については,憲法に違反するという意見が一部にあるが,最高裁判所において合憲,適法であるとの結論が出されている。
(2) 教科書検定の実施と検定結果の公開
現在の教科書検定制度は,臨時教育審議会答申を受けて,検定の手続と基準の大幅な簡素化・重点化等を行うことにより,簡明で分かりやすい制度の実現を目指すとともに,教科用図書検定調査審議会の役割と責任を重視したより公正で適切な審査が行われるようにしたものである(図U−3−2
検定手続のフローチャート)。この制度は,平成2年度以降,現行学習指導要領に基づいて編集される教科書の検定から順次適用されており,6年度には小学校用教科書と高等学校用教科書(主として高学年用)について検定を実施した。
また,平成3年度からは,国民の教科書に対する関心にこたえ,教科書検定への理解を一層深めるため,教科書の検定に申請された図書を検定審査終了後公開している。7年度も,6年度と同様,全国6か所で公開を実施するとともに,検定についての理解を深めるため,検定制度の意義や運用等についての普及用パンフレットを作成し,配布した。
3 義務教育教科書の無償給与
義務教育教科書無償給与制度は,憲法26条に掲げる義務教育無償の精神をより広く実現する制度として,昭和38年度以来実施されており,国公私立すべての義務教育諸学校の児童生徒に対して,国民全体の期待を込めて国庫負担により給与されている。平成7年度における無償給与に係る予算額は
440億円であり,約 1,267万人の児童生徒に対して,合計1億 3,305万冊の教科書が給与された。
第9節 魅力ある優れた教員の確保
1 教職員定数の充実
児童生徒の学習活動や学校生活の単位である学級の規模の適正化を図るとともに,教育活動を円滑に行うために必要な教職員を確保することは,教育条件整備の大きな柱の一つである。このため,国は法律で公立の小・中・高等学校及び特殊教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準を定めるとともに,これまで計画的にその改善を図っており,小・中学校における40人学級の実施等大きな成果をあげてきている。
現在,公立の小・中学校及び特殊教育諸学校の小・中等部については,「第6次公立義務教育諸学校教職員配置改善計画」により,個に応じた多様な教育を実現するための教職員配置を行うことを柱として,次のような措置を平成5年度から10年度までの6年計画で進めている。
1. ティーム・ティーチング等の指導方法の工夫改善をするための教職員配置を行
う。
2. 登校拒否等の生徒指導上の問題に対応するための教職員配置を行う。
3. 外国人子女等に対するきめ細かな指導等に対応するための教職員配置を行う。
また,公立の高等学校及び特殊教育諸学校の高等部については,「第5次公立高等学校学級編制及び教職員配置改善計画」により,次のような措置を平成5年度から10年度までの6年計画で進めている。
1. 全日制普通科等で40人学級を実施する。
2. 少人数指導など国際化・情報化に対応した指導方法の改善をするための教職員
配置を行う。
3. 多様な教科・科目を開設している学校や新しいタイプの学校・学科への教員加
配等,多様な高等学校教育を展開するための教職員配置を行う。
4. なお,公立の小・中学校及び特殊教育諸学校の小・中等部の教職員の給与につ
いては,法律に基づき一般の公務員に比べ優遇措置がとられている。また,そ
の給与費については都道府県の負担とするとともに,義務教育費国庫負担制度
により,原則としてその2分の1を国が負担している。
2 教員養成・免許制度と採用
(1) 教員養成・免許制度の改善
我が国の教員養成は,いわゆる開放制の原則のもとに,一般大学と教員養成大学とがそれぞれの特色を発揮しつつ行われている。
平成6年3月に大学等を卒業し,免許状を取得した者は,約12万8千人(取得者実数)であり,このうち国立の教員養成大学で取得した者の率は12.8%である。また,免許状取得者のうち教員として就職した者の率は17.3%であったが,国立の教員養成大学の卒業者に限れば,26.2%である。
近年の児童生徒の状況や,国際化・情報化等社会の進展に対応するためには,教員の養成段階においても専門性及び実践的指導力の一層の向上を図る必要がある。このため,昭和63年に教育職員免許法の大幅な改正を行った。その主な内容は,大学院修士課程修了レベルの免許状を専修免許状としてすべての校種にわたって位置付けたこと,「教育の方法及び技術に関する科目」,「生徒指導及び教育相談に関する科目」等を新たに必修科目とするなど免許基準の引上げを行ったこと,社会人を学校教育の現場へ活用することを可能とする特別免許状,免許状を有しない非常勤講師(いわゆる特別非常勤講師)の制度を創設したこと等である。
この法改正を受けて大学においては,平成2年度から,上に述べた科目を開設しているが,いじめや登校拒否等が大きな問題となっている今日,これらの科目の具体的内容や指導方法については,小・中・高校での教職経験のある教員の活用や,演習,実習を内容とする科目の開設等により,今後,一層の改善を図ることが求められている。
また,優れた知識・技術を持つ社会人を教育界に迎え入れるために設けられた特別非常勤講師制度は,主として高等学校で看護,外国語会話,体育実技等の分野を中心に活用され,平成6年度には,全国で延べ2,302人が教壇に立っている(表U−3−4
特別非常勤講師の採用許可件数の推移,表U−3−5 特別非常勤講師による具体的な教授内容の例(平成6年度))。文部省では,中学校における特別非常勤講師の積極的な活用を図るため,6年度から,公立中学校への特別非常勤講師の配置に対する国庫補助を行っている。
一方,教員が所持する免許状の教科以外の教科を担任するいわゆる免許外教科担任については,その解消のため,これまでの教職員定数の改善計画においても配慮するとともに,都道府県教育委員会に対して教員の適正な人事配置を指導している。さらに,平成6年度からは,小規模な公立中学校への非常勤講師の配置に対する国庫補助を行っている。これらの結果,6年度の免許外教科担任の許可件数は,前年度に比して約2割減の30,651件となっている。
(2) 教員採用の改善
教員の資質能力の改善のためには,採用の段階で教員としてふさわしい資質能力を備えた人材を確保することも重要な課題である。
教員採用選考試験の受験者数は,近年,減少傾向にあるが,各都道府県・指定都市教育委員会においては,教員としてふさわしい人材を確保するために,@選考方法の多様化(個人・集団の面接,実技試験,作文・論文試験の実施,社会的奉仕活動,クラブ活動の経験の評価等),A採用スケジュールの早期化,B大学における説明会の開催やパンフレット作成等の広報活動,C受験年齢の制限の緩和など,様々な改善・工夫が図られてきている。
文部省においても平成6年3月から「教員採用等に関する調査研究」を実施し,教員として優秀な人材を確保する観点から,教員採用選考方法の改善,受験者確保の方策等について調査研究を行っている。
3 教員の現職研修の充実
学校教育の成果は,その直接の担い手である教員の資質能力によるところが大きい。このため,教員自身の自己啓発の意欲と努力が不可欠であり,教員には絶えざる研修が求められている。また,公立学校の教員の任命権者である都道府県・指定都市教育委員会は,研修の実施が義務付けられており,初任者研修をはじめとする多様な現職研修の機会を提供している。また,国は,都道府県等が行う研修について助成するとともに,教職員等中央研修講座などを直接実施している。
(1) 初任者研修
平成7年度には,国公立の小学校,中学校,高等学校及び特殊教育諸学校の新任教員約1万 7,000人を対象として初任者研修を実施している。
新任教員は,採用された日から1年間にわたって,授業等の教育活動に従事しながら,次のような計画的,実践的な研修を受けている。
(ア) 学校内における研修(週2日程度・年間60日以上)
指導教員が中心となり,他の教員の協力を得ながら,新任教員の特性に配慮した個別指導が行われる。ここでは,児童生徒に直接関係する教育指導,学級経営,児童生徒理解,生徒指導等に関する研修等,広く教員の職務全体にわたる研修が行われる。
(イ) 学校外における研修(週1日程度・年間30日以上)
教育センター等において講義,演習,実技指導が行われているほか,他の学校種や社会教育施設の参観,奉仕活動,企業体験,野外活動等,様々な体験研修が実施されている。なお,校外研修の一環として,夏休み等の長期休業期間中に4泊5日程度の宿泊研修が行われる。また,文部省では,地域や学校種の枠を超えた相互交流を図り,教員としての使命感を養うため,教育委員会が推薦する新任教員を対象に,洋上研修(10日間,6団・計
2,400人)を行っている。
(2) 初任者研修以後の現職研修の充実
初任者研修以後も,すべての教員がその職能と経験に応じて,教職の全期間を通じ,適切な時期に必要な研修を受けられるよう,現職研修の体系的整備を図ることが求められている。
そうした観点に立って,各都道府県・指定都市では,校長,教頭,教務主任等の職能に応じた研修や教職経験5年,10年,20年等の教員を対象とする研修,教科や教育課題に関する研修などを実施している。文部省においても,これら都道府県等の実施する研修について補助している。それらの研修のうち,教職経験者研修については,社会の情報化の進展や学校へのコンピュータの整備状況等を踏まえて,平成7年度から,補助を拡充しコンピュータ基礎研修を実施している。
また,文部省においては,校長・教頭,中堅教員を対象とした教職員等中央研修講座(平成6年度対象者数 1,760人)や,教員海外派遣事業(平成6年度対象者数
3,175人)を直接実施している。
さらに,都道府県等においては,教員の視野を広めるとともに,その専門性を高めることを目的とする長期派遣研修を実施しており,7,500人の現職教員が大学,研究所等へ派遣されている。文部省においても,平成7年6月から「教員の長期派遣研修に関する調査研究」を実施し,その充実方策等について調査研究を行っている。
[Image]生き生きした教員を育てる初任者研修 i平成7年度洋上研修)
4 学校の管理運営の改善
(1) 学校の管理運営の改善
教員が創意工夫を凝らして教育指導に携わり,いじめ,登校拒否,校内暴力等の生徒指導上の課題に適切に対処していくためには,学校において,教育の場としてふさわしい基本的な秩序が確立され,学校運営が円滑に行われるような教職員組織が整えられる必要がある。そのため,学校においては,校長のリーダーシップの下に,全教職員が一致協力する体制を確立するとともに,主任等の校務分掌組織の適切な整備,教職員の服務規律の確保,職員会議の適正な運営,父母・地域住民の意向等の適切な把握など,学校における管理運営の改善に努めることが重要である。
(2) 若手教員の管理職登用と校長の同一校在職期間の長期化
活力と規律ある学校運営を行うためには,学校運営の責任者である校長及び校長を補佐する教頭に,指導力があり,管理職として真にふさわしい人材を得ることが必要である。特に,優秀な若手教員の管理職登用を図るとともに,校長が十分なリーダーシップを発揮できるように,校長の同一校在職期間の長期化を図る必要がある。
校長,教頭への若手教員の登用状況を見ると,教頭については,44歳以下の若手教員の登用がここ数年大幅に増加しており(平成元年度末13.7%,5年度末21.1%),また,校長についても,49歳以下の若手教員が近年着実に増加している(元年度末
3.5%,5年度末10.1%)(図U−3−3 校長・教頭の年齢別登用状況の推移)。
また,校長,教頭に占める女性の割合は,近年高くなってきている(校長・昭和50年度末 1.3%,平成5年度末 5.5%,教頭・50年度末
2.1%,5年度末11.7%)。文部省では,各教育委員会において,中長期的視点に立った教職員の人事計画を樹立し,若手教員の管理職登用の促進や校長の同一校在職期間の長期化,女性管理職の登用の促進を図るよう指導している。
(3) 教員の心の健康等についての対策
近年,教員の心の健康の問題や適格性を欠く教員への対応が重要な課題となっている。教員は,日常的に児童生徒と直接接する立場にあり,その心の健康状態等は,児童生徒の教育に大きな影響を与えることになる。
文部省においては,「教員の心の健康等に関する調査研究」の審議のまとめ(平成5年6月)を受けて,6年度から,教職員のメンタルヘルス対策の充実を図るため,相談活動の実施方法などについて実践研究を実施している。
第10節 ゆとりと潤いのある学校施設整備と教材
1 公立学校施設の整備
学校施設の整備に要する経費は,原則として設置者が負担することとなっている。ただし,公立学校における学校教育の機会均等の確保と教育水準の維持向上を図る必要性があるため,国としては,義務教育諸学校施設費国庫負担法等に基づき,整備に必要な経費の一部について国庫負担(補助)を行っている(小中学校校舎・体育館の新増築1/2,改築1/3等)。
公立学校施設整備は,これまでは,主として不足教室の解消等の量的な整備に重点を置いて着実に進められてきた。その現状は,平成6年度で,児童生徒一人当たりの校舎保有面積は10.3uとなっており,これは20年前の昭和49年度の
6.3uに比べて約 1.6倍となっている(図U−3−4 児童生徒一人当たり校舎・屋内運動場面積及び鉄筋化率の推移)。その一方で,今後は,昭和30年代以降に大量に建築された鉄筋コンクリート造建物等の老朽化に伴う改築や改造の時期を迎えつつある中で,これに適切に対処するため,計画的な施設整備をしていく必要がある。
さらに,これからの公立学校施設整備に当たっては,このような量的な整備と併せ,児童生徒一人一人の個性を生かす教育の充実を図るため,一層の質的な整備が必要である。具体的には,教育内容・方法の多様化に対応した施設づくり,児童生徒の学習・生活活動の場としてふさわしいゆとりと潤いのある施設づくり,地域の人々の学習活動を積極的に支援できる施設づくりなどの観点に立ち,様々な補助制度の整備・拡充を図ってきているところである(表U−3−6
公立学校施設の質的整備のための補助制度)。
平成7年度予算では,小中学校校舎の改築事業を中心に事業量の大幅な増加を図ることとし,総額 2,478億円を計上した。また,これらと併せて,特殊教育諸学校の校舎等の国庫補助基準面積の改定を行うとともに,学校開放の一層の促進のため,降雨等の後に速やかに屋外運動場(グラウンド)の利用が可能となるよう,そのモデル的整備を新たに補助対象とするなど,補助制度の拡充を行った。
2 教材の整備
公立学校の教材については,学習指導要領を実施する場合に標準的に必要となる教材の品目及び数量を示すため,「標準教材品目」を定めており,この標準教材品目を参考にして,市町村が各学校の実情に応じて教材を主体的に整備している。
これに必要な経費については,地方交付税において措置されている。
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