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諸君,人生は不思議だ!


秋山 仁(数学者)

数学的回転ずしの選び方を教えます。最初の5皿は、黙つて見過ごそう!

いきなりですが、問題を出します。むしょうにお寿司が食べたくなって、画転ずしのお店に入りました。ところが,財布を忘れてポケットの中には1皿分の小銭しか持ち合わせていません。さて、これから合計20皿のお寿司が目の前を通り過ぎる時に、どのような”戦略“にしたがって皿を取れば、20皿の中から,できるだけ自分の好みにあったネタのお寿司を選べて、幸せな気分を味わえるか?
ただし、条件がある。一度通り過ぎた皿は、隣のお客さんが食べてしまうかもしれないので、後から取ろうとしても二度と取れない。また、二度皿を取つてしまったら、もつといい、ネタの皿が来てももう取り替えることはできないとします。
正解は以下の通り@最初の5皿ば品定めをするだけで、どんなに好きなネタが回ってきても見過ごす。A6〜10番目に通過する皿については、その、ネタまでの中で一番いいと思ったお寿司の場合は手をのばす。B11〜13番目までの皿については、そのネタまでの中で最高か、それに次ぐ場合は取る。C14番菅、15番目の皿は、それまでの中で3位以内に入っていたら取る。以下、D16番目の皿は、それまでで4位以内、E17番目の皿は5位以内,A18番目の皿は7位以内、G19番目の皿は10位以内に入っていたら取る。Hとうとう最後まできてしまったら、たとえ何位のネタのお寿司が出てきても「食べないよりはまし」と思って、手をのばす。
この方法にしたがって選ぶと、なんと平均して上から3位くらいの好みのネタのお寿司を食べることができるのです。

ものごとを判断する時にはデ−タ蓄積が必要になる
「20皿中の3位くらいなら、たいしたことはない」と思うかもしれない。しかし、数学の力を侮ることなかれ。これと同様に戦略を立てれば、お寿司が一千万皿出てきたとしても、平均すると4位までの、ネタのお寿司を選ぶことができるのです。このような戦略は、確率の期待値を使った「ダイナミックプログラミング」という分野の手法で求めることができます。
最初の5皿は黙って見過ごすのはなぜでしょうか?直観的に言えば、ものごとを判断する時には、データの蓄積が必要だからです。いきなり最初のうちに皿を取ってしまうと、あとで後悔する率が高くなる。また、「20皿もあるのだから、残りものには福があるはず」と見送り続けても後悔する率は高くなる。5皿黙って見過ごすのは、そんなことにならないための目安のデータを得るためです。
ただしこれは、あくまでも平均(確牢的に)3位という話で、よっぽど運が悪ければこの戦略にしたがっても19位、20位のネタのお寿司を取ってしまうこともあるので、悪しからず。

できないヤツにも見えてくる、優秀な人間が見過ごしたもの
たとえ君が、19位だと思ったネタのお寿司を食べることになったとしても(茶わんむしやガリだったりする場合もある),それを見たおじさんが君に同情しておごってくれることだってある。人生どこに幸せが転がっているかわからないのだ。では,幸せな人生とはいったい何だろうか?
例えば,私のような「落ちこぽれ」だった人間でも、多くの人が難しいと思っている数学でメシを食っている。頭のいい人だけが数学に向いているかというと、そうでもないのです。できなかった人間にしか見えないものだってある。ドジでのろまな人間だって、一生懸命努力していると、優秀な人間がものすごいスピードで駆け抜けていった時に見逃した重要なものをつかむこともあるのです。能力や実力、生い立ち,境遇を憂いていたのでは、何も始まらない。目の前の現実をしっかりと踏まえて、自分には何ができるのか、どうすれば生きがいのある人生を送れるのか、一人ひとりがもっと真剣に考えるべきなんだ。幸せは自分の手でつかむものだし、幸せになる方法は、人それぞれ違うのだから。
ところが、多くの若者が世の中の風潮と同じように学歴や肩書、コネが無ければ幸せになれないと思っている。「人生は多難であれ」と若者には言いたい。自発的に荒波に身を投じてみよう。ひょっとすると溺れてしまうかもしれないけれど、「それでもいいや」というくらいの気概をもって立ち向かってほしい。そんな若者が増えれば,各人にとっで,世の中はもっともっとおもしろくて、生きがいや満足感の得られる社会になると思う。
人生は一度きり。わが青春を悔いなきものにするためにも、燃焼し切ってみようぜ−。

1946年生まれ。束海大学教育研究所主任教授として、理数系教育の改革について取り組む。最近の心配は、子供たちの考える力が落ちたこと。「原因は効率主義の暗記勉強。子供が関心をもつ題材を与えて,じっくり取り組ませることが大切」。
教育者に子供を深く理解しようという心が問われるという。

1996/9/21/土 掲載記事