燃え尽き症候群

「心の延命」に目を向け回避

2002//29/火曜日

 

何もかもなげうって夢中になって働いていた人があるときふと、心のエネルギーが底をついてしまっていることに気付くことがある。何をやる元気もなくなり、今まで熱心にやってきたことがむなしく感じられ、空虚感だけが心の中に広がっていく。いわゆる燃え尽き症候群の状態だ。これは、一生懸命仕事をして心身のエネルギーを使い果たしたために起こると一般には考えられている。確かにそうした面は否定できないが、自分がそれだけ力を入れてやってきたことが認められないことの方が、影響としてはずっと大きい。

燃え尽き症候群は、死を迎えた患者を世話するホスピスなどの看護スタッフの間で特に問題になった。医師にしても看護師にしても、患者の病気を治し患者が元気になるための援助をすることを目的とした教育を受けてきた。

ところが、そうした取り組みは死が間近に迫った患者には役立たない。いくらがんばっても、患者は亡くなっていく。努力が報われない状況に、自分がやっていることに疑問がわいてくる。何をやっても無駄だという気持ちになる。

こうしたときには、発想の転換が必要だ。これまでのように、体の健康を取り戻すことだけではなく、心の健康にも目を向けた多面的な発想が大切だ。体の具合が悪くても、痛みをコントロールしながら患者が自分らしく生きられるようにすること、家族や友人、医療スタッフが一緒にいることを患者に分かってもらうこと、何よりも家族や友人との充実した時間を少しでも多く持てるように援助すること。それを私は「体の延命」に対して「心の延命」と呼んだことがある。

「心の延命」は、医療スタッフと患者の心の健康に役に立つ。

(慶応義塾大学保健管理センター教授  大野  裕)