初等・中等教育において「総合的な学習の時間」が設けられることになり、その具体的な実施に関しては各学校の創意工夫に任されることになった。生徒一人一人が世の中で自立して生活できるための基礎的な力をつけることをその主要な目的とする初等・中等教育にとって,「総合的な学習の時間」の創設は画期的なことであり、混迷する学校教育に新しい道を拓くものとして大いに歓迎したい。
今日、私たちは地球環境問題をはじめとして緊急に解決しなければならない様々の問題をかかえている。こうした課題に正面から立ち向かい、課題を解決するためには、理科系、文化系の学問の違いを越えて、多くの学問分野を統合した総合的視点から考える必要がある。しかしながら、我が国の研究・教育の現状を見ると、個々の専門分野に分かれており、総合的観点に立つことがきわめて難しくなっている。これは初等・中等教育においても変わることなく、専門分野の枠を踏襲した形の教科の教育がその大部分を占め、相互に連関のある教育を行うことが難しくなっている。しかし、初等教育の現場では総合的に学習するのに適した題材にはめぐまれている。生徒達の新鮮な発想に基づく疑問は従来の教科の枠組みでは取り上げることが難しい場合が多かったが、こうした疑問に答える授業が総合学習では可能になる。
生徒一人一人は優れた才能を隠し持っている。興味を持ち意欲さえ湧けば、難しいことでもなんなく消化してしまう力をすべての生徒が内に秘めている。こうした隠された力を引き出し、生徒一人一人が様々な疑問を持ち、深く考え、積極的に疑問を解決するために努力する姿勢を持つようにすることこそが、現在の教育でもっとも必要とされている。とりわけ、地球環境問題のように私たちの将来に大きな影を投げかける問題に囲まれたは現在の社会では、生徒のこうした姿勢こそ将来への明るい展望を拓くものであり、「生きる力」の一つの現れでもある。そのためには、現状を客観的に分析し、論理的に議論を進め、説得力のある説明を行うことのできる力を育てることが大切である。また、国際社会のなかで、我が国が世界に貢献するためにもこうした教育が必要である。総合学習の充実こそが、こうした教育を可能にする。
ところで、総合学習の充実と個々の教科の充実とは矛盾するものではない。総合学習が実を結ぶためには個々の教科の教育も充実させる必要がある。とりわけ、自分の考えを的確に表現する能力は国語教育の充実を措いては得られず、また氾濫する情報の中から的確なデータを取り出し、分析し、論理的に結果を予測する力は算数・数学教育の充実を措いては培われない。それと共に、豊かな感受性を備え、他人の痛みを分かる大人に成長するためには情操教育の充実も求められている。総合学習と個々の教科との連携はこれからの大切な課題である。
しかしながら、「総合的な学習の時間」の意図は素晴らしくても、その具体化には様々な困難が伴う。総合学習を充実したものにするために、また総合学習を研究、実践する教育者、教育機関の支援を積極的に行うことを目的として,日本総合学習学会は設立された。特に、本学会では、小学校から大学までの先生方が、従来の教育の枠を越えて一致協力して、総合学習の方法論の構築と総合学習のヒントとなる教材を提供することを目指している。多くの現場の先生方の努力により、総合学習が学校教育に新風を巻き起こすことを希望する。
なお、日本総合学習学会ではこれまで総合学習の実践研究をしてこられた実験校との交流をはかり、総合学習のための方法論を確立するための第一歩として第一回公開セミナーを8月30日(日)に京都大学において行う。また、学会の第一回総会は11月23日に東京大学において行う予定である。
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