学生たちとカラオケに行くと、最近はやっている曲目がどのようなものかだいたいわかる。少し前だと安室奈美恵、いまは知念里奈、SPEEDのナンバーといったところだろうか。彼女たちはいずれも沖縄のアクターズスクールという、歌手養成所というか、芸能学校の卒業生である。そして、その校長がマキノ正幸氏で、氏の教育方針がとりわけ注目されている。
マキノ氏は、雑誌記者の「彼女たちをどのように養成したのか」という質問に対し、「特に何かを教え込んだわけではない。彼女たちのいいところを指摘しただけだ」と答えている。これは、教育のあり方を端的に表理しているといってもよい。
自分では自分の長所になかなか気づかないものである。ところが、先生に指摘されてはじめて気がつき、その長所がさらにパワーアッブされるという例はある。
幕末、長州で松下村塾を主宰した吉田松陰は、このマキノ正幸氏タイプの指導者だったのではないかと思われる。
松下村塾は、武士だけではなく、僧りょや商人、さらに農民たちにまで門戸を開いたことで知られているが、実質的に松下村塾が機能していた二、三年の間に約八十人ほどの門下生が教えを受けている。その中には、久坂玄瑞、高杉晋作、伊藤博文、山県有朋、前原一誠、品川弥二郎ら、このあと、幕末から明治維新期にかけて大活躍をする逸材たちが含まれている。
松陰は、萩藩の山鹿流兵学師範・吉田家を継いだということもあって、山鹿素行の著した『武教全書』を講じたこともあった。しかし、松下村塾では、単なる兵学ではなく、実践のための学問・教育に重点がおかれていた。そのため、塾生一人ひとりの個性にあわせた教育が行われ、教え込むというより、それぞれの個性を引き出す教育の形をとっていたのである。
どうしても、教育はカリキュラムに従って教え込むというスタイルをとりがちであるが、本当の教育は、その子のよい面を評価して伸ばしてやることではないかと思われる。
(静岡大学教授 小和田 哲男)1998/11/27/金