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最近の不登校生は、明磯な理由が見えにくい「なんとなく不登校生症侯群」の子供たちが増えていると、東京・渋谷のフリースクール「高崎学園」の高崎南史代表は指摘する。その背景を高崎さんに寄稿してもらった。
「こんにちは、先生」と満面の笑みを浮かべて入ってきた中学三年のA子さん。二年生後半から不登校となり、学校には全然戻る気がない。五年前の高碕学園での風景である。彼女はいつもすてきな黒い帽子をかぶっていた。勉強するときも仲間とおしゃべりするときも、絶対に帽子は取らない。中学校入学以来、ひどいいじめにあって神経を消耗し、脱毛症になっていたのだ。学校に行けば行くほど毛が抜ける。抜けて地肌が透けて見えると、よけい男子にからかわれた。家では父親に「学校へ行け」とたたかれた時期もある。
A子さんのように、これまでは不登校になる小中学生の場合、それなりの理由があった。だが、三年前くらいから、不登校の子供たちの中に変化が見えるようになった。学校に行けない理由を、「うまく表現できない」「わからない」「なんとなく」などと言う、「なんとなく不登校生症侯群」というタイプの子供たちが確実に増えている。
気の抜けない切所に
聞いてもはっきりしない「理由なき不登校生たち」----。これはどういうことなのだろうか。
九月末、東京・渋谷で、不登校やいじめ経験者の進路についての意見発表会があった。発表のあとの質疑応答で、一人の女子中学生が手を挙げた。「私は不登校です。でも私はいじめられてもいないし、友達にも恵まれている。でも学校へ行きたくない。どうしてなのか私にはわからない」
彼女の問いに、会場からはっきりした答えは出てこない。だが、私はフリースクールに携わる者として、彼女が行けない、行かない理由は明らかに存在すると考えている。
高崎学園のこの五生間の資料から、不登校になった理由を見てみよう。「いじめ」「いじめ」「いじめ」…−。圧倒的にいじめが占め、次に学業不振が続く。病気、家庭内不和、教師の無理解、規則への反発。外泊、夜遊ぴもあった。その中にどこにも属さない、理由のはっきりしない「なんとなく不登校生症侯群」といった漠然としたグループがある。前述の児童会館で質間した女子中学生のタイプだ。
今、学校現場では榛々な問題が日常的に起きている。いじめ。校則問題。体罰や暴力。教師刺殺のキレる生徒。小学校では学級崩壊。ウサギ撲殺事件など目新しいことではない。学校は怖いと、いざというときのために護身用ナイフを隠し持つ生徒。それを見てさらに恐怖感を募らせる生徒……。ある中学生は言った。「先生、学校へ行くときは気合さ。気合を入れて行くんだよ。弱みを見せたらやられちまうじゃん」
学校は、気の抜けない場所、緊張感を持ち続けて気合を入れていないと、行くことができない揚所に変ぽうしつつある。
B子さん(中二)、C君(中三)、D子さん(高一)は、不登校で高碕学園に通う。E君(高一)も中学時代は不登校だった。だが、彼らには、いじめられたなどというはっきりした不登校の理由はない。
「存在感なくなる」
しかし、学校での出来事を肌で感じていることは確かだ。彼らの「なんとな《」の言葉の次胆は、「疲れる」「雰囲気になじめない」「息苦しい」「学校や友人と合わない」「落ち着けない」「自分の存在感がなくなる」などという言葉が返ってくる。表現はそれぞれ通いながらも、どの子も似ている。皆、学校に圧迫感や違和感を抱いている。
これこそ、理由なき不登校生徒たちの本音ではないだろうか。しかし、これだけでは、児童会館で質問した生徒への答えは不十分である。大きな要因がもう一つある。
学園のG子さん(中三)の例をとる。彼女は今、コスプレに凝っている。服地を買って自分の好きな洋服に仕立て、不登校関係なしにコスプレ仲間と奇抜な姿で街に繰り出す。今は中国の軍服だ。心が安らぎ、楽しいと話す。高校に行ってバンドを組むのが夢だ。
子供たちを取り巻く社会や家庭環境は、一昔前と違う。自由が拡大している。子供たちの自由へのあこがれと、学校の持つ価値観や仕組みが、束縛を嫌がり、子供の人権をうすうすと感じる彼ら彼女らにとって、大きなズレを抱かせているのではないか。既存の学校の枠組みと、自由に羽ばたきたいと願う、あるいは自由に育ってきた子供たちとの価値観のズレ。
自分たちで方向探る
「理由なき不登校」は、二つの要因が混ざり合い、混然として、子供たちがうまく言菜として表現できない、自分でもはっきりしない「なんとなく不登校生症侯群」を作り出していると思われる。子供たちは訴えている。もっと伸ぴ伸ぴと個性を出せる、いじめや束縛のない、心置きなく活躍できる場所、や自分たちで選択できる様々な方向が欲しいと。だが、その訴えは全体としてまとまらずに、多くの生徒が雑然として、学校全体がイラついている。不登校生たちは、そんな学校に見切りをつけて、自分たちで方向を探り、歩き出している。これはもう新しい時代の流れで、だれにも止められない。
不登校生たちの力は、学校へ行くか行かないかの「二者択一」から「三者択一」へと行政をも変えた。文部省は、学校外でのフリースクール登校を、出席日数に認めざるを得なくなったからである。すべて不登校生たちの数の力だ。学園の不登校生たちの九九%は「中学に行かない代わりに高校は絶対に行きたい」と口をそろえ、高校、または高校資格へ夢を託す。親たちも言う。「有名校かどうかに関係なく、本人が納得する雰囲気の学校や進路を教えて下さい」
現在の高校には幅広い選択肢がある。特にサポート校(通信制高校補習校)の躍進はめざましい。
「理由なき不登校」にも理由はあった。そんな子供たちは、心安らぐ自由な学校の希望を、中学にではなく高校につないで、今日も居場所を求め当フリースクールに通ってくる。
1998/11/8/日
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文部省の学校基本調査によると、九七年度一年間に「学校嫌い」を理由としで三十日以上欠席した不登校の小中学生は約十万五千人で、九一年度の調査開始以来初めて十万人を超えた。中学校では約五十人に一人が不登校の計算になる。
調査結果によると、年間三十日以上欠席した児童・生徒は小学生が約八万千人、中学生が十四万二千人。このうち病気やけが、経済的事情などを除いた「学校嫌い」を理由とした欠席は、小学生が前年度より千二百五十六人多い二万七百五十四人、中学生が同九千八百七人多い八万四千六百六十人。不登校児童・生徒の割合は、小学生が0.26%(前年度比0.02ポイント増)、中学生が1.89%(同0.24ポイント増)。中学での増加ぶりが目立つ。
また「学校嫌い」で五十日以上欠席したのは小学生一万六千三百七十四人、中学生七万千二十七人の計八万七千四百一人でこれも過去最高を更新した、不登校児童・生徒の数は、続計を取り始めた九一年度以降、増加の一途で、文部省は研究者グループに委託して、不登校になった際の理由や心境、その後の進路への影響など、初の実態調査を実施する方針。
同省は「不登校の増加は教育上の重要な課題。不登校に対する考え方を見直す必要があると考え、調査を行うことにした」(中学校課)と話している。(淳)