「四年の科学」の付録の数々。水鉄砲や顕微鏡も性能が良くなっている=東京都足立区で
磁石セットに日光写真、コイルを巻いて作るラジオ、豆電球で作る信号機−−。子どものころ、科学雑誌の付録や理科の実験で使う教材に胸をときめかせた大人も多いだろう。その子ども向け「理科教材」も、科学技術の発展に合わせるかのように「ハイテク化」している。子どもの科学への興味をつなぎとめようと、作る側は躍起だが、半面で、教材を通して学ぶはずの「科学の原理」が子どもたちに見えにくくなっているという指摘もある。
(通信部・帯金 真弓)
青いプラスチック製の箱に銅線でつながっているマイク。ラジオの近くでマイクに話し掛けると、あら不思議。FM放送から自分の声が流れ出てくる。
学習研究社の小学生向け科学雑誌「四年の科学」の付録の「FMわりこ みラジオ局」だ。「自分の声がラジオから聞こえて、面白いよ」。科学大
好きの小学四年生、井垣賢哉君(一○)は目を輝かせる。
秘密は青い小箱の中に組み込まれた二センチ四方ほどのIC(集積回 路)。セラミックなどで三層構造のマイクが声を電気に変え、ICで電気を電波に変える。いわばワイヤレスマイクなのだ。小学生の時に同じ雑誌を購読していたという母親の恵美子さん(三三)は「自分たちのころより付録がハイテク化しているみたい。大人でもびっくりするのが多いです
よ」。
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学習研究社が小学生向け科学雑誌を発行したのは三十三年前。「実験室を自分の部屋に」という触れ込みで、プラスチックを使った組み立て教材
を「ふろく」にして、雑誌の目玉にしてきた。
付録は時代を映す。お湯に浮かべると、勝手に車輪が回りだして前に進 むボートは、車輪に巻いたワイヤに形状記憶合金を使っている。五、六年
前、この合金が話題になったころ、四年生の「熱の伝わり方」を学ぶために取り入れられた。
光センサーロボットや、伸縮する素材を使ったペーパースピーカーな ど、大人が聞いても知らないようなハイテク素材も使われている。ラジオは二十年以上も続く定番だが、仕組みは進化した。一九六八年に登場した当時は、プラスチックの筒に銅線を巻いたコイルを使う原始的な「ゲルマニウムラジオ」。しかし八八年にICチップを組み込んだ高感度のラジオが登場し、九三年にはスピーカーまでついた。今ではダイヤルで選局もできる。
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「付録の変化は子どもの変化でもある」と湯本博文編集長は言う。
まず物が豊富になったため、ただの実験教材には興味を示さなくなった。人気の高かったカメラは、インスタントカメラの出現で人気が低落し
ているという。「ハイテク素材を使うのは、身の回りにはない物で興味を持ってもらう一手段」と湯本編集長は説明する。第二に組み立て作業ができる子どもが少なくなったこと。昔はコイルを子どもに巻かせていたが、
八四年以降は既製のコイルをつけている。電子機器の付録は、銅線がIC基盤にはんだ付けしてあり、自分で配線をする必要がない。
「科学への関心を呼び起こすには、いかにビックリを伝えるかだ」と湯 本編集長は言う。しかしハイテク化で、本来伝えたい仕組みや原理がわかりにくくなる危険性もある。編集長は六年のとき、「水レンズ」セットの
付録で、ただの入れ物が水を入れるだけでレンズに早変わりする様子に驚 いたことがある。
「今の子どもは『動いてあたりまえ』なので、科学的知識がないと、 『そんなもんだ』と思って驚かない。どうやったら五感に訴えられるもの
が作れるか、一番難しいところだ」このような努力にもかかわらず、付録 に目を向ける子どもは少ない。「科学」(全学年)の部数も最盛期の三百万部から半分ほどに落ち込んでいる。井垣君も「学校では科学の付録の話はしない。みんなと遊ぶのは、テレビゲームかミニ四駆だよ」。
本質の理解が大切
ソーラーカーや、コイルを電磁石の力でモーターにして走る車。おもち ゃ屋に売っている商品のようだが、これらは小学校の理科の授業で使う実
験用の教材だ。
ソーラーカーのセットは、四年生の「電気や光のはたらき」の実験で使 う。ある会社のセットは車を組み立てながら、乾電池に豆電球をつないだり、直列と並列の電流の大きさを調べたりと、八つの実験ができるように
なっている。はめ込み式で組み立てやすいのはもちろん、配線の銅線の被覆のビニールは薄く、つめで簡単にはがせる。実験に使う豆電球の銅線は、あらかじめビニールをはがしてある。
教材会社「東栄社」の内田誠一専務は「今、学校から教材に求められて いることは、『実験に余分な時間をかけないこと』『全員が確実に実験で
きること』」だという。娯楽の要素も必要だ。今の人気商品は「車」。一方で、透明な板に銅線を張ったような単純な教材は姿を消している。「学校の先生も子どもの興味を引くように気を使っているように思える」
理科教育について考える「科学教育研究協議会」のメンバーでもある東京都足立区立花保小学校の小佐野正樹先生は「実験重視と言われるが、効率よく数だけこなしても本質を理解させる実験でなければ意味がないので
はないか」と心配する。
科学クラブを受け持つ小佐野先生は、豆電球、エナメル線一本、乾電池 一個を使って豆電球をつける実験をする。三年生で習う内容だが、この十
年ほど、六年生でも豆電球をつけられない子が増えているという。「何もかも用意された実験では、何が電気を通し、電気がどのように流れるのか実感できない。小学生に理科嫌いは少ないが、土台がなければ、中学、高
校で理科嫌いになる可能性はある」と話す。
「6年の科学」の付録 今むかし
1996年 1966年
4月ICポケットラジオ 太陽の方向高度測定器
5月地球浪漫・地球カプセル博物館 水レンズ実験セット
6月銀河伝説ポケットプラネタリウム こきゅう・消化実験セット
7月地球環境調査セット カビ・キノコ培養セット
8月ひえひえアイスクリーマー セロハン湿度計・雨量計
9月地球生命実験室 ポケットラジオ
10月つくえの上で森林浴 金属鉱物実験セット
ポケットエアコン
11月電気メッキ実験セット 金属計量セット
12月6年生すきすきはがき作りセット とけいセット
1月摩訶不思議実験室 力の実験セット
2月カセットキッチン満腹亭 モーターセット
3月サイエンスサウンドCD テスターセット
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