『授業づくりネットワーク』一九九九年五月号
「総合的学習」の授業づくりを考える 過去の実践史をもとに「総合的学習」授業づくりのための6ヶ条
金城学院大学 藤川大祐
1 「総合的学習」授業づくりのための6ヶ条
「総合的学習」の授業をどうつくるか。私は、次の6ヶ条を提案している(二杉孝
司編『小学校新学習指導要領 解説と授業づくりのアイデア』学事出版)。
第1条 子どもをマーケティングしよう
第2条 「出力」を意識しよう
第3条 デジタル技術を活用しよう
第4条 ディベートの技術を教えよう
第5条 エンターテインメント感覚でプロデュースしよう
第6条 「生き方」につなげよう
それぞれについて、もう一度説明しよう(詳しくは、前掲書、及び、藤川大祐・授業づくりネットワーク編集部編『「総合的学習」に使える実践アイデア集1・2』学事出版、参照)。
●第1条 子どもをマーケティングしよう
「総合的な学習の時間」では、子どもの興味・関心に合った活動が求められる。こ
のため、教師はまず、子どもの興味・関心を捉える必要がある。
個々の子どもについて、現に現れている興味・関心だけでなく、潜在的な要求につ
いて捉えることが必要である。
●第2条 「出力」を意識しよう
子どもたちの学習の成果は、他の子どもたちなど、多くの人たちに対して発表させたい。発表させるとすると、どのようにして発表させるかによって、発表までの子どもたちの活動の質が大きく異なってくる。最後にどう「出力」させるかを教師が意識することが重要だ。
●第3条 デジタル技術を活用しよう
現在、デジタル技術が急速に進歩して、社会のあり方を大きく変えつつある。「総合的な学習の時間」でも、情報教育を行うことが期待されている。デジタルビデオカメラやコンピュータなどのデジタル機器を活用して、体験的学習や問題解決学習を進めたい。
●第4条 ディベートの技術を教えよう
「総合的な学習の時間」では、学び方やものの考え方を学ばせることが求められている。ここで言う「学び方やものの考え方」は、ディベートの技術とかなり重なる。
「総合的学習」の中で、まとまった時間をとって、論題決定、リサーチ、試合という一連のディベートを行おう。そして、ディベートを通して資料検索の技術、議論整理の技術、インタビューの技術、わかりやすく話す技術、反論する技術などを子どもたちが学べば、他の活動を行う際にもこれらの技術を活用することが可能になる。
●第5条 エンターテインメント感覚でプロデュースしよう
子どもたちは、学校の外では、テレビゲーム、テレビのアニメやバラエティ番組、テーマパークといったエンターテインメント産業に囲まれて生活している。
教師には、エンターテインメントの感覚で、子どもたちの面白い活動をプロデュースするという姿勢が必要だ。もちろん、表面的な面白さばかりを追求するのでなく、奥の深さを求めることは必要である。
●第6条 「生き方」につなげよう
「総合的な学習の時間」の「ねらい」には、「自己の生き方を考えることができるようにすること」があった。実践を計画する際に、「生き方」にどう関わるかという観点を持つことは重要である。他者の生き方に触れたり、徹底して一つの課題を追究したりする中で、自らの「生き方」を子どもたちが見つめ直せることが望ましい。
2 デジタル機器と「生き方」−苅宿実践
では、右の6ヶ条を意識して、これからの「総合的学習」へのヒントとなるような、二つの先行実践を見ていこう。
まず取り上げるのは、俊文氏の実践である。
苅宿氏は、東京の港区立神応小学校で、コンピュータを積極的に活用した実践を行ってきた。苅宿氏の実践は、たとえば次のようなものである。(佐伯胖・佐藤学・苅宿俊文・NHK取材班『教室にやってきた未来』NHK出版、一九九三年、より要約・抜粋)
6年生の授業。子どもたち一人一人にノート型コンピュータ(マッキントッシュ・パワーブック)が配られる。
最初に子どもたちが取り組んだのは、「みつめる」という活動。何かに「なったつもり」になって、コンピュータの画面上に絵を描くこと。教師の示唆もあり、子どもたちはパソコンを持って教室の中を動き回る。そして、床に捨てられた牛乳の栓から自分の机を見上げるとか、黒板の内側から見た黒板の表側といった絵が描かれていく。
1ヶ月後、今後は、子どもたちにビデオカメラが与えられる。アリになったつもりで、公園の地面をはいつくばって撮影する子どもが出てくる。多にも、ネコになったもの、花になったものなど、子どもたちはいろいろなものになったつもりの映像を撮影する。
こうして、子どもたちはコンピュータとビデオカメラを使いこなして、公園や移動教室で、そして夏休み中の旅行で、さまざまな映像を撮影し、絵を描いていく。
その後、子どもたちはコンピュータとビデオカメラを活用しながら、「自分をみつめる」「自分を通してみつめる」というテーマへと進んでいく。自分がこだわりをもっていることがらについて、学習を進めていくのである。
この苅宿実践で、まずわかるのは、デジタル機器(実際にはこの頃のビデオカメラはアナログ機器かもしれない)が効果的に使われているということである。子どもたちは、コンピュータやビデオカメラを道具として使いこなし、一人一人の学習を進めている。コンピュータやビデオカメラを使うことは、目的でなく、手段となっているのである。ここに見られる「道具としてのコンピュータ」という発想は、コンピュータの使いかを学ばせることのみを目的とするコンピュータ教育への批判でもある。
だが、それ以上に興味深いのは、何かに「なったつもり」という活動が継続的に行われていることである。
「なったつもり」というのは、他のものに感情移入して、他のものの視点で外界を見るという活動だ。当初、子どもたちはこの活動に戸惑ったようだが、他のものに感情移入するということを理解しはじめてからは、アリやネコや消しゴムといったものに「なったつもり」になることに夢中になっていったという。
ここで重要なことは、アリやネコや消しゴムに「なったつもり」になることを徹底する中で、子どもたちはそうしたものに「なったつもり」になっている自分を見つめることになるということだ。自分を主題化して自分を見つめようと思うと、かえって自分がわからなくなる。他者に意識を集中させることによって、逆に自分を捉えられるということがあるのだ。他のものの視点をとらせることが、自分を見つめることにもつながるということが、実に興味深い。
苅宿氏の実践は、デジタル機器を使って、自分、そしてひいては自分の「生き方」を見つめることにつながるところが魅力的である。こんなふうにデジタル機器を生かせるかということは、今後の「総合的学習」にとって重要な課題となるだろう。
3 授業は自分たちのもの−築地実践
次に取り上げるのは、築地久子氏の実践である。
築地氏は、静岡市立安東小学校などで、討論を中心とした授業を行ってきた。たとえば、次のような授業がある。(授業記録は、藤川大祐『「個を育てる」授業づくり・学級づくり』学事出版、一九九三年、に収録)
2年生の社会科。子どもたちは、「バスの運転士さんは運賃をバス会社の他の人に分けるか」ということを議論している。
このテーマは、ある女の子の変容を願って設定されたもの。教師は、この女の子を「賢いが、自分さえよければいいという面がある」と評価し、運転士さんが他の人に支えられていることを理解することによって、自分も他の人に支えられていると考えられるようになってほしいと願っている。
子どもたちは、「分ける」「分けない」それぞれの立場で活発に議論していく。2年生ながら、最初に結論を言ってから理由を説明する、他の子どもたちに相づちを求めながら話すなど、さまざまな技術を使いこなして、他の子どもを説得しようとする。
築地氏の実践では、子どもたちに対する徹底したマーケティングがなされている。築地氏は、白紙座席表に子どもたち一人一人の発言などを記録し、一連の記録から、「この子は何にこだわりがあるか」「どのような課題であればこの子の変容を目指せるか」といったことを考え、授業を計画している。この結果、子どもたちの人格、「生き方」に関わるような授業が実現されている。
また、ディベートにも通じるような、討論技術を子どもたちが使いこなせるように配慮している。子どもたちの発言方法によいものがあれば、短冊に書いて掲示するなどして、他の子どもたちに真似をさせる。
そして、子どもたちは意見の違う子どもを説得したいという明確な動機をもって調べ学習を行っている。すなわち、「出力」が意識されているために、調べ学習が充実したものになっている。
これらに加えて強調しておきたいのは、築地学級の子どもたちには、自分たちの授業を自分たちでつくっているという意識があるということだ。教師がいなくても授業を始め、自分たちの発言で授業を進めていく。子どもたちにとって、授業はまるで舞台であり、下手なエンターテインメントよりも熱中してしまうものになっている。「総合的学習」では、子どもたちが主体的に活動することが求められる。築地学級のように、子どもたちが「授業は自分たちのもの」という意識を持てるかどうかということも、重要な課題である。
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