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お受験失敗症候群

 自信喪失・燃え尽き・情緒障害

我が子を名門小学校に入学させようという「お受験」熱は冷める気配がない。この時期、東京を中心に毎年延べ二万人近くの子供たちが入試に挑む。だが不合格となったとき,その小さな心はどんな影響を受けるのだろうか。親の失望感が原因で傷付き、ストレスをためる子も多いという。「もっと子供の生の声に耳を傾けて」と専門家などは指摘する。
 
大量の不合格者背景
国立の付属小学校や有名私立小学校の入試は十月末から十一月前半に集中している。年々、受験熱は上昇し、競争倍率が十五倍になる小学校も珍しくない。同時に、おびただしい数の不合格者も生むようになった。
「受験に失敗した児童に共通しているのは、極端に自信を喪矢している点ですね」と語るのは、東京都渋谷区の公立小学校のある教諭。渋谷区は東京でも「お受験」組の多い地域として知られる。例えばかつて担任した三年生のA子さんの場合。勉強はできるのに、授業中に少しでも行き詰まると「私なんてもうダメなんだもん」と泣き始め、情緒不安定になりやすかった。四年生のB君は、自分の意見を言う時は必ず「僕もバカだけく○○よりはバカじやないと思うんだ」と妙な前置きをする。A子さんやB君はともに、親子一緒になって受験にのめり込んだケ−スで、わずかに合格ラインに手が届かなかった子供たち。「全力を出し切ったにもかかわらず、ダメだった経験をしている。それだけに、中学受験など今度もダメだったらどうしようという不安がある。失敗を恐れて自分のベストを尽くそうとせず、常に何か言い訳を作っている様子もうかがえる」と同教諭。

自分認められず悩む
こうした心の揺れは「できない自分を認めてくれない親の影響が大きい」と見るのは教育問題に詳しいフリ−ライターの杉山由美子さん。受験に失敗したことなど親がけろっと忘れれぱ、子供も忘れるはず。それなのに、いつまでも親が悲しんでいるので、自分が失望させたと思い込み、自信をなくしてしまう。「母親の方がダメージを引きずり、一晩中泣き明かす。そんな姿を見た子供は逆に、私も頑張るからお母さんも泣かないでなどと慰め役にまわることもあるほどだ」という。
「小学校で失敗したから、次の私立中学受験では絶対に頑張るんだ」といつも意気込むC君もそんな影を引きずっている、と観察するのは東京都町田市の小学校教諭。C君は暗く落ち込みはしなかったが、逆に授業中などヒステリックに騒ぐ。学校で習うことをすでに塾でやっているので授業は聞かない。それどころか、理解の遅いクラスメートに「こんなのもできないのか」とぱせいを浴びせることさえある。
聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院の臨床心理士、橋本洋子さんによれぱ、これもストレスの表れの一つ。「小学生くらいの年齢ではたとえストレスがたまっていても自覚がない。それが体調の変化や、奇異な行動になって出てくる」という。

言葉に細心の注意を
「早期教育をまじめに考える本」の著者で、教育相談も受ける小宮山博仁氏は「小学校受験で矢敗すると親は必ずといっていいほど、次に私立中学受験を目標に、小学校で子供をすぐに塾に通わせ始める」と指摘。この結果、子供たちは友人同士で遊ぷことができない、あるいは指示されないと勉強もしない無気力な状態に陥りがちだと警告する。一種の「撚え尽き症侯群」だ。
ではこうした問題点を踏まえて、我が子が小学校受験を目指している親たちはこの時期、どんな心構えが必要となるのだろうか。心理カウンセラーで「お母さんのカウンセリングル−ム」の著者三沢直子さんは、受験で頑張るよう励ます際にも、その言葉の中身に細心の注意を払う必要があると説く。例えば「私立小学校を良く言うあまり、公立はダメというお母さんが多い。だがそれだと、受験に失敗したとき『自分はダメな学校に行くのか』といった、大きな挫折感を子供は味わうことになる」。
子供の発する危険信号も見逃さないこと。発熱やチック(顔、肩などの筋肉を反復して動かす症状)でつらさを訴えていることもある。橋本さんは「ひょっとすると,受験失敗で母親はパニックになっているかもしれない。そんな時こそ父親の方も,受験だけが人生じゃないさ,と一声アドバイスをしてほしい」と強調している。
1996/10/30/水 掲載記事