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エンドユーザー主役の時代に

一層求められる情報リテラシー


日本インターネット協会の「インターネット白書’98」では、4年前に45万人だった日本国内のインターネット利用者が昨年には1000万人を超え、今年中に2000万人に違すると推定されている。すでに東京都の人口に匹敵する人々がネットワークで接続し、コミュニケーションをとっている状況の中、これまで言葉だけが先行していた「情報化社会」は、いよいよ現実のものになりつつある。
しかし、実際に万人がパソコンを使いこなすようになるためには、大きな壁が立ちふさがっている。それはパソコンを使うための知識や技術、すなわちリテラシー(literacy)だ。本来、識字率という意味のリテラシーだが、最近は情報を扱う能力を指して「情報リテラシー」と呼ばれている。誰もが道具としてパソコンを使いこなし、必要な情報を取リ出すためには、学校や企業における教育の一環としてユーザーのリテラシーを向上させることが重要なのではないだろうか。

学校でのパソコン

文部省の調べでは、公立学校のうち小学校で95.1%、中学校で9918%、さらに高等学校では100%と、ほとんどの学校がパソコンを導入している(1998年3月31日現在)。また、今年に入って、当初の予定を2年前倒しし、2001年までに小学校を含めたすべての学校をインターネットに接続することが発表された(表1)。昨年(1998年)改訂された学習指導要領でも、改めて「自ら学ぴ、自ら考える力を育成すること」の一環としてコンピューターの活用が、重視されている。


まずは使って、役立てる

実践の中で情報リテラシーを育む

愛知県小牧市の取リ組み


日常の連絡はネットワークで

愛知県小牧市、小牧原小学校の伊東幹主教諭は、担任を持たず、全学年の情報教育に専任している。小牧原小学校だけでなく、小牧市の小中学校のシステム構築にかかわり、情報教育を先導していく立場だ。「ソフトウエア会社の担当者の方との打ち合わせや、各学校の管理者向けのセミナーなど、校外の活動も多いですね」
「現在、小牧市の中学校では、校内LANを構築してパソコン教育のための環境が整っています。多い学校で90台、少ない学校でも70台前後と、学校の規模にあわせて、パソコン教室だけでなく、特別教室や各教室にもパソコンを設置しています。基本的には全生徒、教諭がメールアカウントを持っています。ですから、ほとんどの中学校では、連絡事項は電子メールで行っています。担任が職員室で連絡事項を打ち込み、曰置が教室にあるパソコンで引き出すのです」
情報教育専任者を置き、中学生全員が自分のメールアカウントを持つという小牧市の情報教育環境はかなり進んだレベルにあるといえよう。
「全中学校がドメインを持っており、連絡事項はWebに載せているので、保護者もアクセスして注意事項や連絡事項を見ることができます。また、ある中学校では、学級日誌も電子メールで書くようになっていますよ。デジタルな学級日誌ですね。ほかにも体育大会のテーマをイントラネットで募集したり、生徒の中には"バーチャルクラス"というのを立ち上げている子もいます。小学校では、まだそこまでは到達していません。小学生だと、現在小牧原小学校の5年生は、パソコンで自己紹介ファイルを作っています。PowerPointを使って、勝手に自分でカットを貼り付けたり、声や音を入れたり、自分で描いた絵を入れたり。紙芝居の感覚ではありますが、その過程でマルチメディアのリテラシーが自然に身に付いていくと思うのです」
つまり、ある課題を実現する道具としてデータや情報を使い、実用の中で自然にりテラシーを育てていく、というのが伊東教諭の考えだ。
「3年生では、社会科の遠足のまとめ。担任がデジタルカメラで取ってきた写真をサーバーにポンと入れておく。生徒たちは、好きな写真を使って発表をする。また、何か調べたいことがあれば、検索エンジンにキーワードを入れればすぐに情報を得ることができます。このように、情報を探し出して、自分たちでプレゼンテーション材料を作るという過程で、ネットワークのリテラシーも育まれるわけです」

教えるのはパソコンの楽しさと便利さ

小学校での情報リテラシーというと、パソコンの操作方法を教えることかと思いがちだが、小牧市の方針はそうではないらしい。子どもたちに情報リテラシーを身につけさせるには、将来的に子どもたちをどうしたいか、子どもたちに何が必要かというビジョンが必要だ、と伊東教諭は言う。
「情報化社会で生活していく上で何が必要かということです。今、企業で必要とされているリテラシーと、子どもたちが将来要求されるであろうリテラシーは、同じ質のものだと思うのです」
大人になってから、いきなりパソコンの操作方法を"勉強"するのではなく、小学校からの流れの中で自然にリテラシーを育む。たとえば表計算やワープロなどのソフトの使い方を手取り足取り教えるよりも、そのソフト(道具)を使うと何がどう便利なのかを知るほうがいいということなのだ。
「子どもにTCP/1Pの仕組みを教えて、サブネットアドレスとはこういうものなんだよって言っても仕方がない。それは管理者が管理すれぱいいのです。子どもは知らないうちに、ネットワークって便利だなあ、とか、検索っていうのがないと困るなあということを、自ら体感していく。それほど努力しなくてもリテラシーは身について行くと思うのです。それは、小学校1年生では低学年用のソフトウエアを与える、5年生になったら高学年用のソフトウエアを与えるという話とは別の問題ではないでしょうか。本当に情報と上手くつきあっていくようになるためには、まず教育に携わる我々が情報と上手くつきあって、こうやったら便利なんだってことを実体験で伝えていくことが重要だと思います」
そこで大きな問題となるのが、教員のパソコンスキルであるという。小牧原小学校の教員の平均年齢は40歳を越える。部活動などの課外活動のために小牧中学校ではやや平均年齢は低いが、それでも小中学校教諭の高齢化は今や全国的な現象だ。一般企業でも中高年が情報化の波に取り残される懸念がある中で、高齢化する職員室の中で、パソコンを使いこなす存在はむしろ稀だろう。実際、昨年の文部省による調べでは、コンピューターを操作できる教員の割合は、全教員の49.O%とほぼ半数を占めるが、そのうちコンピューターに関して指導できる教員は全体で22.3%、小学校では21.7%と限られている。
「すべての教員のスキルアップは、ある意味、無理でしょう。でも、大切なのはスキルよりも将来像を思い描くこと。ビジョンを持って情報化を先導できる指導者やシステム管理者が、生徒たちのためにも必要だと思います。予算さえあれば、システムを構築するのは簡単です。しかし、コンセプトが抜けていれば、形だけ同じにしても生きた運用がついてこないのです。幸いにも私は情報教育だけやっているという変わった教員で、システムなども作る立場にいますので、小牧市とタイアップして、子どもたちの将来というビジョンを持って、システムを組んで行くことができました。実際の施策が正しかったかどうか、今の時点では判断できませんが、情報リテラシーの本筋からはそう遠くないと思います」

教育の現場でもパソコンはあ<まで道真

"コンセプト"や"タイアップ"という言葉が教育の現場から飛び出して来るとは意外だ。しかし、伊東教諭は「企業も学校も同じですよ。どちらも必要なのはTCOの削減」とサラリと言う。
「教育の現場が特別だという考え方がおかしい。企業で基本的に使われていることが、教育の場面にない方がヘンなのです。たとえば低スペックでも安価なクライアントPCを多数導入して、必要に応じてJavaアプリケーションをサーバーから配信する仕組みなどは、一般の企業よりも教育の現場でこそ役立つのじゃないかと思います」
今後最も必要とされてくるのはネットワークだと伊東教諭は言う。パソコン1台1台単位から、ネットワーク単位のシステムヘ。それは、たとえば情報の扱いが伝票処理のような"処理"であったものが、ネットワークからさまざまな情報を引き出して加工・分析し、それを活用したり、再度発信したりといった"流通"へと変わったように、時代の変化にかなったものだ。「しかしこれからは、学校内のインフラだけでなく、地域の小中学校、教育委員会を包括したWANで考えなくてはいけない。ネットワークというのはある程度まで進むと、地域に根差したクローズなネットワークがコアになってくると思うのです。たとえば、インターネットでは児童・生徒に有害なサイトのフィルタリングが必要ですし、実際の教育に必要な情報というのは限られたものです。ただ扉を開け放つのではなく、今までファクスや電話だった地域や業者との連絡が電子メールになるとか、エクストラネットで父兄に学校内の情報を提供するとか、地域内での密接なネットワークが重要なのではないでしょうか」
これら地域ネットワークの強化を念頭に、保護者側に学校のホームページをカスタマイズするネットワークボランティアを募集したり、中学生の社会科見学を地域ネットのホームページにアップロードする計画などを着々と推進中だ。しかしここまで話が大きくなると、1つの学校、1人の教諭の力だけで実現するのは難しい。教育委員会を含めた自治体、地域の商業団体、地域ネットなどとの連携プレーが必要になる。そこに至る道筋のために、伊東教諭はここでも「ビジョンが必要」だと強調するのである。

教育者のビジョンが情報社会の行方を左右

「4年後にはすべての小中学校が、インターネットに接続されることになりますが、現在、児童・生徒が電子メールを使いこなしているところはごく少数、これからパソコン環境を整備しようかという学校が大半なのではないでしょうか。人材の育成まで含めた環境の整備は大変な労力が必要ですから、ごく近い将来のインターネット接続に合わせて、学校単位で整備していくのは困難でしょう。ですから、今後の地域のネットワークインフラを整備するのに合わせ、学校も統合して考えるのが得策ではないかと思うんです。それにはやはり、学校だけではなく地域全体を見渡すビジョンがないといけませんよね」
3年後から施行される中学校学習指導要領で、技術科に「情報とコンピュータ」という、新課程も加わり、インターネットやワープロ、表計算などの知識・技術の修得に必要な環境を整備する必要も出てこよう。その中で重要なのは、コンピューターを操作することを"目的''ではなく"手段"にすること。そして、"手段"を使って何を得るかということが、まさに情報リテラシーなのではないだろうかo何年後かの教室では、子供達が筆記具感覚でキーボードを叩き、黒板の替わりにプラズマディスプレイが壁に掛かっているかも知れない。しかし、いつまでも大切なことは、情報を使いこなす技術なのだ。

日経パソコン 1999.2.8号掲載記事