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新学カテストの結果


日本経済新聞 1997年(平成9年)10月12日(日)


小中学生は、基礎学力は何とか身についているが、思考力や表現力は実力不足だという、文部省の「学習達成度調査(新学カテスト)」結果が話題を呼んでいる。同省が全国規模でこうした調査を行ったのは12年ぶりだが、調査結果の概要は前回と、うり二つ。思考力や表現力がいっこうに向上しない背景を考えてみた。

「小中学校の学力平均点は合格」「論理的思考や応用力育たず」
「現代っ子は学力優秀」「高い読解・暗記力」「論理的思考は苦手」

「学力」に変化なし
これは新学カテストの内容を報じる本紙記事の見出しである。ただし、前者が今回のテストの記事なのに対し、後者は84年に公表された前回テスト結果(小学校分)を報じた記事。驚くほどの類似だが、2つのテストを受けた子供たちの「学力」に大した変化が無かったとも言える。一般論で言えば、10年余りで日本の子供たちの学力が激変するとは考えにくく、二つのテスト結果が類似するのは当然だ。しかし、この10年余を振り返ると、そうとばかりも言えない事情が浮かぴ上がる。
後者の見出しが紙面を飾った9カ月後の85年6 月、臨時教育審議会がまとめた第一次答申には、教育改革の基本的な考え方として、「創造性・考える力・表現力の育成」という文言が盛り込まれた。一方、小学校で92年度、中学校で93年度から実施された現行学習指導要領は、思考力や表現力の育成に璽点を置 く「新学力観」が高々とうたわれた。つまり、2つのテストの間は、国が日本の教育の弱点と言われる「創造力」や「思考力」を何とかしようと、模索を続けた時期なのだ。にもかかわらず、テスト結果からは「新学力観」が定着したとは言い難い。
「学習指導要領が新学力観を打ち出しても、教師の教え方はほとんど変わってないのでは」。東京都内の公立中学の社会科教師の見方はクールだ。「創造力を高める授業をする余裕もないし、教科書が変わったと言っても、今までの教え方じゃだめだと思わせるほどの変わりようではない。結局、高校入試を考えると、教科書の内容を羅列する授業にならざるを得ない」
しかも、中学の教師は内申書のため、生徒を一定の比率で5段階相対評価しなければならない。「新学カテストの記述式問題にはいいものがあるが、あれで相対評価、客観評価は難しい。大方の教師はあんな問題は出しにくい」と言う。
「今の子供たちは論理的思考は確かに苦手。教師たちにもそういう指導を好まない傾向があるのかもしれないが、たとえ授業で教えようとしても、保護者から隣の中学では教科書の何ぺージまで進んでいるといった苦情が来たりする。ゆとりの授業に親の風当たりは強いんです」。別の公立中学の校長も、新学力観への複雑な胸の内を明かす。
こうした現場の声を代弁するかのように、稲垣忠彦滋賀大教授は「文部省は『新しい学力観』や『生きる力』『総合学力』などいろんなことを打ち出す。しかし、それを学校が実践するには、丁寧にじっくりと指導しなけれぱならない。文部省は建前を言うが、現場にその条件は整っていない。今回の結果は実際に学校でやっていることの結果が出ただけ」と指摘する。
「今の教育改革論議では美辞麗旬が飛ぴ交っているが、どれだけ中身があるのか。文部省は現場を知らな過ぎるし、教師も教え方を日々学んでいかなけれぱならないのに、それを怠っている。だから、教室の光景はここ百年ほとんど変わっていない」。渋谷憲一聖徳大学教授は嘆く。

条件整備へ「点検」を
橋本竜太郎首相の掲げる六大改革の一つが教育改革。「生きる力」や「中高一貫教育」「飛び入学」などを次々と打ち出した中央教育審議会は、「心の教育」や「地方教育行政の在り方」について審議を始めた。教育課程審議会は2003年度実施予定の完全学校週五日制に伴う教育内容の見直し作業を急いでいる。だが、二つの新学カテスト結果が示しているのは、文部省やその審議会がいくら「改革」をうたっても、教育現場が変わらない限り、画餅(がべい)に終わりかねないという現実である。
現場が変わらない、あるいは、変われないのはなぜなのか。変わるためにはどんな条件整備が必要なのか、そのために国は何ができて、何ができないのか----。文部省にも教育改革の「点検」「自已評価」が必要なのではないだろうか。
(編集委員 横山 晋一郎)

日常の観察力欠くテスト

正答率で浮き彫り

(図 略)

現代っ子が弱点とする応用力や表現力。新学カテストで正答率が低かった問題の例を拾ってみると----。
Aは中学一年の社会の問題。食卓を示した絵から、奈良時代の経済・社会の状況を考えてもらうのが狙いだ。特に教科書で覚える項目ではなく、問題をみて自分で課題を見つけ出すパターンといえる。
正答例は、「注目する点」が「海の食材(アワビ、ワカメ)が使われている」「おかずの種類が多い」、「調べること」としては「税制や流通過程がどうなっていたか」「農民の食卓はどうなっていたか」など。図から読みとれる回答なら何でも正解だったが、ともに正解は39%だった。社会は特にこうした「考えさせる」問題が多く、思考力不足も顕薯に表れた。
平均点も各教科中で最低で、中学1年は45点と、唯一、50点を下回った。Bは中学一年の理科(正解は(1)、(2)ともC)。正答率は両問題とも20%足らずだった。特に(1)は普段から鏡を見ていれば難なく解けそうな問題だが、半数以上の生徒が「左右が同じ」とする@Aを選択した。
理科ではこのほか、「同一のレンガを向きを変えて台ばかりに載せた時、目盛りがどうなるか」という問題も出題されたが、「すべて同じ」という正解を答えたのは50%にとどまった。植物や動物の名前や仕組みを聞く問題も正答率は低く、自然体験や日常生活での観察力が失われている様子がうかがえる。(淳)