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美術館の内外で、インターネットをアートの制作、鑑賞の場にしようという試みが盛んだ。ネットワークに乗った新しい表現の登場は、「アートの殿堂」に閉じこもりがちだった美術館の体質まで変える可能性を秘めている。

今月末(1996/6)、町田市立国際版画美術館と横浜芙術館(横浜市)は、七−八月にインターネット上で共同開催する展覧会に向けて、作品の一般公募を始める。タイトルは「アート・オン・ザ・ネット/インターネットの挑戦1996」。

建物無用に気付く

募集から審査、展示まですべてインターネットで実施する試みで、ネット上のオリジナル作品であることが応募の条件だ。具体的にはコンピューターグラフィックス(CG)を想定しており、彫刻や絵画の写真など複製は受け付けない。日、米,欧、カナダ、アジアの五人の審査員が評価し、第一次審査を通過した作品がネットに流れる。

インターネットを導入している公立美術館は約二十あるが、ほとんどは館や展覧会の案内を流す程度にとどまっている。そうした中で町由の美術館は昨年、公立美術館としては初めてインターネットによる公募展に取り組み、今年は横浜美術館が相乗りした。昨年から企画に携わる町田の箕輪裕学芸員は、「インターネットで展覧会を開くと、美術館に建物はいらないことに気が付いた」と言い、「美術館にとっては自殺行為と言われている」と苦笑いする。

従来の美術館は、世界で一つの実物を集め、固有の空間に展示、鑑賞者に足を運んでもらう図式で成り立ってきた。それは美術館の権威にもつながっていた。ところがネット上の作品は収蔵されることも壁にかかることもない。鑑賞者はいつでも手元で作品を見られるわけで、建物としての美術館はいらない。

作品の形はまだ模索中。昨年は静止画像に限ったため、質の高い作品が少なく、応募作品の約百四十点から大賞は選はれなかった。ただ、最終侯補に残ったものには新しい可能性が見られた。

岡山県立大学の学生が作った作品目は原爆ドームを組み立てるキット。

印刷して指示通り切り扱き、組み立てれば、だれでも原爆ドームの模型を作ることができる。

一枚の絵画ならおそらく何でもない作品だが、インターネットに乗ることで「世界中に原爆ドームを」という社会的なメッセージが生まれる。

今年は作品の対象を広げ、音声付きの画像や動画も受け付ける。公募展の中から独自の表現を発見していきたいという。

新たに参加を決めた横浜美術館の深田独学芸員は、「美術館がインターネットを導入すると、社会的機能を持った施設、あるいは機関になっていくだろう」と推測する。作品の収集や展示、調査・研究、保存などの機能を残しながら、もっと社会に開放されるとの見方だ。

アクセス機会拡大

すでに新しい方向へ一歩を踏み出しているのが水戸芸術館(水戸市)だ。同館のホームページには、館内情報のほかに「GOOD」UCK GATE」という項目があり、地元の医師会や銀行、学校の情報が出てくる。国内外で知名度が高い同館と連携することで、アクセスを受ける機会を広げた格好だ。学芸員の森司氏は「これからも地域の情報ゲートになりたい」と話す。

美術館以外の企業や団体も、インターネットでのアートに接近している。大日本印刷はホームページで、CGや映像など何でもありの公募展を計画している。今月十六日から夏ごろまで募集し、一次審査を通過した作品を出展。十二月に、国際的な最終審査をネットワーク上で実施する。賞金総額は十万ドルだ。

一方、招待作家による展覧会も予定。阪神大震災の被災地で再生紙の建築を設計した坂茂、数字のデジタル・カウンターを使ったインスタレーションを手掛ける宮島達男ら五人のアーティストが初めてインターネットでの創作活動を繰り広げる。「ネットの世界にいなかった人を連れてこよう」(西郷五十生同社CDC事業部次長)と考え、CG作家はあえて除いた。

ネット上に美術館

昨年、NTTが実施した「on the web-ネットワークの中のミユージアムー」も、アーティストに作品を依頼して、ネットに美術館を築くという実験で、先鋭的な展示内容が話題になった。メディア批評家の粉川哲夫・東京経済大学教授は、「インターネットのアートは海外でも同時多発的に起こっている。既存の美術館には変化に対する危機感もあるが、開かれた場へと変わるきっかけができたのではないか」と話している。

大阪社会部

  小名 淳一

  白木  緑

1996/4/13/土 日経新聞掲載記事