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小学生に席替え不安症



小学生の席替えといえども、軽く見てはいけない。単なる楽しいイベントだったのは昔のこと。席決めを発端に、子どもたちの複雑な人間関係が表面化し、仲間外れにされる子が出るといったケースもあり、みな小さな心を悩ませているのだ。二学期が始まり、席替えをした学校も多いことだろうが、とかく難しくなっているという現代席替え事情を−−。

「適当にやると大変」
「席替えは、担任として最も気を使い、慎重になる大仕事です」と小学校教師たちは口をそろえる。なぜなら、給食や掃除当番など、座席を中心とした班での集団活動が多い小学生にとって、生活のほとんどを共にする重要な仲間を決めるのが席替えだからだ。
「席替えをすること自体はみんな好きだし一大イベントと思っているようだ。ただ、どうやって席順を決めるかが問題なんです」と打ち明けるのは東京都武蔵野市の小学校教諭。実際、うかつに席決めをしたために、いじめに直結してしまったこともあった。二年生のA子は、どちらかというとあまり友達のいない、立場の弱い子。同教諭が席をクジ引きで決めたところ、「A子がだれの隣に当たるか」をめぐって、子どもたちが騒ぎ出したのだ。A子がいるにもかかわらず、自分の横に座らないように願うひそひそ話が教室にまん延した。
教諭は「その場は仲良くやるように言ったが、まさにあれはいじめでした。学年が変わったとき、新しいクラスで席を決めるのは怖い。子ども同士の付き合いの程度を知らずに適当に考えていると、大変なことになります」と自戒の意味もこめて話す。
席替えが原因で、児童が傷付くことは意外に多い。東京都渋谷区の小学校教諭も「子どもたちは敏感ですからね。席替えに対して不安がる子が増えている」と認める。

児童では決められず
「以前だと、どんなふうに席を決めたいか、と聞けば、『自分たちで好きなように決めたい』という声が返ってきたものだった。ところが今では『先生が決めて』が多数を占める」。理由を聞くと「先生が決めてくれれぱ、絶対にどこかのグループに入れる。人から嫌だと言われることもないから」と同教諭。
数年前まで、席替えにあたっては
@あらかじめ班長を何人か選ぶ
A各班長が自分の班のメンバーを指名する
−−という方法で班分けし、席を決めていた。だが今は、まず教室の席を男子席と女子席に分け、男女それぞれに好きな所に座らせる方法をとっている。
「班長に指名してもらえなかったらどうしよう」という不安が解消される分、以前の方式よりもおだやかのようだ。もちろん女子同士、男子同士は好きな子と同じ班になれるので、前と同じ組み合わせになったり、仲間外れの子が出たりする恐れがある。同教諭はそうならないよう目を光らせる。「だが、はみ出しっ子にならないための自衛手段として、事前にみんな根回しをしているようだ」と苦笑する。「クラスは三十人に満たない少人数。それだけに、児童たちは、どうやったら自分が仲間から浮かないですむかを考える。気兼ねしながら生きている。自分が外されること
への極端な恐怖症が広がっている」

「いじめ解決の機会」
だが、あえて班長を選び、子どもたち同士でどの班になりたいかを決めさせる方法をとる学級もある。高知県のある教諭は「確かに、どの班長のもとに行けば受け入れてもらえるだろうかと、ためらう子もいる。しかし、こういった子ども同士の関係が見えた時こそ、いじめや仲間外れを解決できる機会」と考えている。
消極的な子どもも、どこかの班に入れるまでみんなで相談する。席替えで「仲間に入れない子」がはっきりわかるが、その後「どうしてその子を避けるのか」をクラスで話し合う。教師が大人の意図で指定したり、クジ引きで決めたりしていたのでは解決できない」。時にいじめには荒療治も必妥だと説く。
静岡大学の深谷昌志教授(社会教育学)は「ふだん子ども同士で群れになって遊ぷことのない現代っ子にとって、生活集団づくりは勉強よりも難しい課題。しかし、だからこそ席替えや班決めが、人間的な間(ま)の取り方を学ぶ絶好のチャンスとして大切になる」と指摘する。子どもたちの表情をよく見て、傷ついている子どもがいないかどうか見極める教師の力量も問われることになるという。
1996/9/25/水 掲載