本論文は平成8年6月8日に日本教育工学会シンポジウムにおいて発表したものです。無断で転載することを禁じます。
総合学習と情報教育
〜社会科の調べ学習の実践より〜
1.はじめに
小学校の社会科などでは、ある事柄に対して、児童が副読本や図書室の資料などを利用して調べ、自分なりに内容をまとめて新聞にしたり、ノートにまとめるという調べ学習が行われる。児童が時間をかけ、絵や図を入れながら工夫して出来上がったものの中には、とてもすばらしいものもあるが、担任以外の人の目につきにくいことを残念に思っていた。また、担任以外のたくさんの人から、それらを見てもらうことで、児童の取り組みも意欲的なものになるのではないかと考えていた。
そこで、絵や図を利用することができ、質問や意見を受けることが容易にできるメディアとして、インターネットでの環境が最適であろうと考えた。これまでの環境では、教師が見て、いくつかアドバイスをするだけに終わっていたが、インターネットという環境を利用することで、児童に教師以外の人からも見てもらえるという喜びや、活動に対する意欲がわき、さらに質問や意見を受けることで、自分の調べた内容を補い、理解を深めるといった活動が期待できると考えたのである。さらには「なぜ質問を受けることになったのか。」や、「自分はどのような意味で書いたのだろうか。」などの理由を考えることにより、自分を中心とした、それまでの調べ学習から、交流により他を意識した調べ学習へ児童が変化することが期待できると考えた。以上のことより、社会科の調べ学習において、インターネットを利用した実践を行ったのである。
2.実践の概要
5年生の社会科に、伝統工芸について学習する単元がある。新潟県十日町市は、地域の伝統的な産業として着物が有名であり、中でも「明石ちぢみ」「十日町絣」は、通産省より伝統的工芸品として指定されている。その生産量は一時より減少したものの、現在でも児童の親の多くが、何らかの形で着物に関係した仕事に携わっている。
しかし、児童は、「十日町市は着物で有名だ。」と口にするものの、着物の原料や着物がどのようにして作られているかを知らない現状にある。日本の伝統産業の現状を知ると共に、地域の産業を通して十日町市を見つめて欲しいと考えていた。
そこで、十日町の着物に関して自分で調べたい内容を決め、図書室の本などを利用して調べ、ノートにまとめた。それを、児童の自宅にあるワープロやコンピュータを利用して、児童らが各家庭で打ち込み、教師がHTML化して、インターネット上で公開をしたのである。
さらに、公開するだけでなく、児童がまとめたものに対して、質問や意見を電子メールとして、もらえるような仕掛けを作成し、それを児童にフィードバックできるようにした。帰ってきた質問や意見を児童に見せ、質問や意見に答えることで児童が調べた内容を詳しいものにしたり、分かりやすいものにしていこうとしたのである。
3.実践の実際
本実践の単元名、単元の目標、指導計画等は別紙の資料1を参考にしていただくことにして、ここでは、授業の流れを述べることにする。
10月中旬頃、日本の伝統工芸の概略を2時間学習したあと、十日町の着物に関するビデオを見て、「知りたいこと」「調べたいこと」のテーマを決め、調べ学習入った。この時点での児童のテーマは下記の通りである。
┌──────────────────────────┐ │・なぜ十日町の着物が有名になったのか(1名) │ │・着物の名前や種類には、どんなものがあるか(3名) │ │・十日町のかすりについて(2名) │ │・着物の織り方、染め方について(2名) │ │・着物の材料について(2名) │ │・十日町の着物の歴史について(2名) │ │・雪まつりや着物まつりと十日町の着物の関係について │ │ (1名) など│ └──────────────────────────┘中には「十日町の着物」に関するものというより、「着物全般」に関するものもあったが、児童の調べたい内容を尊重し、このまま調べ学習を進めた。
これまでに、児童は「日本の農業について」や「日本の水産業について」の調べ学習を行っていたので、今回の調べ学習でも、主な資料として図書室の本などを利用していた。まとめの下書きの段階では、本をそのまま写したり、本や図鑑にある絵や図をただ写しているといったものが多く見られた。
これまでの調べ学習であれば、調べた内容を画用紙などに清書をして、新聞として教室の壁に貼り、クラスの中だけで閲覧していたのであるが、児童がまとめたものをインターネットを通じて、世界の人に見てもらおうという話をしたところ、とても喜んでいた。授業の終わりに、コンピュータやワープロが家にある児童に対し、家で打ってくるように話すと次の日には数名の児童がフロッピーディスクを持ってきた。
その後、教師が所有するコンピュータを教室に導入し、休み時間を利用して児童は、まとめを打ち込んでいた。
10月下旬には、児童の取り組みを知ってもらうと同時に、児童の調べている内容を補強する目的で、調べ学習の時間に授業参観を設定した。児童は、着物に関係する仕事に携わっているお母さん方に、話を聞いたり質問をしたりして、これまでの疑問や分からないところを聞き、これまでのまとめにつけ加えをした。授業参観後、留め袖や振り袖をテーマとした児童が「留め袖はただ、袖が短いだけだと思っていたけれど、お母さん方から話を聞いて、留め袖にはそれぞれの家の家紋が入っているということが分かりました。」と感想話し、留め袖を示すために描いた絵に家紋の位置を付け加えたのである。
児童は新しい内容を知った喜びと家紋について興味を感じていた。同時に、このことを教えた親も喜びを感じていたようであった。
この授業参観後、本だけでは自分の必要な情報が得られないと感じた数名の児童が、着物を作っているところや着物を展示している店に直接、取材に出かけるようになった。児童の意欲的な活動に、専門的な方を呼んで、話を聞く機会を設けたいと考えたが、時間的に余裕がなく、クラスとして専門家を呼ぶことができなかった。 12月上旬、この時点で一応まとまったものをHTML化して、インターネット上に公開した。
1月上旬、質問が届き始めた頃、教室の壁に届いたメールを掲示した。自分たちのまとめを見てくれた人がいることや質問をしてくる人がいたことにとても感動していた。また、メールに自分の名前が書かれていた児童は、とても喜んでメールを読み、しっかりと質問に答えようとやる気を見せていた。何よりも、メールが届いたという事実により、自分の存在が世界に認められたという気持ちが大きかったようである。
┌───────────────────┐ │皆さん、今日は。 │ │(中略) │ │ 着物のページも良い勉強になりました。│ │ 他にも日本の文化を勉強している人に見│ │てほしいですね。しかし、地名や人名の出│ │ているところは私達外国人にとって少し読│ │みづらいことがあるので、そこでかなをふ│ │っていただいたら、もっと読みやすくなる│ │と思います。専門語も時々そうですが。 │ │(略) │ │ これからも頑張って下さい。 │ │ Auf Wiedersehen │ │ (ドイツ語で「さようなら」と) │ └───────────────────┘質問は小学生から一般の人までの広範囲にわたっていただいた。児童の活動に影響を与えたメールの一つとして、ドイツの日本文化を研究している学生から上のようなメールを頂いた。 これまでのメールでも専門語などの意味について、しばしば指摘を受けていたが、ドイツの方からメールを頂いたことで、児童のまとめが変化した。
これまでの学習では、それほど専門語がでるような内容を調べた経験が無く、経験があったとしても、それほど専門語の意味を知ろうとしてこなかったのである。着物は専門語を使用することが多いのであるが、児童はあまり意味を理解しないまま、専門語を利用していたのである。このメールを期に、児童は専門語に対し、辞書や百科事典をひきながら、なんとか説明を加えようとする態度を身につけていった。そして、クラス全体の雰囲気が、ふりがなをふったり、専門語に説明を加えるだけでなく、人に分かり易いものを作っていかなければならいというように変化したのである。
その後は、文字での説明だけでなく、絵を描いて分かりやすいように工夫したり、写真を利用してより正確に情報を伝えたいと考える児童が増えた。中にはビデオを利用して着物を作っている様子を伝えたいという児童もいた。
調べ活動を始めた頃は、それぞれが自分のテーマに対して、別々に調べ学習を行っていたが、活動をするうちに、自然と同じ内容を調べている者同士、あるいは似た内容を調べている者同士が協力して活動を行うことができた。また、自分が調べている内容に友達の調べている内容が出てきた場合にリンクするようにして、お互いを活かすような雰囲気になった。 2月上旬、単元の目標を押さえるため、この内容に関係した児童のまとめを利用して学習を終えた。
4.考 察
今回の実践は、3カ月以上の長期にわたるものになったが、この間、着物に関する単元だけを学習していたのではなく、平行して他の単元の学習をしていた。これは、これまでは調査したことを教師にだけ見せれば良かったのであるが、インターネットを利用し、調べた内容を情報として不特定多数の人に公開し、質問や意見を受け、それに答えるために再度、内容を調査するという取り組みを行ったため、時間が必要となったからである。
しかしながら、授業だけでは時間が足らず、放課後や休日を利用した、児童の主体的な取り組みによって活動が行われることになった。カリキュラムの関係上、11時間の学習として終えなければならなかったが、数名の児童は、授業が終えた後も取り組んでいた。
知識優先の授業であれば、ある一定の時間の中で学習を終えることができるかもしれないが、児童の主体的な活動を優先するのであれば、時間的に余裕のあるカリキュラム上で計画される必要があるだろう。
どの学習においても、各教科が様々に関係していると考えられるが、ある目的に向かい、児童が主体的な活動を行うにより、一つ一つの取り組みが充実すると、複数の教科との関係がより深まると考えることができる。
例えば、まとめの中で「からむし」という言葉を用いいた児童が、「からむし」に関する質問を受け取ることで、今までの説明を読み直し、説明の足りない部分や分かりづらい部分を、分かりやすい文章に直そうとした。その過程で、辞書を調べたり文章を推敲したりするなどの国語の学習をしていると考えることができる。
また、質問を受け取ることで、より具体的に「からむし」を説明するために絵を描いた児童がいた。この場合は図工の学習をしていると考えることができるが、ただ漠然と絵を描くときに比べ、より精密に丁寧に絵を描こうとしていた。
さらに、メールにより他を意識し、より専門的な図鑑を見て「からむし」の理解を深めるという、理科の学習をしたことになる。質問により「雪と着物の関係」を調べ、オゾンに興味を持ち調査をしようとした児童もいた。
以上のように考えると、社会科の学習として行った「調べ学習」ではあるが、ある児童にとっては、社会科だけにとどまらず、様々な教科の内容を総合的に学習していると考えることができる。児童一人一人の取り組む内容が異なるため、必ずしも全員が同じ知識や学力を獲得するとは限らないが、教師に一方的に教えられるものでなく、児童の興味や関心にもとづき、児童自らが知識や学力を獲得したり、向上したりしていくという学習を行うことができるのである。このように総合的な学習活動を繰り返し行うことができるならば、新学力観にもとづく教育を行うことができると考える。
一方、情報教育という観点から、「情報活用能力」の育成が重視されている。調べ学習をする過程では、自分に必要な様々な情報を判断したり、整理しているわけである。その上、今回の実践では、インターネットを利用し、情報の発信と受信を行うことにより、自分なりの情報に変え、それを他へ伝達しているのであり、情報教育と密接に関係しているのである。
インターネットに情報を発信するために、ワープロやコンピュータを利用したが、学校にそれらが導入されていないため、基本的な操作や文字入力などはほとんど指導していない。しかし、児童は家の人に聞いたり、友達と相談しながら利用するうちに、操作をする力を身につけていったのである。
これは、単にワープロやコンピュータに関心があるだけでなく、自分の興味や関心にもとづいてまとめたものを情報として発信し、他の人に見てもらうという目的がしっかりとあるためだと考えることができる。
また、質問をメールで受け取ることで、これまで調べたことを振り返り、専門語に対して説明を加えたり、難しい言葉に振り仮名を打ったりしてまとめを変化させた。これは、他を意識したことにより「自分にだけ分かればよいとするまとめ」から、「人に分かりやすいまとめ」に文章を変え、表現力が向上したと考えることができるのである。さらに、説明の対象を絵を描いたり、写真を撮ったりして説明をしようとする児童は、より具体的に説明するために有効なメディアを利用して、表現する力を向上させたと考えることができる。
以上のことから、インターネットを利用して情報を発信したり受信したりしながら、総合的に学習活動をしていく中で、情報教育と深く結びついていくと考えることができる。
5.おわりに
今回の実践では、自分の地域に関することを情報として発信をしたのであるが、同時に自分が地域のことをあまり知らなかったことや、自分の住む地域のすばらしさを知る活動になった。休日に着物の展示場を積極的に取材した児童は、「着物を作るのに、大変な技術がなければできないとこが分かった。でも、着物が減っていたり仕事をする人が減っているのは寂しいです。十日町の着物を作る人になりたいと思いました。もう少し色々なことを調べたいです。」と感想に書いた。私の異動により、その後の児童の様子をすべて把握することはできないが、現在でも2名の児童が着物に関する調査を自分なりに行っているので、様子を見る機会を設けたいと思っている。より調べ学習が生かされると考えるのである。
現在でも活動が行われている一方で、主体的な取り組みが持続しない児童もいたのである。始めた頃は意欲的に活動したが、「コンピュータやワープロを自由に利用できる環境にない。」「自分が作成したまとめがどのようにインターネットで公開されているかが分からない。」「着物に興味がない。」などの理由で、徐々に意欲を失ってしまう児童もいた。環境を整備するとともに、テーマとして取り扱う内容を考え直していく必要があるかもしれない。
今後は、さらに実践を重ねることで、どのような教育的効果があるのかや問題点などを見つけていきたい。
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