日本の中学・高校生の「思いやり意識」は国際的に見て極めて低いと、東洋大学の中里至正教授(心理学)が警鐘を鳴らしている。中里教授は、思いやり意識が高いことが非行や犯罪の抑制要因になり、最近の少年の凶悪事件多発はこの思いやり意識の希薄化と関連が深いと分析。その背景には、大人社会が思いやり意識を失ったことがあるとみている。
中里教授の研究グループは、青少年の考え方や行動を調べるため、日本、米国、中国、韓国、トルコ、ポーランド、キプロスの七カ国の中高生約六千人に、アンケート調査を実施した。調査は、子供たちの考え方などを聞くために様々な質問を設けているが、中里教授はこの中から、
@目の前で人が倒れたときに助けてあげるというような「緊急援助」の場面
A乗り物の中で老人に席を譲ってあげるというような日常場面での「援助」
B困っている人に食べ物などを与える「分与」場面
Cお金を寄付したりボランティア活動をするというような社会的な「寄付・拳仕」の場面
----の四因子に注目し、因子分析と呼ばれる手法を使ってその意識の高低のレベルを数値化した。表がその結果で、数値が大きいほど、思いやり意識が高いことを示す。
それによれば、日本は、総合では七カ国中最下位だった。各因子別に見ると、「緊急援助」で六位、「援助」で四位、「分与」で五位、「寄付・奉仕」で六位。特に「緊急援助」と「寄付・奉仕」場面での思いやり行動が、少ないのが特徴だ。国によって各因子のレベルの高低にはばらつきがあり、それはある意味でのお国柄といえるが、日本の子供はどの因子でも下位グループにとどまっており、特に総合で最下位というのは極めて深刻だと、同教授はみている。この結果は九三−九四年に実施したものを分析しているが、前回(八九−九〇年)調査でも同じような傾向が出たという。
調査では、親のようになりたいか、親を尊敬しているか、親子関係がうまくいっているか、などといった親子間の心理的距離についての質問も行い、思いやり意識との関連について調べている。その結果、ポーランドを除く六カ国では、親子関係がうまくいっている子供の方がうまくいっていない子供より思いやり意識が高く、思いやり意識の形成には親が深くかかわっていることがわかった。
また、日本の親子間の心理的距離は七カ国の中で最も遠いことも明確になった。「非行に走った少年の背景を調べているうちに、一般に考えられている自制心の強弱よりも、思いやり意識の高低の方が非行との関連が深いことがわかった」と話す中里教授は、「日本の子供たちの思いやり意識は、80年代後半から急に落ちているようだ」と憂慮する。しかも、思いやり意識が低いことは、非行に許容的であるだけでなく、道徳意識も低く、価値観は物質中心主義で、勢力回避型の考え方をする傾向にあるなど、様々な問題を含んでいるという。
さらに、思いやり意識の形成に親が深くかかわっていることなどから、「思いやり意識は、後天的・観察的学習ではぐくむものなのに、今の日本の大人社会は子供のモデルたりえていない」として、親や大人の冷たさが、子供に反映していると指摘している。
同教授らは、現在、東京、函館の中学・高校の二年生を対象に第三次の調査を進めており、子供たちの思いやり意識の動向についてさらに詳しい分析を急いでいるという。