IT革命は成功するか1
2000年7月9日(日)
ソフトバンク社長
孫正義氏(そん・まさよし)
1957年生まれ。80年末カリフォルニア大学バークレー校糸蚤済学部卒。81年ゲームソフト流通などを手掛ける日本ソフトバンクを設立、社長に就任。83年会長。86年社長再任。90年ソフトバンクに社名を変更。現在は国内外でインターネットビジネスの支援事業に力を入れている。
先進国首脳会議(沖縄サミット)に向け、情報技術(IT)革命を唱える声が急速に高まっている。米国ではITが新たなベンチャー企業を生み、「ニューエコノミー」を実現した。政府はIT革命で日本経済の改革を目指すというが、どうすれば成功に導けるのか---。この分野の論客として知られるソフトバンクの孫正義社長に口火を切ってもらった。
---「lT」という言葉を聞かない日はありません。lT革命に必要なことは何でしょうか。
経済構造を根底から変えなければなりません。まずインターネットが自由に使えるようインフラを整備することです。日本はまだ接続料金が高い。常時接続もできていない。これでは国そのものの発展を遅らせてしまいます。日本電信電話(NTT)を分割するだけではダメです。新しい競争者が入れるよう様々な規制を緩和することです。米国の規制は大きなもの、独占的なものを阻む規制ですが、日本は大きいものや既得権益を守る規制です。
政府規制のほかに、民間が民間を規制する「民民規制」もあります。例えば、高速の光ファイバー網を電柱に張り巡らせようとすると、電柱一本一本の写真を撮って申請する必要がある。市内通信網の接続料引き下げも外国から言われてやるようではダメです。
---最近、ネットビジネスを始める若者が増えていますが、米国に比べると非常に少ない。
二点目に変えるべきものは教育です。日本の教育は知識偏重です。歴史でも年号を覚えさせられますが、それより史実がなぜ起きたのか、それによって世の中がどう変わったのかを教えるべきです。覚えるより考えることを重視したい。デジタル情報革命の担い手は若者ですから、彼らが右脳と左脳をバランスよく使えるように変えていくべきです。
---政府は来年度予算編成でIT重視を打ち出しています。
革命を成功させるには国家予算の配分もインフラ投資などの支援に回すべきです。ただそれは政府が光ファイバーを敷くのではなく、民間企業を支援する。二十年間無利子で融資するといえば、多くの企業が手を挙げるでしょう。電話の長距離料金は新規参入があったから自動的に料金が下がり、品質もよくなった。インターネットは足回りが大事で、それを支える通信網を一社が独占している状況はおかしい。
だいたい電柱も水道管も空中も皆、国民の財産です。次世代の移動通信にしても、だれがいつ特定企業に勝手に電波を割り当てたのか。欧米では入札が原則で、それによって何兆円ものお金が国民に入りましたが、日本の国民には一円も入らない。そういうことを何でもっと議論しないのでしょう。
許認可についても、今の議論は百の規制があってその二つか三つを撤廃しようとしている。それより百の規制をまず全部撤廃して、必要なものがあれば改めて設けるのが望ましい。
---日本のインターネット利用は米国より遅れていると言われますね。
日本は米国より三年遅れています。差はむしろ開いているでしょう。問題は日本は後発組にも抜かれつつあることです。日本のインターネット利用者は約二千万人ですが、韓国は千六百万人です。一人当たりの普及率てみたら完全に追い抜かれたわけです。個人投資家のうちネットで売買しているのは米国が四〇%、日本が一〇%ですが、韓国は六〇%にも達しました。そうした状況を打開するためにも規制緩和が必要なのです。
ところが日本ではこの数カ月、インターネット関連企業に対する総バッシングが始まっています。確かに玉石混交で目を覆いたくなるものもあります。しかし、これまで何もやらないでおいて、半年前になって急にインターネット企業なら何でも持ち上げ、今度は一社か二社がやけどをしたら全都たたくというのは極端過ぎます。日本のモノカルチャーの特性ですが、それでは新しい企業は育ちません。
---孫さんはlT戦略会議のメンバーとなりlTの大切さを政府に訴えることになりました。
我々を入れてくれたことは感謝しています。その分、どんどん発言することが義務だと思っています。政府の首脳もようやくITの重要性を理解し始めた。ITサミットのほか、IT大臣も設け、IT戦略会議もできる。方向性としてはおおいに結構です。事実として言えるのは、ITは人類にとって大革命であり、世界中どの国も革命の実現に向け走っていることです。
実は森喜期首相の依頼を受け、十九日に東京に最先端のリーダー十数人に集まってもらい、IT革命のための提言をする予定です。ヤフー創業者のジェリー・ヤン氏やシスコシステムズのジョン・チェンバース社長らと安全性や教育、インフラ、法制度などの面から何をすべきかまとめるつもりです。
---ソフトバンクが出資して発足したナスダック・ジャパンはどんな役割を果たしますか。
二つの役割があります。
一つは資本のグローバリゼーションです。モノの流れはグローバルになっていますが、資本の世界は一部の機関投資家を除けば日本の消費者が外国株式を持つ例はあまりない。例えばマイクロソフトの製品が日本でたくさん売れても、その利益は米国に吸い上げられてしまう。だとすれば我々はマイクロソフトの株式をもっと保有すべきです。
二つ目は企業がもっと短期間に株式を公開できるようにすることです。今までは上場するのに平均二十五年かかっていました。工業化時代の古いルールによってベンチャー企業が締め出されていました。米国のIT革命が成功したのは、ナスダック(来店頭株式市場)という資本市場があったからです。日本にも同じものが必要だと私は訴えてきましたが、結局、だれもやらないから自分で変えようとしたわけです。
---日本債券信用銀行への支援の意味は。
日本の間接金融の世界は"超担保主義〃で、ストックを重視しています。一方、欧米ではフローを重視しています。ビジネスモデルを点検して、いくらキャッシュフローがあるかで判断する。土地があるとか、何年取引したとかは関係ない。ところが日本の金融は行政指導によって横並び。官僚による計画経済です。日債銀の場合も、官僚と議論するより行動で示す方が早いと思ったわけです。新興企業の発行株式の額面もだれが五万円と決めたのでしょう。革命を成功させるには一般市民の参加が必要です。しかしこの額面では若い人が資本参加しようとしてもなかなかできない。
---IT革命を日本で成功させるには何をすべきでしょうか。
早く新しいパラダイムに変えることです。南北戦争と明治維新はどちらも一八六〇年代に起きていますが、その背景には産業革命があります。農業社会から工業社会に移ったのに、既得権益を持つ層がそれを手放さなかった。だから戦争に訴えたわけです。情報化社会に入った今、今度は大企業や心ある大人たちが若者に既得権益を開放する番です。
(聞き手は編集委員 関口 和一)
▼ソフトバンクが出資する企業は連結で約百五十社。全部入れると四百杜に及び、その多くがインターネット関連企業だ。インフラ事業では東京電力やマイクロソフトなどとスピードネットを設立した。
▼さらに証券取引所のナスダック・ジャパンや日本債券信用銀行へ出資したり、世界銀行の姉妹機関で途上国の民間向け投資を担う国際金融公社(IFC)と提携するなど、国内外でネット事業の拡大に注力している。
IT革命は成功するか2
情報技術(IT)革命の重要な要素が電子商取引だ。オーブンでコストの安いインターネットは流通構造を格段に効率化する。「eビジネス」を標ぼうし、インターネットの普及に力を入れる日本アイ・ビー・エムの北城格太郎会長に日本の情報化の処方箋(せん)を聞く。
日本アイ・ビー・エム会長
北城恪太郎氏(きたしろ・かくたろう)
1944年東京都生まれ。67年慶大工学部卒、日本アイ・ビー・エム入社。72年末カリフォルニア大バークレー校修士課程修了。86年取締役事業推進統括本部長。88年常務営業推進統括担当。専務、副社長を経て、93年社長就任。99年IBMアジア・パシフィック・プレジデントを兼務。同年会長。
---前回登場した孫正義ソフトバンク社長は日本にIT革命を起こすには規制緩和が最も重要だと指摘されました。
孫さんの意見には私も賛成です。「IT革命」と今盛んにいわれていますが、情報技術は以前からありました。新しいのはインターネットです。だから本当は「インターネット革命」と呼ぶべきでしょう。一番の変化はインターネットが新しい社会基盤になろうとしていることです。
今までの法律や制度はインターネットがない時代にできたわけですから、今度はすべての仕組みをインターネットがあることを前提に見直す必要があります。例えば株主総会のやり方や政府への書類申請もそうです。IBMでは役員の選任や評決もインターネットでできるようにしました。
究極のIT革命は紙によるコミュニケーションやビジネスをネットワーク型に替えることです。そうすれば効率も上がるし、省資源で環境にもいい。意思決定のスピードも上がる。情報革命を促すインターネットはちょうど産業革命をもたらした蒸気機関のようなものです。今、世界中の国がこの革命に取り組んでいる。日本も革命に乗らなければ競争力を失うだけです。
--インターネットは米国の覇権だという声もあります。
蒸気機関は英国で生まれましたが、世界中がその利益を享受しました。インターネットも同様です。IT革命は米国型になるというわけではなく、新しい市場主義に基づく透明な制度を皆が作っていくことだと思います。コーポレートガバナンス(企業統治)、教育、人材開発、すべてそうです。日本企業の人事評価はまだ成果主義になっていません。国際競争力を維持するためには、企業だけでなく、官公庁や教育の現場でも成果と処遇が連動する仕組みを作る必要があります。
米国のインターネット革命が成功した一つの理由はベンチャー企業を生む土壌があったからです。私も大学審議会の委員をしていますが、日本では先生がIT革命で何が起きているのかをよく知らない。それは先生自身が新しいことを始めても評価される仕組みになっていないからです。
大企業も同じです。社内役員で固めている日本では、不祥事でもない限り、トップはだれからも批判されない。IT革命にも疎くなります。日本の大企業も社外役員によるチェック機能を持つべきです。
---主要国首脳会議(沖縄サミット)では「lT」が主要議題になります。政府としては何をしていくべきでしょうが。
このあたりは孫さんとニュアンスが違うかもしれませんが、IT革命を推進するには規制緩和だけでなく、政府も率先してIT政策を打ち出す必要があると思います。政府がやれることで即効性があるのは電子政府、すなわち「eガバメント」の確立です。政府の活動が電子化されれば、住民サービスの質も上がる。日本も二〇〇三年には文書申請を電子化するといっていますが、もっと早くして欲しい。シンガポールなどアジア諸国よりも遅い。
各省庁が作っているホームぺージも配置がバラバラで大変わかりにくい。中央省庁だけでなく、地方政府や警察の手続きなども電子化すべきです。米アリゾナ州では車の登録を三百六十五日二十四時間、インターネットで受け付けていますが、六ドル以上していた処理コストが一・六ドルに下がりました。日本は沖縄サミットで電子政府作りの世界ナンバーワンを目指すと表明すべきでしょう。大切なのは政府としてビジョンを示すことです。
もう一つ重要な政府の役割は教育現場の情報化です。米国は今年中に公立学校の全教室をインターネットで結ぶ計画ですが、日本の目標は二〇〇五年度。パソコンやインターネットの導入はすぐにできることです。重要なのはパソコンの使い方を教えるのでなく、理科や社会の勉強にインターネットを活用できるようにすることです。それに日本では遠隔授業で単位もとれません。情報化が経済的格差を生むという「デジタルデハイド」が関心を呼んでいますが、今のままでは日本の子供たちは遅れをとることになります。
---予算編成で「IT重視」が強調されていますが、従来型の公共投資が多いのが実情です。
電子政府というと、日本では光ファイバーなどハードウエアの話になります。マレーシアのようにあえてインフラに力を入れる国もありますが、大切なのは政府自身が情報化し、国民生活が豊かになるようにすることです。
---北城さんはIBM本社のアジア太平洋担当社長としてアジア諸国もご覧になっている。日本のレベルはアジア諸国の中ではどうでしょうか。
真ん中くらいでしょうか。サミットでITに関し途上国支援を打ち出すそうですが、お金は出せても、真ん中では指導できません。アジアではシンガポール、マレーシア、香港、韓国、台湾などが進んでいます"中国も急速に追い上げてきており、日本はもっと努力する必要があるでしょう。
---IBMは「eビジネス」という名称を使っていますね。
「eビジネス」は一言でいえば、インターネットを使って企業経営を効率化することです。「ビジネスモデル」もよく使われる言葉ですが、これは「もうかる仕組み」という意味です。日本は研究開発と製造現場が一体化することで製造業が強くなりました。ところが製品を販売したり管理する部門の効率が悪いために競争力を失っている。企業のIT革命とは、現場の状況がすぐトップに伝わる仕組みを作ること、つまり既存の仕組みをネットに乗せるのではなく、仕組みそのものを見直そうということです。
---IT革命が進むと雇用が減ると心配する経営者もいます。
今までのように変化がゆっくり進んだ時には、雇用を守り、皆で少しずつ痛み分けをしながら変わる方法でよかった。しかし激しい変革の中では、それは通用しません。米国の情報革命でも一時、雇用が減りましたが、やがて福祉とか介護とか新しい分野に雇用がシフトしていきました。従って革命をスムーズに進めるためには、いい仕事をした人は評価し、雇用も流動化する環境を作らねばなりません。
---最近、デジタル家電に関心が集まっています。家竈に強い日本が逆転するチャンスは?
それはおおいにあると思います。日本は意思決定に時間がかかるが、一度動き出すと速い。モノ作りのノウハウは十分持っているわけですから、それにITを付加すれば、再び競争力を増すことは可能です。その意味でも民間企業が変化に対応できるように、政府や教育も変わる必要があります。
(聞き手は編集委員 関口 和一)
▼日本の公立学校におけるインターネットの普及率は三月末現在で約三六%。ただ、これは学校単位の計算で、職員室に端末が一台があれば含まれる。一方、米政府は今年中に公立学校の全教室を接続する計画だ。
▼文部省と郵政省は全教室で使えるように、毎秒一・五メガビットクラスの高速回線を使った接続実験を約千校で始めた。学校単位での接続達成目標は二〇〇一年度だが、全教室への達成目標は二〇〇五年度となる。
IT革命は成功するか3
米ブルッキングス研究所経済研究部長
ロバート・ライタン
Robert E.Litan 1950年米国生まれ。ペンシルベニア大卒、工一ル大で経済学博士号。大統領経済諮間委員会スタッフ(諸規制及び法律間題担当)、司法省連邦検事局次長補などを歴任。行政訴訟、銀行、国際通商問題に関する法律実務家で、インターネットの現状にも詳しい。著書に「ゴーイング・デジタル!」「グローバル化恐怖症」(ともに共著)など。
米国は情報技術(IT)を軸に長期にわたる高い経済成長を実現している。米国の有力シンクタンク、ブルッキングス研究所のロバート・ライタン経済研究部長は、日本でIT革命の速度を上げる近道は、先行する外資を積極的に受け入れ、ノウハウを吸収することだと主張する。
---米国が世界に先駆けてIT革命を実現できた理由は何ですか。
いくつかの要因があります。米政府は国防総省を通じ、インターネット技術を確立するための努力を一九六九年に始めました。長距離電話会社はインターネット普及の基盤となる光ファイバー網を競って構築し、大学などの教育機関による高度な技術教育は、世界中から優秀な学生を集めました。米国には起業家を歓迎する風土がありますが、IT関連のベンチャー企業は社員の能力を引き出すためにストックオプション(自社株購入権)制度を上手に利用しました。こうしたいわゆる「ドット・コム・カンパニー」にベンチャーキャピタル(VC)が積極的に投資。個人投資家のほか、年金ファンドなど機関投資家がVCに出資し、多額の資金がIT企業に流入する好循環ができたのです。
---日本でIT革命を進めるための条件は?
ソフトバンクの孫正義社長は徹底した規制緩和を主張しました。米国の経験の多くを実行してはいかがでしょうか。まず規制緩和によって企業間の競争を促して通信料金を引き下げ、インターネットを利用しやすくします。さらに、技術教育に力を入れてIT革命に必要な人材を育て、企業がストックオプション制度を導入するように奨励するのです。
能力、成果別の賃金体系を確立することも重要です。私は、日本企業が社員の賃金に差をつけたがらないことは-知っていますが、この文化に固執すれば技術革新は進みません。同時に、孫氏が実行しているように、新興のIT企業に出資するVCをもっと多く設立すべきでしょう。
---「米国に学べ」ということですか。
一九八○年代、日本は米国にジャストインタイム(カンバン方式)をはじめとする優れた製造・在庫管理技術をもたらし、米製造業の生産性を飛躍的に高めました。今度は日本が、九〇年代の米国に繁栄をもたらした技術を取り入れ、経済成長を達成する番です。
学ぶべきモデルは米国だけではありません。欧州、アジア諸国のいくつかはITで日本よりも先行しています。先進的なノウハウを導入するため、日本政府は外資受け入れに寛容になるべきではないでしょうか。米資本を核とする投資組合が日本長期信用銀行(現新生銀行)を買収しましたが、交渉の時間は長過ぎました。外資の企業買収は・特別なことではありません。資金と技術をもたらしてくれるならば、それがどの国の企業かは関係ないはずです。
---日本アイ・ビー.エムの北城烙太郎会長は「電子政府」の構築などで日本政府もIT革命を率先すべきだと提言しました。
この面では米国よりもシンガポールなどの方が進んでいます。一般市民が、アマゾン・ドット・コムで本を購入するように、政府からもインターネットを通じて容易にサービスを受けられる社会が理想です。ただ、IT振興の主力は民間企業です。政府は日進月歩で技術が進む「インターネットタイム」についていけない代わりに、企業がIT分野で活発に動ける環境を整えることができます。
日本でも、孫氏に続いてドット・コム・ビジネスに参入する若者は増え、トヨタ自動車のような大企業もITに力を入れ始めています。日本政府はこうした民間の動きを支援する政策を導入していくことが大切です。
---教育機関の役割は?
大学はIT企業の設立や成長を支援できます。米国では大学教授が商業的に有益な技術を開発した場合、そこから利益を得られます。勤務時間内に開発した新技術の権利は大学に譲渡しますが、一般には、その技術による利益の一定の割合が報酬になります。これが技術開発のインセンティブ(誘因)の一つです。日本でもこうした制度を広めたら良いと思います。
--米国経済の繁栄に占めるITの役割はどれほどですか?
半導体価格の下落がコンピューターの価格を下げ、パソコン、ソフトウエア、通信などIT部門の成長につながりました。ただ、「ニューエコノミー」と言われるIT分野が米国経済に占め」る割合は国内総生産(GDP)べ-スで10%程度でしょう。残りの90%は依然として製造業などの「オールドエコノミー」が占めています。ITが米国経済の高い成長に貢献したことに異論を挟む人はいません。しかし、IT分野の進展が「オールドエコノミー」の生産性の伸びや成長にどのくらい影響したかに関してエコノミストらの意見は一致していません。
シリコンバレーの住人などは、インターネットの普及がほかの産業の大幅なコスト削減を実現し、今後も生産性の向上が続くと考えます。IT産業自体も高い生産性を維持し、米国経済は過去になかったような長期で高い成長を続けるとみています。一方、製造業などの生産性向上とITは無関係だとの悲観的な見方もあります。
私自身は、米国から景気循環が消えるほどとは思いませんが、製造業などもIT革命の恩恵を徐々に受けていると考えます。他産業へのITの影響は、今後五年で特に大きくなるでしょう。
---IT革命の大きな課題としてデジタルデハイド(情報化が生む経済格差)が指摘されています。
それは収入の高低によってパソコンの普及率に差がつくという問題でもあります。パソコン価格が一台百ドルくらいまで下がり、低所得層への昔及が進めば次第に解決するでしょう。
デジタルデハイドは豊かな国と貧しい国の間にも存在します。豊かな国からの支援が必要で、中古パソコンを発展途上国に送る手もあります。通信ネットワークをいかに整備するかという問題は残りますが、まずは途上国の人々にパソコンを行き渡らせ、教育を施すことが先決だと考えます。
---lT産業の今後は。
ITは今後も米国経済の原動力の一つであり続けるでしょう。それに加え、今後十年で新たに生命工学が台頭すると多くの人が予測しています。私もヒトゲノム(人間の全遺伝情報)の解析と応用を中心に、生命工学革命には大きな可能性があると考えます。さらに、何らかの形でIT革命と生命工学革命の融合も起きるでしょう。
---lT革命以外に日本経済を再生させる違はありますか。
米国にもかつて、現在の日本のような「雇用なき経済回復」という時期がありました。米国が深刻なインフレを伴わずに失業率を三十年ぶりの低水準に落とすことができた理由は次のような事実の中にあると思います。米国の労働力は極めて流動性が高く、コストが低いパートタイム労働者の利用も増加しました。常に外国企業との競争にさらされることで物価や賃金の上昇が抑えられ、連邦準備理事会(FRB)はほかの国に比べて容易な金融政策を続けることができたのです。こうしたことは日本の参考になるでしょう。
(聞き手は経済解説部 加賀谷 和樹)
▼一九九九年度の外国企業による対日直接投資は前年度の二倍を超える約二百十五億ドル。九八年度に初めて百億ドルの大台に乗った後も急速に伸びている。自動車を含む機械のほか、金融・保険、通信といった成長分野への投資も目立つ。
▼日本市場の将来性を評価する外国企業が経営悪化に悩む日本企業への投資機会を探る一方、地域興しのために外資を積極誘致する地方自治体も多い。
2000/7/23/日