第二部 文教施策の動向と展開
第1章 文教施策の総合的推進
第1節 新しい時代の要請にこたえる文教施策
第2節 教育改革の推進
第3節 第15期中央教育審議会の活動
第4節 地方における文教施策の充実
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第二部 文教施策の動向と展開
第1章 文教施策の総合的推進
第1節 新しい時代の要請にこたえる文教施策
1 社会変化と文教行政 −変化への対応と不変の価値の追求と−
我が国は,国際化,科学技術の発展,情報化,産業・就業構造の変化,少子・高齢社会への移行,労働時間の短縮と自由時間の増加,女性の社会進出など,広範で急速な社会変化を経験しつつある。こうした変化に対応しつつ,創造的で活力ある,文化の香り高い社会を形成し,国際社会で積極的にその役割を果たすとともに,国民一人一人が生きがいと潤いをもって充実した生活を営む生活者重視の国づくりを進めていく上で,教育・学術・文化・スポーツの果たす役割は極めて大きい。
このような中で,文教行政に求められる基本的な面の一つは,変化への柔軟で創造的な対応である。例えば,国際化の進展に対応しつつ我が国が国際的な責任を果たしていくためには,国際社会に生きる日本人としての資質を養うとともに,人類の知的共有財産の創造としての学術研究や国際的な視野に立った芸術創造活動の展開を図る必要がある。このため,教育・学術・文化・スポーツを通じた国際交流・協力への一層の取組が重要となっている。また,科学技術の発展,情報化の進展,産業・就業構造の変化に対応しつつ創造的で活力ある社会を築いていくためには,情報活用能力の育成,職業教育・技術教育の充実,社会人の学習機会の充実,大学と地域・社会との連携協力の促進,生涯学習や学術研究に関する情報システムの構築,著作権制度の整備等が重要となっている。さらに,少子・高齢社会への移行,自由時間の増加,女性の社会進出などの社会の変化に対応しつつ,生きがいと潤いのある国民生活を実現していくためには,明るく活力ある広い意味での福祉社会の実現を図っていく必要がある。このため,ボランティア活動の支援・推進,地域文化・生活文化の振興,生涯スポーツの推進など,生涯にわたって生きがいづくりを支援する多様な学習機会の整備,家庭・地域の教育機能の向上や,教育費負担の軽減,福祉社会を支える基礎研究の充実等が重要となっている。
他方,文教行政は,時代を超えて変わらない価値の追求というもう一つの基本的な面を持っている。知・徳・体にわたる人間形成(教育),真理の探究(学術),精神と身体を通じた人間の本源的欲求の実現(文化,スポーツ)といった基本がこれに当たり,これらに対する国民のニーズは極めて大きいものと言えよう。
2 文教施策の基本方針の検討 −広い視野と長期的な展望を持って−
文教行政は,知的・精神的・情緒的・身体的な様々な人間活動を対象とするものであり,あらゆる人々の日々の生活に深くかかわっているとともに,その成果が長い年月を経て結実する面もある。したがって,その基本方針の策定に当たっては,様々な立場の人々が参加する審議会等の場で,多角的に,また広い視野と長期的展望を持って検討していかなければならない。このことが文教行政の特色の一つとなっており,以下のような様々な検討を経つつ行政の展開を図っている。
まず,抜本的な教育改革を中心に,文教行政全般にわたる諸課題について長期的な視野から検討したものとして,臨時教育審議会(昭和59年から62年)がある。その答申は,現在の文教行政の基調をなす極めて重要な位置付けを持っている。教育改革の具体化については,さらに中央教育審議会や生涯学習審議会,大学審議会等が逐次答申を行っており,学術・文化・スポーツに関しては,学術審議会,文化財保護審議会,保健体育審議会等が逐次答申している。また,高校教育改革や文化政策の推進等に関する各種の会議により,種々の報告が出されている。
さらに,文部省は,「生活大国5か年計画」「科学技術政策大綱」「国際文化交流行動計画」など,各省庁が協力して取り組むべき政府の計画等の策定や実施にも積極的に参画している。
第2節 教育改革の推進
1 関係審議会の答申等と改革の方向
我が国の教育は,教育を重視する国民性や国民の所得水準の向上等により著しく普及・発展し,我が国の経済,社会,文化の発展の原動力となってきた。反面,社会の急激な変化や教育の量的拡大は,教育の在り方にも大きな影響を与え,学歴偏重の社会的風潮や受験競争の過熱化,青少年の問題行動,あるいは学校教育の画一性・硬直性の弊害など様々な問題が指摘されるに至った。また,広範で急激な社会変化に対応する教育の実現も強く求められるようになった。
このような諸課題に取り組むため,内閣総理大臣の諮問機関として設置された臨時教育審議会は幅広い審議を行い,@個性重視の原則,A生涯学習体系への移行,B国際化,情報化などの変化への対応,を基本的な視点として,多岐にわたる教育改革を提言した。
この臨時教育審議会の改革提言の中には,更に具体化方策の検討が必要な課題も多く,これらについては,文部省の関係審議会等において検討され,その結果が次のように逐次答申されてきている。
中央教育審議会は,平成2年に「生涯学習の基盤整備について」として,生涯学習の振興のための基本的考え方,生涯学習の推進体制の在り方等について答申した。3年には「新しい時代に対応する教育の諸制度の改革について」として,高等学校教育について生徒の選択の幅を拡大して個性を伸ばす方策,評価尺度の多元化等による大学・高等学校の入学者選抜の改善,さらに生涯学習における学校の役割と学習成果の評価について答申した。7年4月からは,「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」審議を進めている(第3節参照)。
生涯学習審議会は,平成4年に「今後の社会の動向に対応した生涯学習の振興方策について」答申し,@リカレント教育の推進,Aボランティア活動の支援・推進,B青少年の学校外活動の充実,C現代的課題に関する学習機会の充実を当面の重点課題に挙げた。7年4月からは,@地域における諸施設の生涯学習機能の充実方策,A学習成果の活用方策について,審議を行っている。
大学審議会は,大学院の制度的弾力化や整備充実,大学教育や学位制度の改善,高等教育の計画的整備,大学運営の活性化,大学入試の改善等について答申し,さらに大学改革に関する諸課題の審議を進めている。
このほか,様々な個別の政策課題の具体化方策について,それぞれ有識者等による協力者の会議での検討を踏まえて,実施に移されている。このうち平成3年の中央教育審議会答申で提言された高校教育改革については,高等学校教育の改革の推進に関する会議(平成4年〜5年)の報告に基づいて,総合学科・単位制高校など新しいタイプの高等学校の設置,専門高校の活性化や高等学校入学者選抜の改善などの諸改革が進められている。また,同じ中央教育審議会答申を受けて,教育上の例外措置に関する調査研究協力者会議は,数学・物理などの特定の分野で特に能力の伸長の著しい高校生等に,大学レベルの教育研究に触れる機会を与えることなどについて検討し,6年3月に報告を行った。文部省では,平成6年度からこれに沿った実践的な調査研究に着手している。
2 教育改革の具体化の状況
関係審議会の答申等を受けて,これまでに教育改革の具体化のための様々な取組が行われてきている。その主な例を表U−1−1 教育改革の最近の主な動き(例)に紹介する(分野別の施策の詳細については,第T部及び第U部第2章以下の各章参照)。
教育改革の推進には法令,予算,税制,政策金融など種々の政策手段が活用されている。多岐にわたる教育改革は,制度の弾力化や社会の変化に対応する施策の充実・多様化を通じ,全体として,個性重視,生涯学習体系への移行,変化への対応等を目指すものとなっている。
これまでに行われてきた数々の制度改革は,現在,順次実施の段階に移ってきているところであり,また,各地域や教育機関等の自主的な選択や創意工夫を主眼とする制度への移行が中心となっている。したがって,広く改革の実を上げるためには,各地域・教育機関などの多くの関係者の連携協力による様々な努力や自主的なアイデアが従来以上に必要となる時期に差し掛かってきている。文部省では,こうした状況に応じて,教育改革の着実な進展に更に力を注いでいくこととしている。
第3節 第15期中央教育審議会の活動
中央教育審議会は,文部大臣の諮問機関であり,教育,学術又は文化に関する基本的な重要施策について調査審議し,文部大臣に答申・建議することをその任務としている。
中央教育審議会は,昭和27年に設置されて以来,その時々における文教行政上の重要課題について調査審議を行ってきた。これまで私立学校教育の振興,短期大学制度の改善,学校教育の総合的な拡充整備に関する答申,新しい時代に対応する教育の諸制度の改革についての答申など合計29回の答申を行っており,文部省はこれらに基づき必要な施策を実施してきた。
前節で述べたように,文部省においては,臨時教育審議会や第14期中央教育審議会の答申などを踏まえ,生涯学習,初等中等教育,高等教育など各般にわたり教育改革を推進してきたところである。今後,我が国が,創造的で活力があり,かつ,ゆとりと潤いのある社会を築いていくためには,教育上の諸課題を踏まえつつ,21世紀を展望した我が国の教育の在り方について検討し,必要な改善方策を推進していく必要がある。
このため,第15期中央教育審議会においては,「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」という諮問に応じて,幅広い観点から審議を進めている。主な検討事項は,「今後における教育の在り方及び学校・家庭・地域社会の役割と連携
このような観点から,21世紀の教育の在り方について展望しつつ,学校・家庭・地域社会の役割と連携について検討する必要がある。また,いじめや登校拒否問題等に関する学校・家庭・地域社会を通じた今後の更なる対応,自然体験活動や集団活動などの学校外活動の充実,ボランティア活動の奨励,児童生徒の心身の健康の保持・増進などの課題についても検討を行う必要がある。
なお,平成4年9月から導入し,7年4月から月2回実施している学校週5日制の今後の在り方については,子どもの立場に立つことを基本的な視点として実施してきたこれまでの状況も考慮しながら検討することとしている。
2 一人一人の能力・適性に応じた教育と学校間の接続の改善
これまで我が国の教育は,ともすれば画一的であると指摘されてきた。近年こうした反省に立ち,一人一人を大切にしつつその個性を伸ばす教育を重視するという観点から,高校教育改革,進路指導の改善,大学改革等を図ってきたが,これらの問題は,ますます重要な課題となっている。
このため,学校教育における教育内容や教育方法面を中心とした多様化・弾力化を進める観点から,小・中学校におけるティーム・ティーチングやグループ指導の一層の拡充など指導方法の改善,高等学校における総合学科の今後の在り方や選択制の拡大,大学におけるカリキュラム改革の促進など,各学校段階を通じ,幅広く検討することとしている。
また,学校間の接続の改善については,教育の一貫性を高め,過度の受験競争を緩和する観点から,学校の各段階相互の教育内容の連携,大学・高等学校における入学者選抜や進路指導の改善などについて検討を行う必要がある。
なお,これに関連して,特定分野において稀有(けう)な才能を有する者の教育上の例外措置に関しても,大学レベルの教育を受ける方策などその才能を伸長させる方途について,幅広く検討することとしている。
3 国際化,情報化,科学技術の発展等社会の変化に対応する教育の在り方
今後の社会の変化を見通しつつ,いかなる教育施策の改善・充実を図るべきかという観点から,@国際社会で活躍する日本人の育成や外国語教育の改善・充実,A教育内容・方法の改善・充実に役立てるためのマルチメディアの活用や学校における情報教育の推進,B豊かな科学的素養の育成と理工系の人材養成,C地球環境問題に対応した環境教育の改善・充実,さらに,D創造性や指導力の涵養(かんよう)・育成,などの課題について検討することとしている。
これら,1,2,3の三つの検討事項については,現在,総会の下に設置された二つの小委員会(1と2については,第1小委員会。3については,第2小委員会。)において,更に具体的な調査審議が進められている。
参 考 資 料
諮 問 文
次の事項について、別紙理由を添えて諮問します。
21世紀を展望した我が国の教育の在り方について
平成7年4月26日
文部大臣 与謝野 馨
(理由)
21世紀に向けて、国際化、情報化、科学技術の発展、高齢化、少子化や経済構造の変化など、我が国の社会は大きく変化しており、このような変化を踏まえた新しい時代の教育の在り方が問われるとともに、今日、受験競争の過熱化、いじめや登校拒否の問題など様々な教育上の課題に直面している。また、学校週5日制の今後の在り方や青少年の科学技術離れへの対応などについての検討が求められている。
既に、臨時教育審議会や第14期中央教育審議会の答申などを踏まえ、生涯学習、初等中等教育、高等教育など各般にわたり教育改革を推進してきたところであるが、今後、我が国が、創造的で活力があり、かつ、ゆとりと潤いのある社会を築いていくためには、教育の現状における諸課題を踏まえつつ、21世紀を展望した我が国の教育の在り方について検討し、所要の改善方策を推進していく必要がある。
(検討の視点と検討事項)
今日、受験競争の過熱化、いじめや登校拒否の問題あるいは学校外での社会体験の不足など、豊かな人間形成を育(はぐく)むべき時期の教育に様々な課題がある。
これらの課題に適切に対応していくためには、今後における教育の在り方について基本的な検討を加えつつ、子どもたちの人間形成は、学校・家庭及び地域社会の全体を通して行われるという教育の基本に立ち返り、それぞれの教育の役割と連携の在り方について検討する必要がある。
これに関連して、これまで段階的に進められてきた学校週5日制の今後の在り方について検討する必要がある。
また、子どもたち一人一人を大切にしつつ、その個性を伸長するという基本的な考え方に立って、学校教育の各段階を通じ、一人一人の能力・適性に応じた教育をいかに進め、また、学校間相互の接続をいかに改善し、多様な進路を確保するかについて、基本的な検討を行う必要がある。なお、これに関連し、特定の分野において稀有
iけう)な才能を有する者について、教育上の例外措置に関する検討が望まれる。
一方、我が国の社会は、国際化、情報化、科学技術の発展、高齢化、少子化や経済構造の変化など大きく変化しており、このような社会の変化に対応する教育の在り方を追求していくことが、今求められている。
特に、国際化が進展する中で、国際社会において信頼される日本人を育成するとともに、国際社会に進んで活躍し得る人材をいかに育成していくかという問題は、一層重要な課題となっている。情報通信の分野では、マルチメディアの普及という新たな時代を迎えつつあり、このような時代における教育の在り方も重要な課題となっている。また、科学技術が発展する中で、近年、若者のいわゆる科学技術離れの傾向が指摘され、資源小国の我が国の将来を危惧(きぐ)する声もある。
したがって、このような社会の変化に対応する教育の在り方について基本的な検討を行う必要がある。
(1) 今後における教育の在り方及び学校・家庭・地域社会の役割と連携の在り方 i2) 一人一人の能力・適性に応じた教育と学校間の接続の改善
i3) 国際化、情報化、科学技術の発展等社会の変化に対応する教育の在り方
第4節 地方における文教施策の充実
1 地域に根ざした活動の進展と文教施策を通じた地域振興
文教行政は人々の日々の生活に深くかかわっており,人々の生活の場である地域社会で特に重要性の高い行政分野である。近年,社会教育,文化,スポーツの分野を中心に,地域に根ざした様々な学習活動が盛んになり,地方公共団体の施策も多様な形で展開されるようになってきている。これに対応して,文部省では,地域社会を舞台とする様々なモデル事業や支援事業を行うとともに,大学等と地域・社会との連携協力の促進・支援に努めている。さらに,文教施策全般を通じた地域振興の視点から,文部省は,地方公共団体等が自主的・主体的な創意工夫によって行う文教分野での地域振興施策の情報収集・分析・提供等を通じ,地域の政策的な取組を支援している。
2 教育委員会の活性化
教育行政の総合的・効果的な推進のためには,教育委員会が一層活性化して時代の変化に適切に対応し,住民の期待にこたえた教育行政を展開していくことが必要となっている。このため,文部省は,教育委員会の活性化に関する調査研究協力者会議の報告を受けて,教育委員・教育長の適材確保や待遇改善,事務処理体制の充実と効率化,地域住民の意向の反映等について教育委員会に働きかけるとともに,教育委員の研修の充実等の施策を進めている。また,各地の教育委員会で展開されている特色ある優れた施策の紹介・交流を進めるため,毎年全国で教育委員会活性化シンポジウムを開催している。さらに地域のニーズを適切に反映した施策の展開を進める際の参考となるよう,各地域の特色ある取組等をまとめた教育委員会活性化事例集を作成した。地方分権法が制定・公布され(平成7年5月),地方分権の推進が大きな課題となっている今日,各地方公共団体が地域の多様な特性,地域住民の意思をきめ細かく反映させながら,自主的判断と責任において主体的な教育行政を展開し得るよう,教育委員会の活性化を推進し,その役割・機能を充実させることがより一層必要となる。
3 教職員の生涯生活設計の推進
高齢社会の到来や生涯学習社会の構築,学校週5日制の実施など教職員を取り巻く環境の変化に伴い,教職員が在職中から退職後をも見通した生涯にわたる生活設計を確立するための支援を行うことは,教職員の勤務意欲の向上はもとより,学校教育の活性化や地域づくりにもつながるものであり,重要な課題となっている。このため,文部省は,各国立学校長や各都道府県教育委員会等に対し,教職員の生涯生活設計に対する支援について働き掛けるとともに,関連の研修の実施,総合的な支援方策の在り方についての調査研究,関係団体の連携協力による事業の促進等を通じて生涯生活設計の推進を図っている。
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